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『ペンギン夫婦の作りかた』小池栄子 単独インタビュー

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『ペンギン夫婦の作りかた』小池栄子 単独インタビュー

相手への優しさがないと、互いを理解することは難しい

取材・文:柴田メグミ 写真:吉岡希鼓斗

「食べるラー油」ブームのきっかけとなった、石垣島ラー油。『ペンギン夫婦の作りかた』の主人公夫婦、日本生まれの歩美と中国生まれのギョウコウのモデルは、そのラー油を作っている実在のカップルだ。ヒロインを演じるのは、『接吻』『八日目の蝉』など、女優としての活躍が著しい小池栄子。太陽のように明るく前向きな妻・歩美を生き生きと体現する彼女が、役柄そのままを彷彿(ほうふつ)させる舞台裏を明かした。

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わたしを信頼して、全部任せて

小池栄子

Q:歩美さんは、いい意味で強烈なキャラクターですよね。演じるに当たって、大切にされたことはなんでしょう?

愛情深い人にしたいなと思いました。原案の本を読んで抱いていた印象以上に、モデルとなった(辺銀)愛理さんが「肝っ玉母ちゃん」みたいな方で、いっつも笑っているんです。よく笑って、よく食べて、旦那さんやお子さんに対する愛情がすごく豊か。ここまで気持ちのいい人と、石垣島で出会えたことが衝撃的でした。この映画を観た人が、わたしが演じた歩美を通じて、同じような気持ちになってくれたらうれしいですね。

Q:夫のギョウコウを演じたワン・チュアンイーさんとの息もピッタリでした!

チュアンイーさんは海外での仕事に慣れているとはいえ、台湾から来日して、日本人ばかりの現場に入ってやるのは、すごく不安だったと思うんです。だから東京で食事をしたときに、「わたしを信頼して、全部任せて」と言いました。「ラクな気持ちで、いい思い出づくりをするくらいの気持ちで石垣島に来てね」って。そう言ったことによって自分の覚悟も決まったし、とにかく彼を受け止める気持ちで演じていれば、ギョウコウと歩美の関係は自然と生まれてくるはずなので。

Q:撮影の舞台裏でも、ペンギン夫婦みたいなシーンが展開されていたんですね。

お母さんみたいな部分も、あったと思います。チュアンイーさんはすごく真っすぐな人だから、素直に感情をぶつけてくれたり、男の子の部分では、努力している姿を見せない瞬間もあったり。パートナーとして、いとおしい存在でしたね。彼は本当にジェントルマンなんですよ。例えば女性スタッフにも荷物を持たせないとか、ドアを先に開けてあげるとか。日本の男性にも見習ってほしいなと思いました(笑)。

意図しないことが起こるのは、役者の醍醐味(だいごみ)

小池栄子

Q:石垣島でオールロケをされたんですよね。

本当にステキな環境でした。撮影期間も短いし、天気にも恵まれなかったから、本来ならピリピリしてもおかしくない現場だったんですけど。なぜか、ほっこりする明るい現場でした。それはやっぱり、チュアンイーさんが頑張っている姿に心を打たれたというのが、みんなにあったからだと思いますね。みんなで協力し合って、撮影を乗り切れました。

Q:小池さんにとって、島の魅力は?

“島時間”みたいな、緩やかな空気がたまらないですね。いかに普段、情報や競争社会の東京で疲れているのかと(笑)。2週間の撮影で、すごくデトックスされた気がしました。動物としての本能が研ぎ澄まされたというか、シンプルな生活でいいんじゃないかなぁって。好きな仕事ができて、毎日普通にご飯が食べられる。こんなに幸せなことってないんじゃないかと、再認識させられた気がします。

Q:自分の人生を見つめ直すような時間が持てました?

頭が整理されました。わたしたちは仕事柄、自分の希望していない場所へ(撮影で)よく行きます。自分で選んだものしか食べない、選んだ人としか遊ばない、選んだところへしか行かないということではなくて、それって実はすごくチャンスで、必ず新たな自分に出会えるんです。自分のいい面を知ることができたり、逆に自分のイヤな面を発見したり。第一印象で、イヤだなキツそうだなと思った仕事のほうが、達成感が大きいですね。だから今は、そういう仕事の選び方をするように心掛けています。もちろん石垣島の場合は、前々から興味があったので「ラッキー!」でしたけど。意図しないことが起こるのは、役者の醍醐味(だいごみ)だなと思います。

可能性や出会いは、自分で狭めるものじゃない

小池栄子

Q:代表作がまた一つ増えたわけですが、女優としてのキャリアを振り返って、転機となった作品や出会いはありますか?

『接吻』という映画の万田邦敏監督の作品ですね。自分の可能性をいろいろ引き出してもらいました。実は、一度はお断わりしたんですけど、万田さんとプロデューサーの仙頭(武則)さんが「ぜひ」と熱心に誘ってくださって。やっぱり可能性や出会いは、自分で狭めるものじゃないですね。自分がやりたいことと、人が求めていることはきっと違うから。

Q:最初に断られた理由は、スケジュールの問題ですか?

京子という役柄がまったく理解できなくて、嫌悪感みたいなものすら覚えたんです。役づくりのスタートラインは役に対する共感や愛情ですから、自分には無理だなと。でもお二人が、「失敗してもいいから」と愛情深くとても熱心に話してくださり、そこまで言ってくださるならと出演を決めて脚本を何度も読むうちに、京子への思いも変わっていきました。だから『接吻』以来、たとえ自分が乗り気じゃなくても、周りが「やれば」というときはやってみようと思うようになりました。そんなふうに作品選びにも影響を与えているほど、あの出会いは大きかったです。

Q:今作の歩美は『接吻』の京子と違って、小池さんの等身大に近いキャラクターとも思えましたが、こんな自分を観るのは初めて、意外だった、という顔には出会えましたか?

わたしは女の子っぽい、いわゆる甘えん坊的なキャラや、男の人に寄り掛かっているシーンをあまり演じたことがなかったんですけど、今回は「女の子なんだなぁ、歩美ちゃんも」って。観ていてとても新鮮でした。

夫も外国の人と一緒

小池栄子

Q:観ている間、おなかが空いて困りましたが、モデルとなった辺銀ご夫妻が作られたという劇中の料理で、特にお気に入りはありますか?

全部おいしかったんですよ! 水餃子は、実際に辺銀食堂のメニューにもあるんです。食堂では五色餃子といって、皮や餡(あん)が違うんですけど。わたしの一番のお気に入りは、オオタニワタリという粘り気のある野菜の炒めものです。ちょっとトロミと歯応えがある野菜を、ニンニクとお塩だけで味付けして炒めたシンプルな料理。それにラー油をかけて食べると絶品でしたね。ご飯が進みました。

Q:この作品を通して、ご自身も学ぶことはあったのでしょうか?

思いやりの心がいかに大切かを、改めて実感しました。実際に現場で、言葉の通じないチュアンイーさんと芝居をしながら、思いを伝えようとすることや、理解しようとすることを諦めなかった。それはお互い、相手への優しさがないとできないことだと思うんです。友人関係でも夫婦でもそうですが、日本人同士の場合、共通言語があるだけに「何でわかってくれないの?」とイライラが募る。でも相手が外国の人で、言葉も文化も違うと思えば、すごく優しくなれるということを現場で発見しました。その気持ちのまま家に帰ったら、夫婦ゲンカも減ったんです(笑)。生まれ育った環境が違うという点では、夫も外国の人と一緒だよねって。

Q:では、改めて本作のどんなところを楽しんでもらいたいですか?

キュートな作品に仕上がっていて、うれしかったです。監督と打ち合わせのときに、気楽に観られる、見終わって笑顔になれるような、ハッピーな映画を作りたいねって話していたので、そんな気分を味わってもらえたらうれしいです。


かつてNHKの中国語講座番組で1年間、生徒役を務めた小池。番組終了後も家庭教師について北京語を3年ほど勉強したという彼女は、片言の北京語と片言の日本語で、ワン・チュアンイーとコミュニケーションを図っていたそう。「わたしを信頼して、全部任せて」の言葉に、チュアンイーがどれだけ励まされ、小池との会話に癒やされたことか。チャーミングでほほ笑ましい二人の夫婦ぶりを観れば、それは明らかだ。そして確かな演技力と歩美顔負けの肝っ玉と北京語……この三つを武器に、小池が中国映画界に進出する日もそう遠くはないはず。

スタイリスト:えなみ眞理子 ヘアメイク:山口公一(スラング)
衣装:ブラウス・パンツ(バグッタ)

(C) 2012「ペンギン夫婦の作りかた」製作委員会

映画『ペンギン夫婦の作りかた』は10月20日よりユナイテッド・シネマほか全国公開

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