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エルメスの名品4つと映画~バーキンやケリーに受け継がれる伝統【映画に見る憧れのブランド~第3回エルメス】

エルメス
風格漂うエルメス - Matthew Lloyd / Getty Images

 こんにちは、映画で美活する映画美容ライターの此花さくやです。

 エルメスの創業は1837年。馬具職人であったティエリ・エルメスがパリに高級馬具製造の工房を開いたのが発端となった職人を中心とするファミリービジネスです。馬車が主な交通手段であった19世紀にエルメスはヨーロッパ中の王侯貴族を顧客にもつ馬具商へと発展しました。しかし、20世紀に入り自動車が主要な交通手段となり、馬具の市場がどんどん縮小され、馬具の職人技術は存続の危機を迎えることに。エルメスは培われた職人の技を絶やさないためにも、鞍作りに使われていた職人の手仕事を生かして、バッグなどの革製品を作り始めました。

 日本でも大人気のケリーやバーキンは、一つのバッグを作り上げるのに一人の職人がまる2日以上かけて作ります。職人一人一人が精魂込めて作りあげるバッグには、どのアトリエで誰がいつ作ったのかが分かる記号、アルファベット、数字が刻印されています。そのバッグを作った職人が責任をもって修理することができるように……。

 職人の手仕事による稀有な家業を受け継ぐエルメス。大企業グループの傘下に入ってはおらず同族経営を続けており、セレブを使った広告をうちだし“高級”なイメージを確立することで利益を追求するラグジュアリーブランドとは一線を画しています。

 今回は、そんなエルメスの名品4つと映画から、エルメスの軌跡を辿りたいと思います。

1:1923年 ファスナーを取り付けた世界初のバッグ、ブガッティ(現在のボリード)

ブガッティ
ブガッティ発表時の広告より - Keystone-France / Gamma-Rapho via Getty Images

 エルメスとファスナーの出会いは、1914年に始まった第一次世界大戦で入隊していたティエリの孫、エミール・モーリス・エルメスの任務中でした。アメリカ軍の自動車の幌に装着されていたファスナーを見つけたエミールは、エルメス製品に取り入れることを思いつきます。

 早速ファスナーの特許を取ったエミールは1920年に発売されていたバッグにファスナーを取り付けて、1923年にブガッティ(現在のボリード)として発表。この名前の由来は、高性能スポーツカーやレースカーを製造していた自動車会社にちなんだもの。そこには、“馬車の時代が終わり自動車の時代が来ても、エルメスは時代をリードする”という固い決意がこめられていました。

 実際、バッグの中身がこぼれないブガッティ(ボリード)は、その実用性でセンセーションを巻き起こし、ファスナーは“エルメス・ファスナー”と呼ばれエルメスの先見性を世間に知らしめました。

 さて、ウィル・スミスがデート・ドクターとしてモテない男性に恋愛を指南するラブコメ映画『最後の恋のはじめ方』(2005年)には、ボリードが登場。映画の終盤で、大富豪の美女アレグラ(アンバー・ヴァレッタ)が、テーブルに無造作にバッグを投げ出すシーンがあります。

 そう、エルメスのバッグは高級品だからといって、そっと優しく扱うのではなく、日常生活で思う存分使える頑丈なもの。その秘密は、鞍を縫う特別な縫い方“クウジュ・セリエ”にあります。これは、蜜蝋があらかじめ付けられて補強された麻糸に2本の針を通して、ひとつの穴に左右から2度糸を通して縛るように縫っていく方法。万一、1本の糸が切れても残りの1本があるのでほつれにくく、非常に丈夫なバッグが出来上がります。絶対に機械では作れず、エルメスの職人しか成し遂げられない手仕事なのです。

2:1937年 世界の希少な物語を語り続けるカレ

カレ
映画『クィーン』よりカレを身に着けるヘレン・ミレン演じるエリザベス女王 - Miramax / Photofest / ゲッティイメージズ

 エルメス独特の世界観を感じさせるのはバッグだけではありません。世界中のどこかで20秒に1枚売れているシルクスカーフのカレ(フランス語で”正方形“と言う意味)もそう。映画『クィーン』(2006年)ではヘレン・ミレン演じるエリザベス女王がカレを様々なシーンで愛用。犬の散歩、ピクニックやドライブなど普段着に加えるカレは、大人女性のお手本にしたいもの。現実でもエリザベス女王は本当にカレのファンらしく、落馬で骨折した際にはギブスをカレで吊っていたという逸話があるほど!

 カレは春夏と秋冬の年に2回新作が出ます。テーマが決定されてから製品が出来上がるまで18か月もかかります。染料でさえ自社で配合しており、赤だけでも5万色に及ぶ配合を保存しているのだとか。部分的には機械化されていても、全工程に必ず職人の手仕事が必要とされているのです。そして、カレが素晴らしいのは、1枚1枚に文学作品ともいえるような物語が表現されている点。例えば、2017年春夏コレクションの「ステップのアパルーサ」は中央アジアのキルギス共和国の伝統的なモチーフに、アメリカの先住民族、ネズ・パース族が長いときをかけて育て上げてきた馬の姿を重ねています。馬の背景のデザインは、“シルダック”と呼ばれるキルギスのフェルトの絨毯にインスピレーションを得たもの。

 このように、カレは世界の希少な文化を忠実に描写することによって歴史的な伝統を現代に甦らせて、独自の煽情的な美しさを創り出しているのです。

3:1956年 プリンセス・ストーリーを体現したケリー

ケリー
ケリーバックを持って登場したグレース・ケリー - Howard Sochurek / The LIFE Picture Collection / Getty Images

 馬具作りから発展したエルメスの原点は“実用性”。その証拠に、1892年に発表された定番バッグ、サック・ア・フロアや前述のブガッティ(ボリード)の基本的なデザインは変わっていませんが、時代のニーズにあわせてサイズや商品名を調整してきたのをご存知でしょうか?

 1950年代はカラー写真を載せた雑誌やテレビの普及で、スターの日常生活が人々の身近になった時代。1956年に、妊娠中のモナコ王妃であるグレース・ケリーが、カメラのフラッシュから大きなお腹をサック・ア・フロアで隠すように振舞った場面がLIFE誌に激写されました。この写真を見て、エルメス4代目社長ロベール・デュマはすぐにモナコ王室に電話。このバッグをケリーと命名することの許可をモナコ王室から取りつけました。

 ハリウッド女優からプリンセスへと華麗なる転身を遂げたグレース・ケリー。そんな彼女は、1950年代における「よき妻、よき母」というサクセス・ストーリーの象徴。女性の憧れをバッグのアイコンにすることによって、サック・ア・フロアをケリーへと新しく生まれ変わらせたのです。

 また、ケリーはエルメス製品の“定番”としてバリエーションが多く、時代によって変化する女性のニーズに応えてリュック型からショルダー型まで、様々なスタイルとサイズ展開をしています。多くのブランドのように、次から次へと新しい製品をうちだして消費サイクルを加速させるのではなく、同じ製品のネーミング、サイズ、スタイルを調整し続けるエルメスからは、「長く使い続けてほしい」という想いが感じられます。

ケリー
『ル・ディヴォース/パリに恋して』より赤が印象的なクロコダイルのケリー - 写真:Album/アフロ

 映画『ル・ディヴォース/パリに恋して』(2003年)ではケイト・ハドソン扮するイザベルが姉ロキシー(ナオミ・ワッツ)を訪れるためにカリフォルニアからパリに渡ることから始まる物語。フランス人とアメリカ人の価値観の違いとイザベルの成長を描いたコメディーですが、このストーリーの要になるのがなんとケリー

 パリに到着したときは、ルーズなパンツにビーサンという典型的なカリフォルニア・スタイルを纏っていたイザベルが年上で既婚のフランス人男性から赤いクロコダイルのケリーを贈られてからは、シックなパリジェンヌに変身していきます。長いウェイビーヘアはストレートボブに、デニムはテイラードパンツに、ヴィンテージのベルベットジャケットはクロエのトレンチコートに……。パリのエレガントなスタイルに身を包み、大人の女性へと成長していくイザベル。

 本作に登場するケリーは、イザベルが経験する“大人の恋”のメタファー。イザベルの心の成長とともに変貌するファッション、そしてラストシーンでケリーに起こる思いがけない事件は必見です!

4:1984年 成功した女性のシンボル、バーキン

バーキン
これぞまさしくジェーン流バーキンの使い方! - Michel Dufour / WireImage / ゲッティイメージズ

 米ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」でサマンサ(キム・キャトラル)がバーキン欲しさにとんでもない騒動を起こすエピソードを覚えていますか? ニューヨークのエルメス店舗で“5年待ちだ”と告げられて頭に血が上ったサマンサは、あろうことかクライアントであるルーシー・リューの名を使ってバーキンをなんとか手に入れようとします。

 職人が生産できる量よりも圧倒的に多い注文のせいで、数年待ちが当たり前のバーキンは、女優ジェーン・バーキンのために作られたことは有名ですよね。1984年、エルメス5代目社長ジャン=ルイ・デュマは飛行機でジェーンと乗り合わせ、彼女が持つ籠のバッグの中身があふれ出そうになっているのを見て、大容量の実用的なバッグを作ることを約束しました。

 その当時、“熟年マダムの御用達ブランド”というイメージが定着していたエルメス。自由奔放でコケティッシュな新しいタイプの女性として台頭してきたジェーン・バーキンをアイコンに実用的なバッグを発表することで、エルメスは若い女性の注目の的に。この最高級品のバッグにステッカー、数珠、お守りを無造作につけて楽しむジェーンの自由な発想は、保守的なイメージが強かったエルメスに新しい風を吹き込みました。

 「バーキンが買えるぐらい仕事で成功する!」1970年代の女性解放によって社会進出を果たした女性たちにとって、バーキンは“成功した女性”のシンボルになったのです。  
 
 19世紀から伝承されてきた馬具の職人技に新しい創造性を加えた製品と、徹底的なアフターサービスを提供するエルメス。壊れたエルメス製品をブティックに持って行くと、必要に応じてアトリエから職人を呼んでくれます。「修理を繰り返して愛着をもって使ってほしい」という職人の想い、「上質のものを長く使い続けたい」という客の想い……そんな職人と客の想いをつなげるのが、エルメス。
 エミール・エルメスの曾孫で現エルメス・インターナショナルCEOのアクセル・デュマはこう語ります。「(5代目社長の)ジャン=ルイ・デュマがこんなことを言っていました。エルメスはラグジュアリー・ブランドではない。我々は職人なのだ、と」(「完全保存版 エルメスの秘密。」pen[ペン]No.422 2017より)。
 
 
【参考】
エルメス公式サイト

中公文庫コミック版「エルメスの道」竹宮恵子

新潮社「エルメス」戸矢理衣奈

新潮社「エスプリ思考」川島蓉子

CCC メディアハウス 「完全保存版 エルメスの秘密。」pen[ペン]No.422 2017

此花さくやプロフィール

此花

 「映画で美活する」映画美容ライター/MAMEW骨筋メイク(R)公認アドバイザー。洋画好きが高じて高3のときに渡米。1999年NYファッション工科大学(F.I.T)でファッションと関連業界の国際貿易とマーケティング学科を卒業。卒業後はシャネルや資生堂アメリカなどでメイク製品のマーケティングに携わる。2007年の出産を機にビジネス翻訳家・美容ライターとして活動開始。執筆実績に扶桑社「女子SPA!」「メディアジーン」「cafeglobe」、小学館「美レンジャー」、コンデナスト・ジャパン「VOGUE GIRL」など。海外セレブのファッション・メイク分析が生きがいで、映画のファッションやメイクHow Toを発信中!

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