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西島秀俊が世界レベルの俳優に成長するまで 『ドライブ・マイ・カー』で賞レース席巻!

映画『ドライブ・マイ・カー』より主人公・家福を演じる西島秀俊
映画『ドライブ・マイ・カー』より主人公・家福を演じる西島秀俊 - (C) 2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

 第74回カンヌ国際映画祭での日本映画初の脚本賞、第79回ゴールデン・グローブ賞の作品賞-非英語作品(旧・外国語映画賞)などを受賞し、世界の映画賞を席巻し続けている濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(公開中)。村上春樹の短編小説を原作にした本作の成功は、共同脚本も手がけた濱口監督の並々ならぬ才能によるところが大きいが、それだけではない。妻を亡くした喪失感と向き合う俳優・演出家の主人公・家福を禁欲的な芝居で体現した、主演の西島秀俊の存在なくしてこの快挙はあり得なかったと言ってもいいだろう。(イソガイマサト)

【動画】西島秀俊『ドライブ・マイ・カー』の魅力語る

 その証拠に西島の名演は世界的に高く評価され、全米映画批評家協会賞の主演男優賞をアジア人の俳優として初めて受賞。ボストン映画批評家協会賞の主演男優賞にも輝き、その年を代表する俳優を選ぶニューヨーク・タイムズ紙の名物企画「Great Performers/The Best Actors of 2021」の13人の中に、アジアからただ一人選出されている。

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アイドル路線からの方向転換

 だが、ここまでの道のりは決して平たんなものではなかった。俳優デビューから間もなく筒井道隆木村拓哉らと共演した1993年の大ヒットドラマ「あすなろ白書」で同性愛者の美青年を演じて注目を集めたが、当時所属していた大手プロダクションを辞めるという大きな決断を下し、1998年から2001年までの期間は民放テレビドラマに出演していない。

 当時はシネフィルの西島を渋谷のミニシアターでよく見かけたし、ミニシアターをハシゴした後に今日がクリスマス・イヴだと気づいたというエピソードも。アジア映画の祭典、東京フィルメックスにも毎年のように通い、アート系の映画監督が来日した際には舞台挨拶のトークゲストとしてシネフィルらしい質問をしていたものだが、その行動が次第に仕事へと結びついていく。

 西島はインディーズの世界で若き才能たちと次々に出会い、いまの役者としての彼の根幹をなす多くのことを学んでいった。その最初の出会いが、諏訪敦彦監督の『2/デュオ』(1997)と黒沢清監督の『ニンゲン合格』(1999)だ。前者ではシナリオのない即興演出の洗礼を受け言葉を必死に絞り出す術を習得し、後者では長い昏睡状態から目覚めた青年という難役に挑戦して第9回日本映画プロフェッショナル大賞の主演男優賞を受賞。2人の監督に刺激を受け、映画がとてつもないものであることを改めて知った彼は、いろいろなことが試せるインディーズの世界で、何にも縛られない自由な芝居を自分のものにしていった。

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 一方、津軽弁の画家をコミカルに演じたNHKの連続テレビ小説「純情きらり」(2006)でお茶の間の話題を集めると、長らく遠ざかっていった民放ドラマにも帰還。「ストロベリーナイト」シリーズ(2012~13)などの大ヒットドラマで主要なキャラを演じ、映画ファン以外の人たちの人気も取り戻していったのは周知の通りだ。

北野武監督作品を皮切りに海外でも活躍

 そんな何にでもなれる西島を、監督やプロデューサーが放っておくわけがない。尊敬する北野武監督から抜擢された主演作『Dolls ドールズ』(2002)がベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品されていたこともあり、海外の映画人も西島に注目。海外の作品にも積極的に参加するようになる。中でも、西島が審査員を務めた2005年の第6回東京フィルメックスで出会い、意気投合したイランのアミール・ナデリ監督の『CUT』(2011)に主演したことは、西島にとっても大きな体験だったことは想像に難くない。

 本作で西島が演じた主人公の秀二は、“殴られ屋”としてパンチの連打を浴びながら、「真の映画とは何か!?」を訴え続ける、ナデリの生きざまとも重なる映画監督。ナデリ監督は当時「この役を演じられるのは、身体的な演技ができる西島しかいない」と語っていて、撮影現場では西島を「誰とも喋るな! 演技に集中しろ!」と追い込んでいた。

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 「自分は欲張りだから、何でもやりたい」。常々そう言っていた西島だが、人気連続ドラマを映画化した『劇場版 MOZU』(2015)では危険なアクションに挑戦。筋肉量を増やすために体重を5キロ増量して、見た目にもガッチリした肉体に改造。肋骨にひびが入っても撮影を続けた。

 俳優として逞しく進化した西島は、大きく舵を切り、2019年の連続ドラマ「きのう何食べた?」ではゲイの弁護士“シロさん”をユーモラスに演じて新たなファンを獲得。昨年のNHKの連続テレビ小説「おかえりモネ」でも、清原果耶が演じたヒロインを指導する気象予報キャスターに安定感のある芝居で説得力をもたらしていた。

試練尽くしだった『ドライブ・マイ・カー』

 だが、『ドライブ・マイ・カー』の現場はそんな西島でも初めての試練と挑戦の連続だった。本作では、濱口竜介監督が海外で映画賞を多く受賞した大作『ハッピーアワー』(2015)に続いて、フランスの名匠ジャン・ルノワールが使っていた「イタリア式本読み」のメソッドを採用。西島はテストのときから感情を入れずに何度も何度も台本のセリフを口に出し、ほかのキャストが同じように感情を入れずに何度も繰り返すセリフに耳を傾けた。しかも、映画には出てこない登場人物たちの過去のやりとりも同じように反復し、撮影現場で追加・修正される膨大なセリフを身体に覚えさせていったのである。

 つまり、そうすることでセリフがセリフではなくなり、西島が演じた役柄の内面を感じさせる生きた言葉として観る者に迫るようになった。それも、俳優の芝居に厳しいアメリカの批評家たちも絶賛した理由の一つではないだろうか。ニューヨーク・タイムズ紙も「Great Performers/The Best Actors of 2021」に西島を選出した理由を「彼の控えめでメランコリックな芝居は鋭いウイットと痛烈で批判的な知性を隠し持っていて、それが、家福と彼の置かれた状況についての観客の思い込みを静かに解く鍵になっている」と述べている。また、昨年の東京国際映画祭「アジア交流ラウンジ」にリモートで参加したタイの俊英アピチャッポン・ウィーラセタクン(『ブンミおじさんの森』)も「今までで一番の演技だった」と絶賛した。

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 アカデミー賞主演男優賞のノミネートにも期待がかかる一方、当の本人は変わらず休むことなく走り続けている。現在、主演ドラマ「真犯人フラグ」(日本テレビ系)が放送中、松本潤と初共演した映画『99.9-刑事専門弁護士- THE MOVIE』が公開中。この後も庵野秀明が企画・脚本を担当した、樋口真嗣監督の『シン・ウルトラマン』(5月13日公開)が控えている。また、『孤狼の血』シリーズの白石和彌監督が放つ今年配信予定の「仮面ライダーBLACK SUN」では念願だったタイトルロールのヒーローを熱演! 西島秀俊の夢と野望の実現はまだまだ始まったばかりなのかもしれない。

西島秀俊、主演作がカンヌ映画祭コンペ出品!「俳優として素晴らしい体験」『ドライブ・マイ・カー』壮行会イベント » 動画の詳細
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