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映画『シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの物語』ジェームズ・キャメロン 単独インタビュー

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映画『シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの物語』ジェームズ・キャメロン 単独インタビュー

知的好奇心こそ人生を豊かにする

取材・文:こはたあつこ

ジェームズ・キャメロンは、映画『タイタニック』『アバター』などの監督としてだけでなく、3D撮影の技術を提供する会社の代表としての顔も持つ人物。そんな彼が製作総指揮を務めた本作は、世界的なサーカス集団シルク・ドゥ・ソレイユのラスベガスの七つのショーをラブストーリーでつないだものだ。3Dの技術をサポートするという立場で本作に関わったというキャメロンが、撮影の裏側から“良い3D映画”の定義までたっぷり語った。

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安全ベルトを締めて天井から撮影!

ジェームズ・キャメロン

Q:キャメロン監督は昔からシルクのファンで、ぜひ3Dで撮影したいと思っていたと聞きました。ただ製作総指揮をオファーされたとき、ある条件を出されたそうですね?

「お金のことは関係ないからカメラの操作だけは、わたしにやらせてくれ」と言ったんだよ(笑)。で、結局(七つのショーのうち)「ビバ・エルビス」と「ズーマニティ」以外はすべてカメラを担当させてもらったよ。

Q:18台のカメラを使用して、高い天井からのショットもあったそうですね?

「カー」で二人の男性が「死の大車輪」の中や上をぐるぐる走るシーンで、目が回りそうな高さからのショットがある。そのシーンでは、わたしは安全ベルトで舞台の天井から宙づりになって撮影したんだ。パフォーマーが上がってくると、自分もふわーっと上に移動して面白かったよ(笑)。

Q:まるでシルクのメンバーですね!

そういう感じだったよ。「オー」では公演最終日にメンバーがプールに突き落とされるんだが、わたしも撮影最終日に大きなサモア人の炎のダンサー二人にいきなりわしづかみにされて、ドボーンとプールに投げ込まれたよ。これでわたしも「オー」の正式メンバーというわけだ(笑)。

Q:一番衝撃を受けたシーンは?

「カー」のショーの「バトル」という演目で、「砂の崖デッキ」と呼ばれる大きな板が使われる。初めは平面なのに、途中で絶壁のように縦になるんだ。その絶壁で二つの軍隊がワイヤーアクションを行うとき、パフォーマーたちはワイヤーの操縦ボタンを自分で操作して体を大きく上下させるんだ。舞台側の操縦ではないんだよ。ジャンプしたり、戦ったり、スピンしながら、しかもワイヤーの操作もしている。こんなすごいことは初めて見たよ。スリル満点の撮影シーンだった。

Q:では一番好きなシーンは?

主人公の女の子と空中曲芸師の青年がやっと巡り合えるシーンだ。そのパフォーマンスが息をのむほど美しくて、何度でも繰り返し観られるよ。すごく感動した。

良い3Dと悪い3Dの定義とは?

ジェームズ・キャメロン

Q:3D業界の第一人者として、良い3Dと悪い3Dの定義を教えてください。

3D撮影なのに、編集が不安になって3Dの奥行きを浅くしてしまう「守りの姿勢」の3Dはだめだ。例えば『アメイジング・スパイダーマン』がいい例だ。作品の芸術面は大変良いと思ったが、3Dに関して言えば、あれは2.5Dだったと思う。

Q:うーむ、手厳しいですね。では、良い3Dの作品の例を挙げるとすれば?

『ヒューゴの不思議な発明』は素晴らしかった。マーティン・スコセッシ監督は3Dの奥行きを怖がらずに思い切って、そしてクリエイティブに使った。彼の作品では、3Dは音楽や色彩と同じように芸術の一部になっている。だから『ヒューゴ』の方が『アバター』よりも3Dの質が高かったと思う。『アバター』では『スパイダーマン』ほどではないにしろ、多少遠慮がちに3Dを使ったんだ。長時間の作品になるとわかっていたし、当時は3D眼鏡を長時間使用した際の安全性を保証するデータが全くなかったからね。『アバター』は2時間40分もある長編だったから遠慮したんだよ。でも続編では、ガツンとやらせてもらうよ。

Q:3Dの未来をどう予想しますか?

あと2年ぐらいで3D眼鏡を必要としない3D映像が、家庭用の大型テレビやラップトップに進出するだろう。そうなると、放送業界での3Dの普及が急速に高まり、スポーツ番組や、現時点でまだ3Dになっていないドラマが3Dになるだろう。というのも、3Dの番組を観るときは眼鏡を掛け、3Dじゃないときは外すといった面倒なことをしなくていいからね。また、2D番組内でも3Dが部分的に使われるようになるだろうね。そうなると視聴者は「3Dのほうが良いじゃないか」ということになりもっと3Dが増える。やがては全てが3Dになっていくと思うよ。

『タイタニック』を作った理由は海底撮影がしたかったから!?

ジェームズ・キャメロン

Q:『アビス』や『タイタニック』には海底のシーンがありますし、キャメロン監督は今年の3月に、マリアナ海溝の最深部に史上初の単独潜航を遂げました。また、火星探査にも興味があるそうですね。なぜ海底や火星に惹(ひ)かれるのでしょう?

単に好奇心だと思う。子どものころからSFと科学が大好きだったしね。結局、科学の方面には進まなかったが探検にはずっと興味があって、16歳のときからスキューバ・ダイビングをやっているんだよ。当時はわたしが住んでいる地域でそんなことをする人はいなかった。海から500マイル(約800キロメートル)離れたカナダの田舎だったからね。川で習ったんだ。『アビス』を製作する頃には、すでに1,000時間のダイビングを経験済みだった。そして1988年に『アビス』の製作を始めると、今度は遠隔操作ができる水中探査機や潜水艇などの海中技術に夢中になった。でも『アビス』では水中タンク内の撮影だったので、今度は本当の海で使いたくなった。だから『タイタニック』を製作した理由の一つは、遠隔操作が可能な水中探査機や水中カメラ、そして潜水艇などを海底2.5マイル(約4キロメートル)のところで使いたかったからなんだ。それが実現した後は「これはいい! 専門組織に頼まないで自分たちで海底撮影に必要な技術を開発できるぞ」と思ったね。わたしはテクノロジーに大変興味があるんでね。

Q:潜水艇も作られたんですね。

『アバター』第1作の製作を始めたときに、マリアナ海溝の最深部となる水面下7マイル(約11キロメートル)のチャレンジャー海淵へも潜ることができる深海潜水艇を作り始めたんだ。だから、実は『アバター』を作りながら、オーストラリアのシドニーで深海潜水艇も作っていたんだよ。

人生で大切なのは知的好奇心

ジェームズ・キャメロン

Q:キャメロン監督はさまざまな顔を持っていますが、「フィルムメーカー」、「探検家」、「夫」、「父親」、「科学者」、それぞれにかける時間をパーセントで表すとどうなりますか?

「探検家」は100パーセントだ。でも「フィルムメーカー」も100パーセント。ただ両方が一緒にできないんだよ。家族と一緒のときも100パーセントだね(笑)。だからどこにいても100パーセントなんだよ(笑)。

Q:小さいときからそんな感じでしたか?

クレイジーな子どもだったといえるだろうね。森林が多い場所に住んでいたから、8歳のときは森で探検していたよ。そこでカエルを捕まえたり、池の水のサンプルを採って顕微鏡で各微生物の名前を確認したり、本でその微生物に関する項目を読み、メモを取って微生物の数を数えたりしていた。そんな年齢で池の水の分析していたんだから、クレイジーだよね。中学1年生でカエルの解剖をやっていたんだからね。

Q:では最後に「父親」として、キャメロン監督がお子さんの将来の結婚相手に求めるものを教えてください。

もちろん愛情があって二人の関係を大切にする姿勢が大切だが、もう一つ大切なのは社会に対する知的好奇心が旺盛なことだ。知的好奇心こそ人生を豊かにする一番重要な要素だと思うからね!


ジェームズ・キャメロン

キャメロン監督はとても「映画監督」という枠に収まり切る人ではない。科学の最先端に興味を持ち、物事の規制の枠を広げようと常にチャレンジする姿勢が話の端々にうかがえる。周囲の人に気を使い、親切で気さくな印象を受けたが、3D技術や潜水艇の話になると口を挟むことができないほど没頭! 深海だけにとどまらず火星も3Dで撮影したいと語っており、彼のチャレンジ精神は果てしなく続くのだろう。これからもどんどん映画界の枠を広げて、人々を見たことのないビジョンでわくわくさせてほしい。映画界のアインシュタインのような人に話を聞くことができ光栄だと思った。

Photo:AP/AFLO
(C) 2011 Cirque du Soleil Burlesco LLC. All Rights Reserved.

映画『シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの物語』は公開中

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