『鈴木家の嘘』加瀬亮 単独インタビュー

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『鈴木家の嘘』加瀬亮 単独インタビュー

自分は何に命を懸けられるのかを考えた

取材・文:坂田正樹 写真:奥山智明

引きこもりの長男・浩一が突然命を絶ったことから巻き起こる、家族の動揺、後悔、そして再生……。第31回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門・作品賞を受賞した『鈴木家の嘘』は、熊切和嘉、橋口亮輔、大森立嗣ら名匠たちの助監督を務めてきた野尻克己が、自身の経験を織り込んだオリジナル脚本で長編劇映画の監督デビューを果たした渾身の一作。長きにわたり野尻監督とともに切磋琢磨してきた俳優・加瀬亮が、キーパーソンとなる浩一役を務め、短い登場シーンながら、全編に影を漂わせる難役に挑んだ。

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脚本に込めた死と向き合う覚悟

加瀬亮

Q:野尻監督とは15年来のお付き合いだそうですね。

野尻さんと初めて出会ったのは、行定勲監督の『ロックンロールミシン』(2002)だと思います。とても真面目な方で、そのあとも大変な現場でご一緒することが多く、苦楽を共にしているうちに自然と信頼関係が生まれたという感じです。今回の作品には宇野(祥平)くんも出演しているのですが、彼も野尻さんとすごく仲が良かったので、気がついたら3人で集まるようになっていましたね。たまたま家が近かったというのもあるのですが、宇野くんと一緒に野尻さんの家に行って、お互いの近況や面白かった映画の話など、他愛のない会話をしていたのを覚えています。

Q:「いつか僕が映画を撮るときは出てください」と野尻監督からオファーされたのもそのころですか?

そうですね、確か熊切和嘉監督の『アンテナ』(2003)を撮っているとき、当時、助監督だった野尻さんから、その言葉を受け取りました。

Q:その夢が見事にかなったわけですが、最初に脚本を読んだときはどんなお気持ちでしたか?

お兄さんが亡くなられた経緯はもちろん知っていたので、脚本を最初に読んだときは、「その話が題材なんだ」と正直、驚きました。ただ、それと同時に、お兄さんの死と向かい合う「覚悟」みたいなものも強く感じました。本当に読むたびに目頭が熱くなる脚本なんですが、一番感動したのは、野尻監督の実話を盛り込んだ重いテーマにもかかわらず、笑いを入れながら書き上げているところがものすごいなと。岸部(一徳)さんふんする父・幸男が風俗店へ行く場面など、吹き出しながら読んでいても、切なく心に響いてくる。きちんとお客さんを楽しませるという意識を忘れずに、全体が練られていて、そのバランス感覚が素晴らしいなと思いました。

Q:確かにエンターテインメントとしても楽しめる作品でした。

以前、僕が出演した伊坂幸太郎さん原作の映画『重力ピエロ』(2009)のなかに、「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」というセリフがあったと思うのですが、まさにそういう感覚ですよね。落語なども同じで、根底には悲しみがある。軽やかにやることで重さが浮かび上がってくるというか、そういうところは大人っぽいなと思いますね。

演出する野尻監督の姿に感無量

加瀬亮

Q:助監督ではなく、「監督」としての野尻さんの演出ぶりはいかがでしたか?

初日だけは不思議な感じでしたね(笑)。ご本人も少々戸惑っているところはありましたが、2日目からは監督らしくなっていました。僕が現場に到着したときは、原(日出子)さん演じる母の悠子が家に帰ってくるシーンを演出されていたのですが、その姿を見てうれしい気持ちでいっぱいになりましたね。監督を目指してがんばっている姿をずっと見てきたので。

Q:加瀬さんが演じる浩一は登場シーンが少ないですが、物語の軸となる存在。どんな思いで浩一の気持ちに寄り添っていたのでしょう。

野尻監督、そしてご健在である彼のご両親に対して、なるべくお兄さんの面影を壊したくないという思いがありました。だから、撮影前に1度、野尻監督とお酒を飲みながら、お兄さんのことや脚本のニュアンスなど、話し合いました。そうして思ったのは、この役にとっては、「自殺は希望だった」ということ。そういう思いで演じたいなと思いました。なので、自分が何に対してだったら「命」を懸けることができるのか、ということをすごく考えました。

Q:加瀬さんは以前、演技について「人の話や周りの音などをよく聞いて、そして反応する」とおっしゃっていました。今もそういった感覚で演じていらっしゃるのですか?

正直に言うと、未だに芝居のことはよくわからないんですが、聞くということは大切にしています。毎回、台本をいただいて、「どうやって演じたらいいのか」と途方にくれます、これといった方法を持っているわけではないので。いつもどこかで俯瞰している自分もいるので、なりきるというのもピンとこないですし。しいて言えば、動いてみると、「これは違う」とか「これは合っている」というのが身体感覚でわかってくるんですよね。だから、言葉で説明しろと言われてもなかなかむずかしいですね。

木竜麻生のさらけ出す力

加瀬亮

Q:作家主義、俳優発掘に重きを置いた「松竹ブロードキャスティング」のオリジナル映画プロジェクト第6弾となる本作。インディーズや海外のアート作品にも積極的に出演されている加瀬さんは、この企画をどのように捉えていますか?

大変良いことだと思います。どうしても、現在の邦画を観ていると、だんだんと価値観が画一化されてきて、そこから外れるものは批判されてしまう傾向にあると思っています。本来、一人一人、考えていることは違うはずだし、1つの道が「違うな」と思ったときも、他の道がたくさんある、という環境が大事だと思うんです。多様化というのか、そういう意味でもこういうプロジェクトを大事にして、いろいろな個性を持った作品が乱立している状況になればいいなと思っています。

Q:妹・富美役の木竜麻生さんは、同プロジェクトのワークショップ出身ですが、共演してみていかがでしたか?

僕はワンシーンしかなかったんですが、素晴らしかったです。決して器用な方ではないと思うんですが、自分自身に嘘をつかないように、ごまかさないように、丁寧に取り組んでいる感じが伝わってきました。見たことがあるような紋切り型でその場をごまかすことは簡単なことだと思いますが、彼女はそういう方法は採らないで、できない自分をそのままさらけ出しながら役に向き合っていた。その姿がすごくよかったです。

「できない」ことの力強さとみずみずしさ

加瀬亮

Q:加瀬さんもオーディションを積極的に受けて、役をものにしようと懸命に取り組んでいらっしゃったと思いますが、自分に重なるところはありますか?

僕もセリフのない役から始まり、力のある監督たちに叱られながら、ここまで育てていただいたと思っています。この作品の公開記念特番(CS放送の衛星劇場で放映)で木竜さんをかなり追っているんですが、僕はワークショップの内容を全く知らなかったので、彼女が野尻監督と向き合いながら、どんどん成長していく姿を見ることができて感動しました。野尻監督は物事の「肌理(きめ)」をすごくわかっている方なので、木竜さんの演技を信じられないときは、何回も何回も「そのときはそうじゃないはずだ」とやり合うんです。そういったことは、僕もいろいろな監督のもとで体験してきたことなので、愛情を感じました。

Q:新人俳優のみなさんのがんばる姿を見ていると、やはり刺激を受けたりするものなのでしょうか?

毎回、受けます。自分たちが悪い意味で慣れてしまっている部分を意識させられますし、役者としてできることは僕たちの方が多いかもしれないけれど、「できないこと」の力強さやみずみずしさもあるので、そういうところに大いに刺激をもらっていると思います。


加瀬亮

クリント・イーストウッド、アッバス・キアロスタミなど世界的巨匠からも認められる俳優・加瀬亮。『鈴木家の嘘』では、全編に確かな気配だけを残しながら、物語のイニシアチブを取るという難役を、圧倒的な演技力で表現してみせた。だが、それでもなお、「未だに芝居のことがよくわからない」と語る加瀬の目には、いったいどんな景色が映っているのだろうか? 確かに言えることは、加瀬が演じてきた人物には嘘がない、ということ。それはきっと、加瀬が常に誰よりも役と真摯に向き合ってきた証しではないだろうか。

映画『鈴木家の嘘』は公開中

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