シネマトゥデイ

第70回ベネチア国際映画祭で3作品が上映!君は国際派俳優・國村隼を知っているか?

 世界三大映画祭の一つである第70回ベネチア国際映画祭(現地時間8月28日から9月7日まで開催)に、俳優・國村隼出演の3作品『地獄でなぜ悪い』(オリゾンティ部門)、『風立ちぬ』(コンペティション部門)、『許されざる者』(特別招待上映)が選出された。これはハリウッドスターでもめったにない快挙。まさに“國村イヤー”となるベネチア映画祭開催を前に、3作品の魅力と國村の足跡をたどってみたい。(取材・文:中山治美、写真:奥山智明)

海外で高い評価を受ける出演作

地獄でなぜ悪い
主演映画『地獄でなぜ悪い』の上映に合わせて現地入り (C)2012「地獄でなぜ悪い」製作委員会

國村隼(以下、國村):これはある意味巡り合わせでたまたまだと思うんですけど、気が付いたら3作品が選ばれていた。でも海外の映画祭に参加するのは、今回が初めてなんです。

 ベネチア映画祭の話になると國村の頬が緩んだ。主演を務めた『地獄でなぜ悪い』の上映に合わせて現地入りするのだ。海外映画祭初参加となる國村だが、出演作の多くは海外で高い評価を得ている。河瀬直美監督が第50回カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を受賞した『萌の朱雀』(1997)に始まり、三池崇史監督の名を世界に知らしめた『オーディション』(2000)、第63回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映された北野武監督『アウトレイジ』(2010)、そして第66回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞も記憶に新しい是枝裕和監督『そして父になる』(2013)など。作品を見極める鋭い嗅覚があるに違いない。

そして父になる
第66回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した『そして父になる』にも出演 (C)2013『そして父になる』製作委員会

國村:いや、僕が作品を選ぶのではなく(事務所の)社長が。僕は頂いた話を「なるほど」と引き受けるだけです。ただ『萌の朱雀』のときは、海外の人が見たことのないであろう奈良の深い森で、共存している人たちの姿は新鮮に映るだろうなとは思いました。

 『萌の朱雀』は河瀬監督が初めて手掛けた長編劇映画。それ以前は自身の生い立ちをめぐるセルフドキュメンタリーが中心で演出力は未知数だったが、國村はそのドキュメンタリー作品を観て出演を決めたという。

國村:ドキュメンタリーなんですが、ドラマ的な構成がしっかりありました。河瀬監督に「撮れた素材だけで編集したの?」と尋ねたら、「編集している過程で、ここにこういう映像が欲しいとなったら撮り足していた」という答えが返ってきたので、彼女はフィクションを構成する力を持っているんだと確信したんです。

 ただし、撮影は難航した。河瀬監督が目指したのは「ドキュメンタリーとフィクションの間」。出演者はその土地に生きる人たちで、演技経験を持つのは國村ただ一人。國村は、西吉野で伸びやかに暮らしていた家族の人生を変えてしまう、失踪する父親を演じた。

國村:カメラを回すまでに1週間ぐらいかかっていました。僕も「何かが違う」とテスト映像を見たら、僕と地元の方の質感が違う。彼らは俳優ではありませんからどうしてもカメラに“撮られている”という意識が出てしまうんです。どうすればいいのか長いこと悩んで、結局、カメラが回っていないところでも擬似家族のような関係を作っていくことにしたんです。最終的に彼らの目に、僕が父親として映ったらいいなと。役に近づくアプローチの方法としてありだなと思いましたけど、撮影以外のときの方が芝居している感覚でした。

 同作は河瀬監督の名を世界にとどろかせただけでなく、國村の初主演映画であり、女優・尾野真千子の映画デビュー作でもある。日本映画史を語る上で欠かせない作品となった。

ハリウッド、そして香港を拠点に2年半

國村隼
海外作品にも多数出演した國村隼「でも出来上がったモノは“光と影のエンターテインメント”であることは変わらず」

 國村の存在は、早くから海外で注目されていた。きっかけは、オーディションを経て参加したリドリー・スコット監督の『ブラック・レイン』(1989)。偽造紙幣をめぐって日米刑事が共闘する同作は、ハリウッド進出を夢見た松田優作さんの遺作として知られる。國村は、松田さんが演じたヤクザ・佐藤の手下・吉本役で出演した。高倉健マイケル・ダグラスを相手にした最後の銃撃戦のシ−ンはあまりにも有名だ。

國村:『ガキ帝国』(1981)で映画デビューして2作目がハリウッドでしょ。その間10年も空いていますが、同じ映画なのに場所もシステムもこうも違うのかと思う一方、でも出来上がったモノは“光と影のエンターテインメント”であることは変わらず。改めて映画というメディアの大きさを感じました。

 『ブラック・レイン』への出演が反響を呼び、國村の元には香港映画界からもオファーが届くようになる。そして出演したのが、レオン・カーフェイ×アニタ・ムイ共演の『さらば英雄/愛と銃撃の彼方に』(1991)やジョン・ウー監督×チョウ・ユンファの人気作『ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌』(1992)など。香港映画界が最もアツかった時代を体験した貴重な存在だ。

國村隼
香港映画界が最もアツかった時代、約2年半にわたり香港を拠点に活動した

國村:1997年の返還前で、香港映画界は乱作気味でした。ある日、レオン・カーフェイが撮影の合間もずっと立っているから「何してんの?」と尋ねたら、「座ったら寝ちゃうから」と言ったので驚きました。当時彼は14作品を並行して撮影していたんですよ(笑)。その一方で、ジョン・ウー監督は「この時期に撮影しないという選択だって大事なんだよ」と言っていました。「中国に返還される前に撮影して、お金に換えてしまえ!」という風潮の中でも冷静に考えていました。

 國村は、約2年半にわたり香港を拠点に活動した。広東語ができないため、選び取る役は日本人で、かつ、ステレオタイプなキャラクターは避けた。当時の香港映画界は物語が盗まれることを恐れて脚本を製本しなかったのだが、國村はせめてシノプシス(概要)だけでも出してほしいと条件を付けた。それでも國村の鋭い眼光と無国籍なたたずまいは香港映画で異彩を放ち、出演依頼が相次いだ。

國村:前日にプロデューサーから電話があって「君にピッタリの役があるけど、明日来ない?」と。大体そんな感じです(笑)。

 今も昔も“役づくり”という言葉に「違和感を感じる」と言う國村。「現場の雰囲気や状況で空気を感じて」芝居をする手法は、フレキシブルな対応が必要とされたこの香港時代の経験によるものが大きいようだ。

國村:もし役づくりがあるとするなら、日常生きている中で自分が惹(ひ)かれた人たちを観察し、何かの脚本を読んだときに「あのとき、電車で乗り合わせたオヤジがいけるかなぁ」と参考にすることはありますけどね。自分でも“にわか芝居”みたいなやっちゃなと思います(笑)。

タランティーノから熱烈オファー!

 國村は出演を決める際、自分が演じる役柄や脚本を重視するという。だが、例外もある。「この人と仕事をしたら面白そう」という監督への興味だ。クエンティン・タランティーノ監督が日本で撮影した映画『キル・ビル Vol.1』(2003)にヤクザの親分・田中役で出演したときがそうだった。

國村:三池監督の『殺し屋1』(2001)でインテリヤクザ・船鬼を演じていた僕を見て連絡をくれたようです。会いに行ったらいきなり「俺が相手役をやるから」とオーディションを始めて、揚げ句にダメ出しもあって、いろいろパタ−ンを変えてやりました(笑)。それからです。「この脚本をどう思う?」と聞かれたのは。なので、正直に「典型的な日本のヤクザ。ステレオタイプ」と答えたんですよ。にもかかわらず「興味ある?」と聞いてきたから、「うーん、あんまり」(笑)と。

 それでもタランティーノ監督はどうしても國村に出演してほしかったのだろう。後日、改めてオファーを出した。そんなタランティーノ監督に興味を持った國村も出演を快諾。そして、東京を牛耳ることになったオーレン石井(ルーシー・リュー)に異論を唱えた田中(國村)が、刀で首をスッパリはねられるという印象的なシーンが誕生した。

國村:タランティーノはエキセントリックなだけでなく、繊細な一面もありました。オーレン石井の演説を聞く場面で、僕の横に来たと思ったら「田中の心の移り変わりが見たいんだ。よろしくね」とささやいていったりするんです。

許されざる者
李相日監督作『許されざる者』では勤皇志士・北大路正春を演じる (C)2013 Warner Entertainment Japan Inc.

 タランティーノ監督しかり、國村は一筋縄ではいかない監督たちを惹(ひ)き付けるようだ。井筒和幸阪本順治崔洋一豊田利晃板尾創路是枝裕和など。今回、ベネチア映画祭に参加する『許されざる者』李相日監督にしてもそうだ。國村が演じるのは、賞金と武勇伝欲しさに未開の地にやって来た勤皇の志士・北大路正春。クリント・イーストウッド主演・監督のオリジナル版では、リチャード・ハリスが演じた役回りだ。

國村:クリント・イーストウッド版は劇場で観てものすごく好きな作品だったので、出演できてうれしかったですね。しかもセリフをほとんど変えずに上手に日本版に移植していた。『69 sixty nine』(2004)のときもそうでしたが、李監督は「これは違う」と思い始めたら答えが見つかるまで粘る人。その分、役者やスタッフが大変な思いをするんだけど、李監督はそれらを全部引き受ける覚悟がある。だから皆、愚痴を言いながらも付いていくんですよね。しかも出来上がった作品は、「なるほど」と思わせるモノに仕上がっているんですから、すごいですよ。

俳優・國村隼の新たな章が始まる

地獄でなぜ悪い
自身初となる園子温監督作品『地獄でなぜ悪い』 (C)2012「地獄でなぜ悪い」製作委員会

 國村は今年で、NHK連続テレビ小説「鮎のうた」で俳優デビューして以来34年になる。だが芝居の神様は、國村にまだまだ楽な道を与えない。これまでの経験や概念を一から考え直させるような作品との出会いを用意していた。それが、自身初となる園子温監督作品『地獄でなぜ悪い』だ。

國村:園さんは現場に入ったら、身を削りながら自分のビジョンを突き詰めているようなところがありますから、この人と同じテンションじゃないとこの現場に居られない。そういう意味でも、これまでと違うアプローチの芝居をしてみようと思ったんです。

 國村演じるヤクザの組長・武藤は、獄中にいる妻(友近)の願いをかなえるため、娘(二階堂ふみ)の主演映画製作を画策。武藤の思いと永遠の映画少年(長谷川博己)の夢が絡み合い、本物のヤクザを起用した究極のバイオレンス映画を製作するという血沸き肉躍る作品だ。

地獄でなぜ悪い
これまでと違うアプローチの芝居をしたというヤクザの組長・武藤役は必見 (C)2012「地獄でなぜ悪い」製作委員会

國村:僕は舞台から俳優を始めたワケですが、その頃はどうしても自分の中にたまっているエネルギーをステージで発散していたようなところがあったんですね。そうしないと芝居をした気がしなかった。でもそれは、お客さんにとってはたまったもんじゃないですよね。それが映像の仕事を始めてから、何か、自分の思いよりも、ワンカットの中で被写体である自分はどう存在するか? そっちの方が重要であることに気付いたんです。そうすると芝居も、何かを足すのではなく、要らないとこをどんどん引いていく作業になりましたね。でも今回の武藤役は、ただ椅子に座っている場面でも、彼の内包しているエネルギーがスクリーンに映るようにしなければならない。ならばいっぺん、今までの方法を真逆に振った方がええなと思ったんです。この作品を一つの節目に、他の作品でも違うアプローチの方法を模索したら面白いんじゃないか? 足し算するのも面白いのではないか? そう思わせてくれた作品なんです。

風立ちぬ
宮崎駿監督作『風立ちぬ』では主人公・堀越二郎(庵野秀明)の上司・服部の声を担当 (C)2013 二馬力・GNDHDDTK

 宮崎駿監督の『風立ちぬ』でも國村は新たな挑戦をしている。優しく響く、渋い声が特徴の國村だが、アニメーションの声優はこれが初めて。主人公・堀越二郎(庵野秀明)の上司である服部の声を担当した。

國村:久しぶりにドキドキしました。宮崎監督からは「キャラクターの年齢などを意識せず、そのままの声でいいです」と言われたのですが、難しいんですよ。自分が演じた映像にアフレコする作業は慣れているんですけど、まずアニメがあって、そのキャラクターに声を映し込んでいく作業は。でも、面白くもありました。終わってから「あっ、そうか」と気付いたりして。できれば、またやらせてもらいたいです。

 これら俳優人生の節目となった作品がベネチアで羽ばたくのを見守ることになったのは、決して偶然ではないのだろう。

國村:せっかくコンペ部門に参加させていただくのならば、何か頂いて帰ってきたいですね!

國村隼57歳。ベネチア映画祭のレッドカーペットが、新たな俳優人生の花道となりそうだ。

映画『風立ちぬ』は公開中
映画『許されざる者』は9月13日より全国公開
映画『地獄でなぜ悪い』は9月28日より新宿バルト9ほか全国公開

國村隼

■プロフィール

國村隼

 1955年生まれ、大阪府出身。井筒和幸監督『ガキ帝国』(1981)で映画デビュー。『ブラック・レイン』(1989)、『ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌』(1992)、『キル・ビル Vol.1』(2003)などの海外作品にも出演。近年では、中島哲也監督『パコと魔法の絵本』(2008)、和泉聖治監督『相棒-劇場版II- 警視庁占拠!特命係の一番長い夜』(2010)、北野武監督『アウトレイジ』(2010)、松本人志監督『さや侍』(2011)など多数出演している。

 2013年は、二つの主演作の園子温監督『地獄でなぜ悪い』やまさき十三監督『あさひるばん』をはじめ、『風立ちぬ』『少年H』『許されざる者』『そして父になる』などが次々と公開される。2014年は、塩田明彦監督『抱きしめたい』、中島哲也監督『渇き。』などが公開予定。主演ドラマは「行列48時間」(2009 / NHK・ギャラクシー賞受賞)、「妻を看取る日~国立がんセンター名誉総長 喪失と再生の日々」(2010 / NHK BShi・ATP賞受賞)などがある。2013年は、NHKテレビ放送60周念記念ドラマ「メイドインジャパン」、フジテレビ系連続ドラマ「スターマン・この星の恋」(放送中)、Nコン80回記念ドラマ「はじまりの歌」(NHK総合 / 9月23日放送)、スペシャル時代劇「雲霧仁左衛門」(NHK BSプレミアム / 10月放送予定)などに出演。

[PR]

この記事を共有する

映画アクセスランキング
  • Loading...
»もっとランキングを見る«
スポンサード リンク
スポンサード リンク