『あゝ、荒野』菅田将暉&ヤン・イクチュン 単独インタビュー

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『あゝ、荒野』菅田将暉&ヤン・イクチュン 単独インタビュー

体を鍛えると欲も強くなってくる

取材・文:中山治美 写真:尾鷲陽介

マルチな才能を持ち、とどまるところを知らない菅田将暉と、監督・主演を務めた映画『息もできない』(2008)で強烈なインパクトを残した韓国のヤン・イクチュン。国籍も、世代も、俳優としてのバックボーンも全く異なる二人が、前篇・後篇2部作の大作『あゝ、荒野』(岸善幸監督)でボクシングに人生を賭けた義兄弟を演じ、文字通りの裸の付き合いをした。肉体改造から撮影まで、触発し合いながら挑んだ過酷な日々を振り返った。

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ヤンが菅田を盗撮したワケ

菅田将暉&ヤン・イクチュン

Q:共演したご感想は?

菅田将暉(以下、菅田):すごく楽しかったです。ヤンさんがいると現場が明るいし、笑わされるし、遊び心もいっぱいある。でもいざ撮影となると、とっさの運動能力と、感情のリアリティーが桁違いでスゴいと思いました。

ヤン・イクチュン(以下、ヤン):(褒め言葉を)もっとください(笑)。

菅田:とはいえ最初は、18歳も年齢が離れているし、体重差も20キロ近くあって。この二人がラストで、同じ階級で戦うとなったときにどうなるのかな? と(苦笑)。ヤンさんのおなかもぽっこりしてたし。

ヤン:ハハハ。

菅田:それ以前に、ヤンさんは人生の大先輩なので、対等に立っていられるかな? と、どこか不安もありました。それが撮影に入るときにお会いしたら、ヤンさんの体が引き締まり、若くなったようにも思えて、それこそ(リングネームの)バリカン建二になっていた。劇中ではバリカンのことを「兄貴」と呼んで慕うんですけど、(吃音や赤面対人恐怖症もある影響で)おどおどしていて弱々しいバリカンのことを、すぐに愛おしく思えました。

Q:体重に20キロ差があったという初対面は、いつ頃だったのですか?

菅田:クランクインの半年前かな。

ヤン:(監督の)岸さんと一緒にお会いしましたね。僕の携帯電話の中に写真が残っています。隠し撮りでした(笑)。脚本を読んだだけでは(菅田演じる)新次のキャラクターをつかみきれなかったので、新次のイメージを写真で持っていたかったんです。わたし自身が有名人に会うと緊張するタイプということもありますが、菅田さんも感情をあまり表に出さず、口数も少なかった。なので最初から、新次が持っている雰囲気を菅田さんから感じ取ることができました。

菅田:その日、1ラウンドだけスパーリングしたんですけど、それがものすごく楽しかった。拳の間から目が合うんですけど、お互い、なんか笑っちゃって。

ヤン:そのときはまだ二人ともボクシングの技術が全くなかったですものね。

菅田のバキバキの肉体に共演女優ドン引き

菅田将暉&ヤン・イクチュン

Q:撮影に入るまでの半年間、お二人は日・韓に分かれてボクシングのトレーニングを積んだそうですが、お互いの進行具合が気になりませんでしたか?

菅田:人づてに聞いていました。

ヤン:わたしは韓国のボクシングジムに2か月半通って、主にマスボクシング(力を入れずに打ち合う)をやっていました。そのたびに映像を撮って日本に送っていたのですが、わたしの方も、菅田さんが指導を受けている映像を送ってもらっていました。それを見るたびに「自分も頑張らないと」と奮起していました。

Q:当時、ヤンさんは40歳。不惑を超えての肉体改造はキツイですよね?

ヤン:今まで役のために減量することは結構やっていて、1週間で7~8キロ痩せたことがあるんです。

菅田:おぉ~!

ヤン:大変だったのはむしろ、『あゝ、荒野』撮影後でした。次の作品(映画『詩人の恋』)が詩人の役で、1か月か1か月半の間で15キロ太らなきゃいけなかったんです。

菅田:そう、太る方が大変ですよね。僕の場合は体を鍛える前に、(細身だったため)体重を増やすことから始めましたから。

ヤン:でも、『あゝ、荒野』で相当トレーニングをしていたので太りにくい体になっていたようで、1日に何食もファストフードを食べたりしたけど全然ダメ。MMA(総合格闘技)の選手に相談したところ「それだけ激しいトレーニングをした後は、3~4週間はいくら食べても太れないですよ」と言われてしまいました。そもそも『あゝ、荒野』でエネルギーを使い果たしてしまったこともあり、次の作品に結構影響が出ました(笑)。

菅田:僕も撮影後に腑抜けになりました(苦笑)。同じように僕も『あゝ、荒野』の後に(テレビドラマ「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」(2016)で)さわやかな青年を演じたんですけど、Tシャツを脱ぐシーンでバッキバキに腹筋が割れていたので、(共演した)女優さんに引かれました。「何でそんなに割れてるの?」って(苦笑)。

Q:参考にしたボクシング映画はありますか? 日本では、『百円の恋』(2014)での安藤サクラさんの奮闘が記憶に新しいだけに、それを超えるのはプレッシャーだったかと思います。

菅田:安藤さんと同じトレーナー(松浦慎一郎)だったんです。安藤さん、素晴らしかったですよね。ただ、スタッフは撮り方とかいろんなボクシング映画の良さを研究されていましたけど、僕自身は、自分ができるだけボクサーに近づき、目の前の人間と思い切りやり合うことしか考えてなかったです。

ヤン:わたしは日本の漫画の……何とか元気?

菅田:「がんばれ元気」。あれ、いいですよね。

ヤン:昔読んで好きな漫画だったんですけど、撮影前にもう一度読み直しました。主人公の無邪気なところと、自分自身に勝てなくて悔しがっているところがバリカンに似ていると思いました。

肉体酷使で本能覚醒「俺はオスだ!」

菅田将暉&ヤン・イクチュン

Q:それにしても新次もバリカンも鬱屈した日々や怒りを全て拳に込めて叩いているようなキャラクターで、演じるときに相当エネルギーを要したかと思います。どのようにして、激しい感情を湧き起こしたのでしょうか。

ヤン:基本的にそれは脚本が与えてくれるものです。加えてスタッフが用意してくれる衣装やメイク、セットなどに感化されてわたしたちは役を演じることができます。特に優れた脚本からは行間からビハインドストーリーが滲み出ており、役の感情を湧き立たせることのできる一つの要素になります。

菅田:シーンごとの感情はさておき、今回はボクシングをして筋肉が増えてくると、たくさん食べなければいけなくなるんです。たくさん食べて、たくさん動き、たくさん汗をかくと血の巡りが激しくなり、いろんな欲も強くなってくるんです。「俺はオスだ! 男だ!」みたいな。それが新次を演じるそもそものバイタリティーになっていたかもしれません。だから、その後のさわやか青年役は、本当に難しかったです(苦笑)。ずっと目がバキバキになっちゃって。

ヤン:一度とことん体を使った役を演じると、あの頃を恋しく思うんですよね。

菅田:その気持ち、わかります。

銭湯でもこんな経験はできない

菅田将暉&ヤン・イクチュン

Q:お話を伺っているとお二人はまるで同志のようです。今後、再共演をしてみたいですか?

ヤン:わたしが70歳で、菅田さんが52歳になった頃あたり?

菅田:(声色を変えて)「はい、はい、来ましたよ~」とか、めっちゃ声が細くなってたりして。

ヤン:ハハハ。ずっと今の活動を続けていれば、いつかまた(作品で)会えますよね。それにしても男同士がこれほど肌をぶつけ合うなんて、銭湯に行ったって、なかなかできない経験をしたと思うんです。

菅田:ないですね。

ヤン:これだけスキンシップできたのは、本当にすごいことだと思っています。


リング上での激闘シーンは言わずもがな、ボクシングジムで寝食を共にする中で、互いが抱えている悩みや孤独を察知し慈しみのまなざしを向ける、セリフのないシーンの数々が二人の関係性に深みを与え、観る者の感情を揺さぶるだろう。それもこれも芝居を超えて、一役者として、人としてリスペクトし合っているからこそ生まれたシーンなのだということが、二人の言動からひしひしと伝わってきた。

【菅田将暉】ヘアメイク:AZUMA(M-rep by MONDO-artist)/スタイリスト:二宮ちえ
【ヤン・イクチュン】ヘアメイク:小沼みどり、新井はるか

映画『あゝ、荒野』前篇は10月7日、後篇は10月21日より公開

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