ショート動画全盛期だからこそ知りたい長尺映画の意味とは?
映画たて・よこ・ななめ見!
ジブリで宮崎駿監督の出待ちをしちゃうほど映画大好きな村本大輔と、映画に関しては素人同然の中川パラダイスが、あらゆる角度からブッ飛んだ視点で映画トーク。今回は、第79回カンヌ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞したことで話題となった映画『急に具合が悪くなる』を鑑賞。3時間半という上映時間にビビりながらも、“長い映画”が持つ力に大感動しました。(取材・文:森田真帆)
今回の映画は『急に具合が悪くなる』(6月19日公開)です。
宮野真生子と磯野真穂の著書を原作に描くヒューマンドラマ。パリ郊外を舞台に、介護施設の施設長と、がん治療中の日本人演出家との交流を映し出す。監督などを手掛けるのは『ドライブ・マイ・カー』『悪は存在しない』などの濱口竜介。『ベネデッタ』などのヴィルジニー・エフィラ、『ウルヴァリン:SAMURAI』などで俳優としてだけでなく、モデルや監督としても活動する岡本多緒らがキャストに名を連ねる。
意味のある長さに納得

村本大輔(以下、村本):この映画はカンヌ国際映画祭で話題になったから観たい! と思ってリクエストしたんやけど、正直最初さ、3時間半って聞いた時点で「うわ、長っ」ってなるやん。でも観てみたら、意外とあっという間に観られたんよな。ただ、中川が大丈夫かってずっと心配しとったわ。
中川パラダイス(以下、中川):いや、せやねん。あっという間に観られたね。最初は「村本、何を選んでくれてんねん」って思ったけど(笑)。でも、長いけど意味がある長さやったわ。
村本:老人ホームとか介護の場面も、タイトにしすぎたら丁寧さがなくなるもんな。あの時間をちゃんと使うから、そこで生きている人たちの感じが伝わってくるというか。
中川:そうそう。おじいちゃん、おばあちゃんをただ“施設の人”として映しているんじゃなくて、ちゃんと人として見せている感じがした。あの長さがあるからこそ、介護ってこんなに時間がかかることなんやってわかる。
村本:今って、動画も1分じゃないと観てもらえへんとか言うやん。オレもネタを編集するとき、1分に収めなあかんかなって削るねん。でもこの映画は真逆で、ずっと長い会話を聞かせる。それがちゃんと評価されてるのがすごいよな。
中川:長いけど、無駄はなかったもんね。
介護のシーンが丁寧に描かれている
中川:僕がめっちゃ印象に残ってるのは、おばあちゃんを二人でお風呂に入れるシーン。あそこのシーンってさ、普通の映画やったらあんなに時間取らへんと思うねん。
村本:確かに、めっちゃ長かった。
中川:やろ。もうさ、介護専門チャンネルくらいの長さやったやん。ずーっと見てるっていうかさ。でも、結果的にそれが良かったんよ。介護ってこのぐらい時間がかかることやし、丁寧にやろうとしたら人手もいる。でも時間をかけすぎると仕事として成立しにくくなる。その現実まで全部伝わってきた。それに、自分のオカンが介護必要になった時のことまでいろいろ考えさせられたわ。ちゃんと目え見ながら入れたげなあかんなって。
村本:パラダイスがそんなこと言うなんてな。ブリキのサイコに感情が芽生えた瞬間やん。
中川:ブリキのサイコってなんやねん(笑)。
村本:いや、いつも人をゆっくり殺すことしか考えてへん男が、おばあちゃんをゆっくりお風呂入れるシーン観て「お母さんがああなった時に、ちゃんと目を見てやってあげたい」みたいなこと言うてるわけやん。映画ってすごいな。パラダイスに人間の心を取り戻させたんやから。
中川:どんだけやばいやつやねん(笑)。でもほんまに、あのシーンはそう思った。相手に不安を感じさせないように接するって、簡単そうでめちゃくちゃ大事なことやなって。
村本:それこそ、この映画の良さやな。社会問題を大声で叫んでいるわけじゃないのに、観てるうちに考えてしまう。
心に響く演劇の醍醐味
中川:劇中劇のシーンは、最初ちょっと戸惑ったけどな。ああいう前衛的な演劇って、僕は観たことないしさ。ちょっと意味わからんかったし、日本やと受け入れられにくそうやなって思った。
村本:意味わからんって帰る人もおるやろうな。
中川:でも最後のほうで、障がいを持つ子どもが入ってきたり、おじいちゃんおばあちゃんたちも加わったりするやん。あそこは良かった。決められたことだけをやるんじゃなくて、ハプニングもそのまま受け入れる感じがして。
村本:良い芝居の時ほど、人が入ってくるんかなって思ったわ。テンションが上がって、思わず入っちゃうみたいな。
中川:そうそう。心に響いたから入ってくるってことやもんな。演劇って自由でいいんや、みたいな寛容さがあった。村本がひとりでスタンドアップやってる時も、そういう感じで外国人が入ってきたりしたことあるん?
村本:それはあるよ。日本にいる時から、オレがしゃべってるのに、横でワーワー言ってるヤツがおったしな。
中川:それ、僕やん! 相方な! テンション上がって入ってきたんちゃうねん。仕事でツッコんどってん、こっちは(笑)。
村本:オレも沖縄で、障がいを持つ人たちの前でライブしたことあってん。ずっと叫んでいる人もおるし、車椅子の人もおるし、最初は「オチ聞こえへんやん」とか気にしてしまう。でも家族や周りの人は慣れているし、こっちが勝手にリスクばっか考えてるんよな。でもリスクばっか考えていたら、誰も混ざれへん社会になるなって考えさせられたわ。
ゆっくり会話を楽しむ映画
村本:この映画、会話がめちゃくちゃ多いやん。施設の部屋で、都会はリベラルで田舎は保守的になっていく、みたいな話をずっとしてたり。
中川:普通やったら飽きそうやけど、不思議と聞けたな。
村本:声のトーンとか、空気感もあるんやろな。あの女優さんたち、二人とも知らんかったけど、なんかめっちゃええトーンちゃうかった? 濱口監督の映画って、淡々としゃべっているのに聞けてしまうんが不思議やったわ。逆に残るというか。
中川:あと、日本語とフランス語とか、いろんな言葉で会話するところもすごかった。演技のこととか、普段そんなに気にせえへんけど、「この人たち、どれだけ練習したんやろ」って思ってしまったもん。
村本:言葉が違っても、会話としてちゃんと成立しているのがすごいよな。「あなたのことをまだ知らないことがたくさんある」みたいな会話、普通せえへんやん。ああいう友情の作り方も面白かった。
中川:3時間半見終わったら、ちゃんと良い作品を観た感じがあった。
村本:ほんまに。最初にも言ったけど、TikTokとか短い動画ばっかりの時代に、長く、ゆっくり、人の話を聞く映画。美味しいコーヒーでも飲みながら、映画館でじっくり観たい作品やね。
『急に具合が悪くなる』6月19日公開
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ウーマンラッシュアワー・プロフィール
2008年に結成された、村本大輔と中川パラダイスによるお笑いコンビ。2011年「ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞受賞、2012年「THE MANZAI 2012」決勝進出、2013年NHK上方漫才コンテスト優勝など数々の賞に輝き、4月に東京進出。「THE MANZAI 2013」で見事優勝し、3代目王者に輝いた。
村本大輔
1980年生まれ。福井県出身。自分でも「ネットに書き込まれるうわさはほとんどが事実です!」と認めている、自称・ゲス野郎芸人。だがその一方で、ジブリ作品やピクサーなどの心温まるアニメが大好きで、映画『あなたへ』で号泣するほどのピュアな一面も持ち合わせる大の映画好き。水産高校に通っていたため(中退)、お魚系や海洋ネタにも意外に詳しい。
中川パラダイス
1981年生まれ。大阪府出身。これまで10回もコンビ解散している村本と唯一トラブルもなくコンビを続けている広い心の持ち主。2012年に入籍し、現在1児の子育てを満喫中のイクメンパパでもある。映画に関しては、「王道なものしか観ない」というフツーレベル。


