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泣ける“現代のアン”誕生!「アンという名の少女」シーズン1評

厳選!ハマる海外ドラマ

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女性スタッフが集結したことも成功の要因「アンという名の少女」
女性スタッフが集結したことも成功の要因「アンという名の少女」

 イマジネーション豊かで個性的な孤児のアンが、失敗を重ねながらも明るく前向きに生きる物語。カナダの作家L・M・モンゴメリーの小説「赤毛のアン」は未読でも、タイトルを聞けば、多くはそうしたイメージが頭に浮かぶはず。そんな“明るく正しい”イメージに腰が引ける人もいるだろうが、原作のダークな面に着目し、現代的な視点を加えた「アンという名の少女」(カナダのテレビ局CBCとNetflixの共同制作)は、そういう人にこそ観てほしい大人のドラマに仕上がっている。というか、めちゃくちゃ大胆な翻案がなされていて、びっくりするほど新鮮な驚き! あの「赤毛のアン」をベースに、こんなに泣けて現代性のあるドラマができるとは。

新アン・シャーリーは1,800人以上から選ばれた14歳の少女!

 原作との違いで象徴的なのが、これまでのアンの悲惨な体験がフラッシュバックするトラウマ描写。冒頭から何度も何度も描かれるのだが、その度に、もしかしたらアンはつらい現実を生き抜くすべの一つとして想像力を使っているのかも、と思えて悲しくなる。実際に、アンはただ単にユニークで風変わりな女の子ではなく、そうでなければ生きてこられなかったのではないかと思わせるシーンは少なくない。そして第2話になると、本作が今まで観たどの「赤毛のアン」よりもシリアス度が高く、野心的な作品であることは一目瞭然となる。

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 矛盾するようだが、第1話から原作のイメージの再現度の高さには目を奪われる。舞台となるプリンスエドワード島でも撮影されたロケーションの美しさ、窓から差し込む光に包まれるアンの姿など、うっとりするほど詩的な映像美。第1話の監督を手掛ける『クジラの島の少女』(2002)のニキ・カーロが作り上げた映像世界が、シリーズ全体の基調となっているのだが、これだけでも観る価値があると言っておきたい。さらにアンを引き取る兄妹マシューとマリラは原作から抜け出たようだし、何より1,800人以上の中から選ばれたという14歳のカナダの新鋭エイミーベス・マクナルティのアンは、まさに原作のイメージそのもの。同時に、子供らしさの対極にあるような異質さも含めて、これまでに観たどのアンとも違うという感覚は、“「赤毛のアン」であって、そうではない”といった本シリーズ全体にも言えるかもしれない。

 全話の脚本を手掛けて作品の方向性を決定づけているのは、「ブレイキング・バッド」のプロデューサーの一人として二つのエミー賞作品賞(ドラマシリーズ)を受賞、脚本家としても同賞に輝くモイラ・ウォリー=ベケット。女優でもあるベケットを筆頭に、ニキ・カーロほかエピソード監督、編集、撮影などの本作のメインスタッフは、ほぼ女性。そう聞けば想像できる通り、要所要所でのフェミニズムは意図的に明確だし、現代性を重視したドラマ独自のアプローチに面白みがある。

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 例えば、原作とは違い、学校で生々しく厳しい扱いを受けるアンが、授業中に先生に指されて、感情たっぷりに得意満面で大好きな文学を音読するくだり。褒めてもらえるものとばかり思っていたアンの予想に反して、みんながクスクス笑い出し、先生も味方してくれず途方に暮れる姿に、はみ出し者の気持ちを重ねてじわっと涙がこみ上げてくる。空気が読めない(全くイヤな言葉だ!)とか浮いてしまうことの居心地の悪さや戸惑いは、今の時代だからこそリアルに迫るものがあるのでは。別に孤児で超個性的な新入りじゃなくてたって、学校でうまくやるのは難しいものだ。

 アンとギルバートの関係性は今時っぽく“大人”な感じだし、マリラやマシューの胸に秘めた淡いロマンスなど、原作にはない人物の背景や内面の描写もがんがん出てくる。そうしたオリジナルの要素には、ままならない人生を不器用に生きてきた人々の、複雑な感情の機微がにじむ。この時代、この場所に生まれた女性として、人生に選択肢などなかったと自覚するマリラが、牧師の話が古くさいとぼやくアンに対して「自分で何になるのか決めなさい」と語るくだりなど、人物の背景描写が密だからこそ胸に響くセリフやシーンは多い。

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 もっとも、アンが想像力豊かであること、マリラやマシューが未婚であることなどに、いちいち理由付けなど必要ないと考える人もいるかもしれない。熱烈な原作ファンの中には、これじゃない! と反発を覚える人もいるのではないか。一方で、ひたすら原作の再現性が高く、お約束の名シーンが次々と展開するようなドラマが、果たして現代の目の肥えた視聴者に受け入れられるのだろうかとも。

 ドラマを観た後、どうしても読みたくなって村岡花子訳の原作を10年ぶりぐらいに読み返したが、思った以上に想像の余地はあるし、以前は気に留めなかった重要な指摘がドラマでなされていることを実感した。批判を恐れず、作り手たちが挑んだ新たな視点にこそ、本作の真価があると思う。これこそが“現代のアン”なのだと思わずにはいられない。

「アンという名の少女」(原題:Anne with an E)
評価:90点
感動 ★★★★★
ロマンス ★★★☆☆
視聴方法:シーズン1(全7話)はNetflixで配信中

今祥枝(いま・さちえ)/映画・海外ドラマ ライター。「BAILA(バイラ)」「日経エンタテインメント!」ほかで執筆。著書に「海外ドラマ10年史」(日経BP社)。こぢんまりとした人間ドラマ&ミステリーが大好物。作品のセレクトは5点満点で3点以上が目安です。

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