シネマトゥデイ

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私的映画宣言 サード・シーズン4月

「私的映画宣言」は今回で最終回となります。長らくのご愛読ありがとうございました。


筆者の近況報告

山縣みどり

ヘレン・ミレンが再びエリザベス女王を演じる舞台と、ジュディ・デンチ様がベン・ウィショーと共演する舞台を観たいがためだけにロンドン旅行を決定。でもアベノミクスのせいで気楽に海外旅行できなくなりそうだから悲しいわ~。
●4月公開の私的オススメは『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(4月公開)と『天使の分け前』(4月13日公開)

森直人

ちょいちょい出させてもらっている日本映画専門チャンネルの番組『ザ☆ベスト THE☆BEST』、今月放送分にも出演しております。
●4月公開の私的オススメは『君と歩く世界』(4月6日公開)

相馬学

自転車で動きたくなる春。不忍通りや皇居のほとりを疾走するのが気持ち良くて、多少時間がかかっても試写室通いにチャリを利用してしまう。イイ季節です。
●4月公開の私的オススメは『もののけ姫』より激しく「生きろ!」を感じた『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』(4月20日公開)

小林真里

2月はマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのライブを東京&大阪で4回観ることができ、連日至福のごう音を浴びて昇天。4月はトライベッカ映画祭の取材で2週間強ニューヨークに行くことになりました。
●4月公開の私的オススメは『ホーリー・モーターズ』(4月6日公開)と『君と歩く世界』(4月6日公開)

前田かおり

仕事のため、韓国ドラマ見まくり中。医療ドラマの「シンドローム」を見たら、何とこれ、人の脳をいじくり回す、トンデモない脳外科医のドロドロ陰謀劇。演じているのはキム・ギドク常連のチョ・ジェヒョン。背筋も凍るマッドサイエンティストぶりに驚がく。
●4月公開の私的オススメは『君と歩く世界』(4月6日公開)、『海と大陸』(4月6日公開)

『舟を編む』


(C) 2013「舟を編む」製作委員会

2012年本屋大賞に輝いた三浦しをんの小説を、『川の底からこんにちは』などの石井裕也監督が実写映画化。ある出版社の寄せ集め編集部が、気の遠くなるような歳月をかけて二十数万語が収録された新辞書作りに挑む姿をユーモラスに描く。辞書の編さんに没頭する主人公・馬締光也には、三浦原作の『まほろ駅前多田便利軒』にも出演した松田龍平。彼が一目ぼれするヒロインには、『ツレがうつになりまして。』宮崎あおいがふんするほか、オダギリジョーら多彩な顔ぶれがそろう。

[出演]松田龍平、宮崎あおい
[監督]石井裕也

山縣みどり

7点見終わって、心の中に温かな光が差し込んだような気分になれる作品だった。時とともに進化し、新造される言葉を用例採集し、語彙(ごい)や語釈を探求し、編さんされる辞書。10年近くも地道な努力を続ける編集者や言語学者の姿勢を「プロジェクトX」的な感動に着地させるのは簡単だが、淡々とした演出を選んだ監督、偉い! 肩の力が抜けた演技がこなれてきた松田龍平が漫画のキャラっぽい変人編集者を熱演。こういう人と仕事をして、「その言葉の使い方、違います」とか言われてみたいかも。

森直人

7点想定した期待値をぴったり出したようなウエルメイド作品。原作の脚色としては、出版界の「文系のスポコン」話にIT(電子)化の波を重ね合わせたところがうまい。石井裕也監督が『川の底からこんにちは』『ハラがコレなんで』など、オリジナル脚本で描いてきた時代批評としてのアナログ、アナクロ賛歌とつながっている。ただ欲をいえば、ちょっと安全圏でまとまり過ぎている気もするけど……。役者陣は皆素晴らしく、「まほろ駅前」シリーズ(同じ三浦しをん原作)のダルな役とは真逆の松田龍平はもちろん、新人編集者役の黒木華がいい!

相馬学

8点辞書が編さんされるまでの十数年の年月に主人公の成長を重ねた物語はメルヘン風で、ロマンスの点では甘さはあるものの、瞬時の結果を求められる現代の寓話(ぐうわ)として気持ち良く観た。親になる人もいれば亡くなる人もいる、15年の時の流れ重みが、しっかり踏まえられており、メルヘンでも地に足が着いている点に好感。時の流れといえば、小林薫が28年の時を経て、『それから』の共演者の息子と同じフレームに収まっていることにも映画ファンとして感慨を覚えた。

小林真里

4点主要登場人物の多くが大手出版社の編集者にもかかわらず語彙(ごい)が妙に乏しかったり、どのキャラクターもそのセリフが魅力に欠けたりするが(奇妙な間合いの中途半端なダイアローグの数々も、ふに落ちない)、それ以上に宮崎あおい演じるキャラのつくり込みの浅さと薄っぺらさが強烈で、観ていてドキドキした。原作と脚本のどちらに問題があるのかは定かではないが。題材自体は興味深いし、人畜無害の健全な娯楽作品だと思うが、スローに長尺で語る物語ではないと思う。

前田かおり

7点生真面目な辞書編集者・馬締を演じる松田龍平。ドラマ「まほろ駅前番外地」の脱力男・行天もそうだが、いかにもいそうな男の空気をまとうのがうまい。それに「まほろ~」に、『探偵はBARにいる』に本作、松田はバディーものでいい味を出す。否、相手の味を引き出す。本作ではオダギリジョー。酔っぱらって男泣きの爆弾発言シーンには、思わずグッときた。ほか監修者役の加藤剛、絶対ブレない感じはさすが、「大岡越前」(笑)。というワケでいいキャストを得た石井監督、辞書をこよなく愛し、言葉を慈しむ人々の思いを丁寧にすくっている。

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『リンカーン』


(C) 2012 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION and DREAMWORKS II DISTRIBUTION CO., LLC

巨匠スティーヴン・スピルバーグによる、第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンの伝記ドラマ。奴隷制の廃止と禁止を強固なものにし、泥沼化した南北戦争を終結させるため、憲法の修正に挑むリンカーンの戦いを重厚なタッチで映し出していく。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』などのダニエル・デイ=ルイスがリンカーンにふんし、国と人民の未来をめぐる理想と現実に苦悩する彼の胸中を見事に体現。『50/50 フィフティ・フィフティ』ジョセフ・ゴードン=レヴィットら、脇を固める実力派の妙演も見逃せない。

[出演]ダニエル・デイ=ルイス、サリー・フィールド
[監督]スティーヴン・スピルバーグ

山縣みどり

10点奴隷解放の父として神格化された感もあるリンカーン大統領が深謀遠慮をめぐらす姿に焦点を合わせたスピルバーグ監督の視点が素晴らしい。本作のリンカーンは単なる清廉潔白な理想主義者ではなく、大事を成すために小悪に手を染めることをもいとわないゲーム・メーカーとして描かれる。ロビイストや賄賂を使って反対派を懐柔していく展開がスリリングだし、大統領の目的を察してラジカルな思想を棚上げするスティーブンス議員の逸話も感動的。脚本家トニー・クシュナーの筆がさえまくる! 緩急を付けた演出や役者陣の好演はじめ、全てにおいて欠点が見当たらない傑作。

森直人

7点先日のアカデミー賞では堅い本命かと思いきや、意外なほど振るわなかったので「あれっ?」と思い……。実際に作品を観てみると、なるほど、ものすご~く地味だった(笑)。でも筆者個人としては逆に好感を持ったなあ。いわゆる定型の伝記映画にすることは避け、ジョン・フォード監督の『若き日のリンカン』とは逆に、扱っているのは晩年のみ。しかも政治家同士のパワーゲームに話を絞っている。つまりリンカーンの生涯を神話化するのではなく、「戦略の達人」の面を強調することで優れたリーダーシップをめぐる「構造」を描いたのだ。歴史の美化ではなく、現実の法則を見据えたソリッドな秀作だと思う。

相馬学

8点酸いも甘いもかみ分けるスピルバーグの伝記映画。『シンドラーのリスト』と同様に、美談としての偉人伝に終始するはずがない。法案を必死に通そうとするリンカーンの策略家の面が描かれているので、ヒューマニストの面も生きてくる。その辺のバランス感覚が絶妙で、改めてスピルバーグのうまさを実感した。政治的な駆け引きの描写が多いので、注意力を途切れさせずに観ることをお勧めしたい。しかし単純に面白いと言い切れないのは、現代の日本にはこのようにしてあしき法案を通そうとしている人がいる……という不安を喚起するからか。

小林真里

6点アメリカ人の誰もが敬愛するエイブラハム・リンカーンがまるで憑依(ひょうい)したかのような、ダニエル・デイ=ルイス(英国人)のキャリア集大成ともいえるベスト・パフォーマンスは一見の価値あり。脇を固める数々のくせ者キャストの顔ぶれも地味に豪華で、予想外の配役に歓喜する瞬間も。政治家同士の議論や駆け引きなど地味で字幕を目で追うのが疲れるシーンも少なくないが、残虐大将スピルバーグらしい凄惨(せいさん)な場面もしっかりフィーチャーされていて、そこは面目躍如。

前田かおり

8点頑迷なまでに信念を貫く大統領リンカーンをダニエル・デイ=ルイスが圧倒的な存在感で体現する。すごっ! と思ったのは、側近たちに対して、指の腹で机をベシッ、ベシッとたたいて、げきを飛ばす。その迫力に、忍耐、信念の人リンカーンを感じる。陰影あるヤヌス・カミンスキーの映像もいい。当初はリーアム・ニーソンが演じるはずだったが、議員相手に根回しし、家の中では口やかましい妻(サリー・フィールド)、ハマリ過ぎ)にご機嫌取りしてわが身を削るリンカーンには、やっぱりダニエルだな。

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『藁の楯 わらのたて』


(C) 木内一裕 / 講談社 (C) 2013映画「藁の楯」製作委員会

『ビー・バップ・ハイスクール』シリーズで知られる漫画家の木内一裕の小説家としてのデビュー作品を、三池崇史監督が映画化したサスペンス・アクション。凶悪な殺人犯に10億円の懸賞金がかかり、犯人を移送することになった刑事たちの緊迫した道程をスリリングに描く。正義とは何かと揺れる思いを抱きながら、命懸けで犯人を移送する警視庁警備部SPを演じるのは大沢たかお松嶋菜々子。少女を惨殺した殺人犯には藤原竜也がふんする。常に油断できない展開であっといわせる三池監督の演出が、サスペンスで生かされることが期待できる。

[出演]大沢たかお、松嶋菜々子
[監督]三池崇史

山縣みどり

5点モラルや司法制度の在り方に疑問を投げ掛ける監督の意気込みは伝わってくる。護送を担当する精鋭がいちばん怖いのは「武器を手にでき、訓練された者」と同僚を指し示すあたりも納得。でもね、大沢たかお演じる主人公以外は精鋭が精鋭に見えないの。福岡から東京に移動する間に次々と倒れなければならない都合上だけど、驚くような失策もするし……。また人身保護のプロである主人公は感情を殺して仕事にまい進する前提だから、葛藤がイマイチ伝わらないのが難点。彼の心中で渦巻いているはずの憎悪を観客に想像させるシーンがあったらよかったのに。

森直人

7点リアリティーの面からいうとツッコミどころが非常に多いけど、その脇の甘さも含めて『新幹線大爆破』など、1970年代の日本映画娯楽大作を復活させたような大ぶりの熱気があって好きな作品。善悪の判断が反転したような状況の中で、それでも職務に殉じようとするハードコア・サラリーマンなSP(大沢たかお)を主人公に置いた物語は、ほとんど「日本人論」の思考実験。じりじりするけど、吸引力は強い。メインキャストに大芝居系の俳優が多いせいか、演出タッチも極太の筆致(顔のドアップがやたら多い)。藤原竜也演じるサイコパスの殺人犯は、『悪の教典』の主人公(伊藤英明)の陰画かと。

相馬学

8点振り返って冷静に考えると、クライマックスの展開のように「あり得ねえなあ」と思うところもあるが、少なくとも観ている間はテンションの高さに引っ張られて緊張を強いられる。主人公の苦境に引きずり込まれる一方で、「自分ならどうやって10億円をせしめるか?」と考えつつ、返す刀で現代の世知辛さを痛感させる。このような感情の振り幅の大きさが本作の醍醐味(だいごみ)。クローズアップの多い映画だが、それに応える役者たちの顔力にもうなった。

小林真里

5点その過激な設定から物議を醸すセンセーショナルな衝撃作を想像していたのだが、全然違った。アクションもかなり控えめ。新幹線車中での銃撃戦は日本映画にしては珍しいガン・アクションの様相を呈していたが、エキサイティングなわけではなく、日本人と銃器との距離感の問題からか珍妙な展開に。新幹線一本で最後まで突き進んでほしかったが、途中からあまりスリリングではないロードムービーになってしまったのは、何とも残念。

前田かおり

6点序盤から派手なアクションをどんどん突っ込み、新幹線内部でのヤクザ映画ムンムンなシーンには、食い入った。サプライズは襲撃者の一人に、「欽ドン! 良い子悪い子普通の子」の長江健次。誰よ、これ? ってぐらいの変わり様。九州から東京まで乗り物を乗り継いでの旅で、若干、間延びしたかなと思うと驚きの出来事発生で、お楽しみは満載。大沢&松嶋も硬質な演技で必殺仕事人的なキャラを好演。何より、三池組帰還の藤原竜也の狂気ぶり。女児を持つファミリーはゾッとするんじゃないか。

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筆者プロフィール

今 祥枝斉藤 博昭前田 かおり
中山 治美相馬 学高山 亜紀
小林 真里山縣 みどり森 直人
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