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『ピエロの赤い鼻』ジャン・ベッケル監督独占インタビュー

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『ピエロの赤い鼻』ジャン・ベッケル監督独占インタビュー

取材・文:渡邉ひかる

ミシェル・カンの世界的ベストセラー小説を映画化した珠玉のヒューマンドラマ『ピエロの赤い鼻』。ピエロの格好をして人々を楽しませることを常とする初老の小学校教師ジャックの辛く、ほろ苦い戦争体験が明らかになっていく本作を手掛けたのは、『殺意の夏』『クリクリのいた夏』などで知られるフランスの名匠ジャン・ベッケルだ。戦争というシリアスな題材を優しくもスパイスのきいたユーモアでくるみ、誰もが心和まされるハートウォーミングな作品を撮り上げたベッケル監督が、3度目の来日を果たし、インタビューに応じてくれた。

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Q:ベストセラー小説の映画化でもありますが、監督自身、原作のどこに最も惹かれたのでしょうか?

ドイツ軍にフランスが占領された第2次世界大戦当時、私は13歳で、映画に登場する少年リュシアンと同じ年頃だったんだ。映画の中で、リュシアンは父親である小学校教師ジャックの戦争体験を聞かされるのだけれど、私は彼と同じような視点で戦争を見ていたことになる。その共通項に惹かれたのが、まず1つ目の理由だね。それに、原作の短編小説は当時の新聞の三面記事をもとに書かれたものなんだ。だから、ドイツ軍がフランスを占領したという歴史的事実に焦点が当てられているのではなく、あくまでも普通の人々の出来事が扱われている。その日常性も気に入った理由として挙げられるね。

Q:映画の冒頭、リュシアンは父親のジャックを恥じらっています。父親を恥じらう気持ちは監督とは無縁の感情ですね(監督の父親は『穴』などで知られる名監督ジャック・ベッケル)。

その通りだね。いいものを見せてあげよう。(“BECKER PAR BECKER”というタイトルの写真集を持ってきて、)この写真集は私と私の父に関する本なんだ。これを見れば(写真集にはベッケル一家の家族写真などが収められている)、私が父親をいかに尊敬しているかがわかるだろう?  そうでなければ、このような本を作らないしね。この1冊の写真集が今の質問に対する答えだよ。

Q:映画にはご子息のルイ・ベッケルもプロデューサーとして参加なさっていますね。

以前から息子と一緒に仕事をしたいなとは思っていたんだ。けれど、お互いに個性が強いから衝突しそうだし、避けていたのも事実。いざやってみたら意外とスムーズだったね。今後も一緒に作品を作るかもしれないし、進行しそうな企画がないわけではないけれど、私たちの今後についてはまだ教えてあげないよ(笑)。


Q:戦争というシリアスな題材をユーモアでくるむのは困難な作業でしたか?

いいや、まったく。25年間一緒に仕事をしてきたパートナーで、作家だった故セバスチャン・ジャプリゾの言葉に「笑いは不幸に対する究極の挑戦である」というものがある。私自身も、本当の悲劇に直面した時、自分を救えるのはユーモアだと確信しているんだ。ロベルト・ベニーニの『ライフ・イズ・ビューティフル』もそうだろう?  絶望や悲しみの中にいる時、始終笑っているのは無理だけれど、ほんの少しのユーモアが大きな助けになる。私はそう信じているよ。

Q:主人公のジャックは前向きだからこそ戦争を生きのびられました。監督自身も人生で大切なのは前向きなことだと思われますか?

もちろん。私自身、大きく落胆した時こそ、自分を笑い飛ばすようにしているよ。ジャックたちは死に直面しても食べ物の話をしたり、未来について話をしたりしていた。彼らのように、絶望の分だけ希望を持つことが人生には大切なんだ。

Q:ジャックと親友のアンドレが同じ女性を好きになり、彼女に自分の格好よさを見せるべく奮闘するというエピソードが物語序盤の要でもあります。そんな2人にとても温かい眼差しが注がれているのは監督自身も彼らに共感できるからですか?

私が女性に優しいかを聞いているのかな(笑)?  私が女性に尽くすタイプかどうかは妻に聞いてみてほしいね。私のことを女嫌いだという人がよくいるけれど、私は女性には優しいよ。私のまわりには女性のスタッフも多いし、私は女性持有の繊細さを尊敬しているんだ。その繊細さは仕事仲間から感じることの方が多いけれどね。恋愛関係にある女性からは激しさを感じることの方が多いから(笑)。

Q:女嫌いだと言われているんですか?  初耳です(笑)。

私の映画を観て、「ジャン・ベッケルは女嫌いだ」というジャーナリストが多いんだ。『殺意の夏』や『エリザ』のヒロインを愛情をもって描いていないという人もいるし、『クリクリのいた夏』に女優がほとんど出てこないことを指摘する人もいるね。

Q:私は監督が女嫌いだとは思いませんでした。

よかった。君はフランスのジャーナリストより見る目があるよ。


Q:(笑)。ところで、ジャックを演じるジャック・ヴィユレと親友役のアンドレ・ドュソリエは実際にも長年の友人同士だそうですね。

彼らは演劇学校時代からの付き合いなんだ。現場でもすごく楽しそうだったよ。常にジャックがアンドレをからかっていたね。言葉の端々でいじめる感じ(笑)。アンドレは「やめてくれよ~」なんて言いながらも絶対に怒らないんだ。

Q:映画のジャックとアンドレとは立場が逆ですね。

そう、その通り。全くの逆だと思ってくれれば間違いないよ。

Q:ブノワ・マジメルの起用には驚かされましたが、とても作品にマッチしていました。

この企画がスタートする前にブノワと会う機会があって、その時、とても好感の持てる青年だと思ったんだ。だから、若い青年が物語に登場すると決まった時、すぐにブノワをキャスティングしたいと考えたよ。彼が演じるエミールは喘息持ちで軍隊に入れず、村に残っている。体は弱いけれど気は強く、自分に対してフラストレーションを抱いている。若さゆえの弱さも持ち合わせているしね。ブノワはエミールのそういった性格を上手く演じてくれたよ。

Q:『クリクリのいた夏』に続き、この作品も田舎が舞台です。田舎で見られるようなスローライフを監督自身も求めていらっしゃいますか?

そうだね。便宜上、今はパリの近郊に住んでいるけれど、大都市はあまり好きじゃないんだ。だから、撮影くらいは田舎でやりたいし、本当は田舎に住みたいよ。

Q:東京も苦手ですか?

東京に来るのは今回が3度目だけれど、ちょっと苦手ではあるね。建物が高いし、怖くなってしまうんだ。NYもそうだね。

Q:でも、3回も来日してくださっていますし、日本はお好きだと思っていいですか?

もちろん。京都は大好きだし、富士山の麓にある有名な旅館に泊まったことがあるのだけれど、そこは風情があって素敵だったよ。本当はもっと長く滞在したいんだ。長く住んで風景よりも人を知ることが、その土地を本当に理解することになるからね。

Q:今回も残念ながら短い滞在だとは思いますが、どうぞ楽しんでください。

そう、短いんだよ(笑)! でも、ありがとう。楽しむよ。

終始穏やかな微笑みをたたえながら、どんな質問に対しても思慮深く、丁寧に答えてくれたベッケル監督。なかでも、父親ジャック・ベッケルについて語った時、写真集の家族写真を見せてくれた時、息子ルイ・ベッケルについて語った時の満面の笑みが忘れられない。ユーモアの大切さを教えてくれる戦争映画であり、父と子の関係を見つめた家族ドラマでもある『ピエロの赤い鼻』には、家族を愛し、常に前向きでありたいと願う監督の人柄と信念がふんだんに詰まっている。

『ピエロの赤い鼻』は10月9日シネスイッチ銀座にて公開。

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