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ビクトル・エリセも来場!“考える場としての映画祭”プント・デ・ビスタ(スペイン)

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観客でぎっしりの映画祭会場。年齢層は高め。 映画祭は総合芸術文化センター・バルアルテ内にある3つのコンフェレンス・ルーム(97席~740席)で行われる。

【第58回】
 スペインのパンプローナと言えば、作家アーネスト・ヘミングウェイの小説「日はまた昇る」の舞台。その中で描かれた牛追い祭り(サン・フェルミン祭)は、今や世界的に知られる祭りとなった。そんなアカデミックな香り漂う街で「視点」という名を持つプント・デ・ビスタ(ナバーラ国際ドキュメンタリー映画祭)が開催。第11回(3月6日~11日)を山形国際ドキュメンタリー映画祭理事の藤岡朝子さんがリポートします。(取材・文:中山治美、写真:藤岡朝子、プント・デ・ビスタ)

プント・デ・ビスタ(ナバーラ国際ドキュメンタリー映画祭)

芸術監督は公募制!

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今年のコンペティション部門の審査員メンバー。(写真左から)アラン・フレッシャー監督(フランス)、アレクサンドル・バラクラ監督(ウクライナ)、アーティストのトビー・リー(米国)、プログラマー&批評家のダニエレ・ドットリニ(イタリア)の4名。
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会場は、城壁公園に面した緑豊かな場所にある総合芸術文化センター・バルアルテ。地元ナバーラ州の建築家パチ・マンガロによるスタイリッシュなデザイン。

 映画祭の前身は、ビデオやアニメ、ドキュメンタリーを紹介するナバーラ・オーディオビジュアル・クリエーション・フェスティバル(1993年~2002年)。2005年にドキュメンタリー作家たちのミーティング・ポイントとして現映画祭がスタートした。プント・デ・ビスタという映画祭名は、『新学期・操行ゼロ』(1933)などで知られるフランスの映画監督ジャン・ヴィゴの言葉から名付けられている。

 2006年から公募制による4年任期の芸術監督を置き、今年は、初の長編ドキュメンタリー映画『エマク・バキアを探して』が山形国際ドキュメンタリー映画祭2015で上映されたオスカル・アレグリアの任期満了年。次回からは、1981年生まれの映像作家ガルビネ・オルテガが就任することが発表された。

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こちらはインタラクティブなドキュメンタリー、題して「Etiquette」(エチケット)。二人一組で鑑賞・体験をするAutoteatroと呼ばれるジャンルで、ヘッドホンから流れる指示に従い、自ら物語を演じる。二人の共同作業が大事ということで「エチケット」。なるほど。

 「昨今は世界的に、『先物買いの興奮』や『商売のための市場』が人を集わせる原動力となっているドキュメンタリー映画祭が増殖、拡大膨張している感があります。プント・デ・ビスタはそういう競争ゲームに振り回されない、ヨーロッパらしい“考える場としての映画祭”を守り続けようとしている映画祭だと思います。選ばれている作品も、ワールドセールス会社などついていないような低予算のアート系ドキュメンタリーや実験的な作品ばかりです。次回は新芸術監督になりますが、作品選考の責任者の掲げたテーマに応じてセレクションが大きく異なるという意味においても、世界の新作を並べる映画祭というより、現代アートのビエンナーレのような印象を受けます。実際、2010年に参加した時は街中の映画館が会場でしたが、最近は、真っ黒な花崗岩で覆われた現代建築が目を惹く総合芸術文化センター・バルアルテで開催されており、エリートな先端芸術という印象が否めず、かつての庶民的な温かさはなくなったが、ある意味、アート系映画が美術館に守られずには存在できないという時代の要請に合致しているのかもしれません」(藤岡)。

 観客は30代~60代の白人が中心で「パンプローナの街で少なくない北アフリカやアラブ系の人たちの姿はほとんど見られませんでした」(藤岡さん)。また北米や、フランス・スペイン各都市で行われている映画祭のプログラマーや映像関係者の姿もあったという。

ビクトル・エリセ監督も来場!

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ホルヘ・オテイサの特集上映に、ふらっと鑑賞にきたビクトル・エリセ監督(写真右)。映画ファンなら大興奮する一幕。しかし、映画祭の芸術監督オスカル・アレグリアとなにやら険しい表情で会話中。

 映画祭のプログラムは、オフィシャル・セレクション、レトロスペクティブ、パネルディスカッションやワークショップを行うスペシャル・セッション、バスク地方を筆頭にスペインの若手育成のための短編製作企画「Xフィルム・プロジェクト」の4つ。今年は「飛行」をテーマにした短編特集や、ジャン・ヴィゴ監督の娘で、評論家やプログラマーとして活躍し、今年2月に亡くなったリュス・ヴィゴ(享年85)へのトリビュート企画なども行われた。

 中でも藤岡さんが最も印象に残った作品は、短編コンペティション部門のイスマリ・バーリ監督『フォイヤー(原題) / Foyer』(チュニジア・フランス)だという。同作は、最優秀短編映画賞を受賞し、賞金3,000ユーロ(約36万円、1ユーロ=120円換算)が贈られた。

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会場前に設置された映画祭ポスター。偶然現れた飛行機雲が、今年のテーマであるVOLAR(スペイン語で飛行の意味)と書かれたポスターに突き刺さった!

 「チュニスの町に三脚に乗せたカメラを置き、通りがかりの風景をとらえている。ところがレンズには一枚の紙が貼り付けられており、それが風と共にひらひらと揺れて、風景が見えそうで見えない。つまり、ほとんどずっと白い画面なのだが、光や風の加減で明るさや色味が変わり、時間の経過の中で自然の息遣いと偶然性とが呼応している。そんな中、通りがかりの人の話声が聞こえる。そのおしゃべりや音声から、老若男女のごく普通の人たちの生活が見えて(聞こえて)きて、暮らしぶりの厳しさやら、家族関係やら、川遊びする少年たちの若さやら、カメラを持って路上に立っていることの危険(警察に連行される)がわかるように作品ができている。手法は実験的できわめてアートなのに、一般人の暮らしの底辺にある喜怒哀楽をがっつりつかんでいることが素晴らしい。私は、初期のNHKバラエティー『鶴瓶の家族に乾杯』が大好きだったが、そこに通じる、偶然から人とのつながりが生まれるドキュメンタリーの感動を感じ、ダントツで胸に迫るものがありました」(藤岡さん)。

 また、地元の著名な彫刻家・画家・現代芸術の理論家であるホルヘ・オテイサの特集上映「オテイサ、ザ・フィルムメーカー・ウィズアウト・シネマ」の上映に、バスク出身のビクトル・エリセ監督の姿もあったという。「エリセ監督の『ミツバチのささやき』は私の歴代映画ナンバーワン。その憧れの監督にホテルの朝食ビュッフェで、コーヒーマシンの操作を教えてあげる機会を得て、鼻血が出そうだった」(藤岡さん)。日頃、山形国際ドキュメンタリー映画祭や、東京フィルメックスの通訳などで凛々しい姿を見せている藤岡さんの意外な一面を発見!

日本はドキュメンタリーも内向き?

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コンペティション部門授賞式の様子。プント・デ・ビスタ賞(最優秀作品賞)の、ミランダ・ペネル監督『ザ・ホスト(原題) / The Host』(イギリス)には副賞1万ユーロ(約120万円、1ユーロ=120円換算)が贈られた。
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藤岡さんは幼少期を欧米で過ごし、映画配給会社、写真家助手を経て、1993年から山形国際ドキュメンタリー映画祭の運営に携わっている。通訳や字幕翻訳でもお馴染み。世界中のドキュメンタリストや自主映画界では姉御的存在として知られている。

 スペインの中でもフランスとの国境に近い、地方都市で開催されている映画祭ということも影響しているのか、日本を含め、今年はアジアからの作品はほとんどなかったという。

 「GW中にカナダ・トロントで開催された、北米最大のドキュメンタリー映画祭 Hot Docs では今年、日本特集も組まれ、ラーメンからアイドルまで様々なテーマを扱った作品が10本近く上映されたので一概に日本のドキュメンタリーが世界に出ていないとは言えないが、ドキュメンタリー映画のテイストが商業的か社会批判か二極化している中、トピック主義ではない作品で勝負している日本の作品は今、世界に伝わりにくいのかもしれない。それは言葉の問題ではなく、内向きの心優しい映画ばかりを、優しい日本の観客が察して理解してあげるという日本ならではの高度成熟した“寄り添いドキュメンタリー”の充実が、外部にある世界を見ていない作品群を増殖させてしまっていることの限界ではないかと思います」(藤岡さん)。

 山形国際ドキュメンタリー映画祭の元プログラマーで、海外セールスなども手がけている藤岡さんの言葉は、日本のドキュメンタリー作家たちにどのように響くだろうか。

“シエスタ”ありマス

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パンプローナはナバーラ王国(9世紀~17世紀)の首都。街には歴史的建造物が多数残り、街の北側にあるフランス門あたりからは、要塞跡も見ることができる。その先に、ピレネー山脈の自然が広がる。
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宿泊したホテル・メゾンナーベの趣あるバー。「地元のシュワシュワした美味しいお酒を飲んだ」と藤岡さん。おそらくバスク地方で愛飲されている微発泡白ワイン・チャコリ。現地へ行ったら、ぜひお試しを。

 パンプローナまでは欧州各都市からビルバオ空港に入り、そこからバスで約1時間、またはマドリードやバルセロナから列車で共に約3時間。今回、藤岡さんは映画祭側の招待で参加し、東京-マドリード間の往復チケットと、ヘミングウェイも宿泊した老舗ホテル・メゾンナーベ6泊分が支給されたという。「ホテルは1913年創業で2008年にも宿泊しましたが、2013年に改装されてモダンで機能的になっていました。ここは、生ハムやトルティージャ(スペイン風オムレツ)が並ぶ、充実した朝食ビュッフェが最高です。またランチは、映画祭がミールクーポンを出してくれ、一流レストランのコースとワインを堪能しました」(藤岡さん)。日頃、藤岡さんが映画祭に参加する時は何らかの仕事絡みがほとんどだが今回は任務もなく、いち映画ファンに戻って映画祭を楽しんだという。

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フランシスコ会の創設者サンフランシスコ・デ・アシスの銅像のある公園に、桜に似た花が咲いていた。隣の小学校の終業時間近くになると、お迎えの保護者でいっぱいになる。

 「時期的に春の兆しを感じさせる陽気もあり、広場のベンチに座って通りがかりの人たちを眺めたり、町並みを散歩する時間が十分にあって楽しみました。パンプローナでは午後1時から4時ぐらいはシエスタで商店もすべて閉じられ、夕方5時頃に広場にいるとどこからともなくじわじわと人が集まり、それぞれが挨拶したりおしゃべりをしている。女性もいれば、お年よりやら若い兄ちゃんみたいな人がいたり、犬を連れた人とか、スケボー持ってる人とか。何かと思ったら小学校のお迎えの保護者たちだった。こういう偶然を“自分で発見”する楽しみがおすすめです。また、映画祭がなければなかなか行くことのないこういう場所は、一日でも余裕を作って滞在を延ばすといいと思います。パンプローナはサンティアゴ・デ・コンポステーラという巡礼の道の通る町。1~2時間でも歩いてみると、風景も美しく、どこか心も洗われるような気持になります」(藤岡さん)。

 巡礼の道については、フランス映画『サン・ジャックへの道』(2005)やエミリオ・エステヴェス監督『星の旅人たち』(2010)が詳しい。現地に行く際には、ぜひ予習を。

芸術監督交代でどう変わる!?

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映画祭会期中は連夜、オープンスペースでライブを開催。このゆるゆるとした雰囲気がお祭りらしくてイイ!
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映画祭終了後に発表された新芸術監督のガルビネ・オルテガ。公募制で、映画祭の評議委員によって選ばれた。バスク州ビトリア=ガステイスのカルチャーセンター「モンテエルモーソ」のプログラマーや、ビルバオにある文化複合施設アスクナ・セントロアのプログラムアドバイザーを務めていたという。任期は2018年5月31日まで。手腕を発揮できるか!?

 同映画祭は、政権によって隔年開催の時期もあったが「スペインの中でもナバラ州は自治性も強く、わりに映画祭の運営予算は安定しているようです」(藤岡さん)という。ただし前述したように来年から新芸術監督になるため、映画祭の方針が大きく変わる可能性がある。新たなテーマは「ノンフィクションの領域における様々な芸術分野の交換・協同を探求する」と、「映画祭を核に新たな観客を育成し、一般市民の参加と想像を促す」だという。

 「これは今、日本の各地方で行われているアート・ビエンナーレやトリエンナーレ同様の“市民参加型”を重視する方向に近いのかな? と思いました。ドキュメンタリー映画を社会批評の知的なメディアと捉えた前芸術監督のアレグリア氏のコンセプトから、より実践的で具体的な“行動のツール”と考えるプログラムへの移行は、さすがM15運動世代(※2011年にマドリードで行われたスペイン最大の市民運動。N.Y.のオキュパイ運動の先駆け)と感じました」(藤岡さん)。新芸術監督の手腕に注目したい。

今年は山形の年!

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米国シアトルでバーを経営している映画評論家が、カウンターに入って自ら腕を振るってカクテルを作っていた。「出張映画バー。日本でもできそう」(藤岡さん)。

 藤岡さんが理事を務める山形国際ドキュメンタリー映画祭は山形市の市制100周年記念行事として1989年に創設され、隔年開催。今年は開催年にあたり、2017年10月5日~12日に行われる。地方都市での開催ながら、例年会期中、約2万5,000人を動員する。日中は映画鑑賞し、夜は漬物店・香味庵に集い、観客もゲストも入り混じって酒を片手に交流するのが名物だ。

 「ボランティアの募集も夏頃に始まる予定です。観客としてでも、ボランティアとしてでも、2年に一度のヤマガタを体験しに来てください。浴びるように映画を観るのも良し、新しい出会いに身をさらすオープンな気持ちで参加するといいですよ」(藤岡さん)。

 ドキュメンタリーというと難しいというイメージを持たれがちだが、映画祭に参加し、製作者の思いに触れるとまた作品の印象が変わるはず。山形開催時には、東京からのお得な旅行パックも用意されるので要チェック。

山形国際ドキュメンタリー映画祭

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