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『戦火の馬』スティーヴン・スピルバーグ監督 単独インタビュー

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『戦火の馬』スティーヴン・スピルバーグ監督 単独インタビュー

人々と馬のきずながもたらす、奇跡についての物語

構成・文:シネマトゥデイ編集部

スティーヴン・スピルバーグ監督が、第1次世界大戦下に軍馬として駆り出され戦地を巡る一頭の馬ジョーイと、愛馬のため戦地に旅立つ少年アルバートのきずなを描いた映画『戦火の馬』。馬と少年の掛け替えのない関係と同時に、馬の純粋な目を通して、人々が争うことの愚かさや悲惨さまでが浮き彫りとなる。作品賞はじめアカデミー賞6部門にノミネートされた、メッセージ性の強い感動作となった本作について、スピルバーグ監督が語った。

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戦争映画ではない、きずなの物語

スティーヴン・スピルバーグ監督

Q:本作は小説が原作ですが、映画化にあたって最も心惹(ひ)かれたことは何でしょうか?

馬との出会いによって生まれる人間同士のきずな……つまり、世界大戦の最中、敵対して戦う者たちさえも結び付け、それによって一種の平和をもたらす動物の力に心動かされたんだ。人間は、互いを信用してコミュニケーションをすることをためらいがちだけど、動物は人間同士を結び付ける存在になり得る、というメッセージだ。

Q:第1次世界大戦の騎兵隊のストーリーが描かれている点が、新しい試みだと感じました。

第1次世界大戦は、騎兵隊がその役割を終えた戦争として知られている。マイケル・モーパーゴによる原作はその点をしっかりと描いていて、その後、舞台劇として描かれることになった。でも僕は第1次世界大戦にそれほど注意を払っていない。そもそも『戦火の馬』を戦争映画としてとらえていないんだ。さまざまな人と一頭の馬のつながりが生み出す、奇跡に関する映画だ。戦争は舞台背景として緊張感を生み出してはいるけれど、『プライベート・ライアン』のように前面に出ているわけではないんだよ。

Q:では、『プライベート・ライアン』の後のように、第1次世界大戦をテーマにしたドラマを製作することも考えていなかったのでしょうか?

『プライベート・ライアン』をやったときのようなスイッチは入っていない。あのときは、父の世代が体験した戦争を描きたいという気持ちが起きたんだ。父は第2次世界大戦を戦った。僕に大戦の経験を語ってくれた人で、だからこそ僕もそれを次の世代に伝えるべきだと思った。でも第1次世界大戦に関してはそう思っていないよ。

名匠も娘には弱い!? 意外な映画化のきっかけ

スティーヴン・スピルバーグ監督

Q:舞台版もご覧になっているかと思いますが、そこからインスパイアされた部分はありますか?

舞台版を見たとき、僕がカタルシスを覚えた場面がある。それがこの映画を作ろうと思うきっかけになったんだ。

Q:それは、劇中のどの場面でしょう?

イギリス軍とドイツ軍が、鉄条網に絡まったジョーイを共同で助けようとする場面だ。舞台版ではほんの少ししか描かれていないんだけど、僕には強い印象を残した。そこであの場面を拡大して、もっと深く描くことに決めたんだ。

Q:では舞台版がなければ、映画化もなかったかもしれませんね。

でも、この物語を映画化しようと思ったのには二つ理由があってね。一つは今挙げたシーンがあること。そしてもう一つは、娘にせがまれたから(笑)。末の娘が馬術に夢中でね。家では10頭の馬を飼っていて、僕自身も馬が大好きだというのに加え、娘にどうしてもこの映画作ってほしい、と言われたのが最大の理由だ。

馬たちも、立派な演者だった!

スティーヴン・スピルバーグ監督

Q:原作ではジョーイの視点から物語が語られますが、映画では同じ手法を採用していませんでした。

もしジョーイが話し始めてしまったら、別の映画になってしまう(笑)。観客が物語世界に没入できなくなってしまったと思うよ。リアリティーがなくなってしまうからね。この映画を手掛けるにあたり最初に決めたのは、ジョーイに話をさせたり、考えさせないことだった。

Q:馬たちの演技や表情はとても素晴らしく、監督も満足されていることと思います。

どの馬も名演者だった。どうすべきか何も指示を出さなかったこともあったけど、彼らはとても馬にできるとは思えない反応や演技を見せてくれた。馬たちが自分を演者だと理解し、瞬間毎に力を尽くしてくれるという幸運を感じたことも、少なからずあったよ。僕の要求は何ひとつ聞いてくれなかったけど(笑)。

Q:馬たちとの撮影の中でも、印象に残っているエピソードなどはありますか?

ネタばれしない程度に話すね。物語の終盤で素晴らしい瞬間があるんだ。シーンのちょうど終わりごろに、ジョーイがアルバートに鼻を擦り寄せる。あたかもアルバートに「オーケイ、心の準備はできた。連れて行ってくれ」と言っているようにね。それは計算してできるようなことではなかった。シーンの最後の瞬間に、少年を小突くようなしぐさがあれば最高だということを、馬はどうやって知り得たのか、僕にはわからない。そうするように仕込んでいたわけではなく、馬自身が判断してそうしているんだ。そのカットは本編で使われているよ。

そうそうたるメンバーとオスカーを満喫したい!

スティーヴン・スピルバーグ監督

Q:本作は、アカデミー賞に作品賞ほか6部門でノミネートを果たしました。獲得にかけるお気持ちをお聞かせ願えますか?

みんなよく「ノミネートされただけで満足」なんてコメントするけれど、まったくその通りだと思うよ。その年全米で公開された300本近い映画の中から、たった9本に選ばれたというだけで、本当に光栄なことだ。僕個人としては、授賞式でみんなと興奮を分かち合いつつ、久しぶりに司会を務めるビリー・クリスタルの勇姿を拝み、純粋に楽しむつもりだ。映画業界というコミュニティーの一員として、そうそうたる候補者の仲間入りを果たせただけで十分素晴らしいことだし、受賞への期待などまるでないよ。

Q:でも、ジョーイがノミネートされるべきだったという思いはありませんか?

負けず嫌いのジョーイのことだから、もしオスカーに動物の演技なんてカテゴリーがあったとしたら、『ヒューゴの不思議な発明』と『アーティスト』に登場する犬たち相手に、ライバル心むき出しで勝ちに行くんじゃないかな? 名犬 VS 名馬の戦いは、ちょっと見てみたい気がするね(笑)。


第1次世界大戦を舞台としながらも、本作は戦争ではなく、人や馬たちのきずなの物語であると語ったスピルバーグ監督。馬の目を通して描かれる、悲惨な争いの中で人々の心が開かれていく様子は、映画化の理由を「娘にせがまれたから」と笑顔で語る監督の優しい一面が表れているかのようだ。そんな監督が信頼し絶賛した、まさにオスカー級の演技を見せる馬たちの演技にも注目しながら、本作に込められたメッセージを感じていただきたい。

(C) Kaori Suzuki
(C) DreamWorks II Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

映画『戦火の馬』は3月2日より全国公開

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