『台風家族』草なぎ剛 単独インタビュー

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『台風家族』草なぎ剛 単独インタビュー

40を過ぎて、親の気持ちがわかるようになった

取材・文:折田千鶴子 写真:高野広美

『箱入り息子の恋』『ハルチカ』の市井昌秀監督が、12年温めてきた両親への思いを胸に書き上げた、オリジナル脚本&監督作の『台風家族』。失踪したままの両親の見せかけの葬式をするため、兄弟姉妹が10年ぶりに帰省し、遺産相続争いを始めることから珍騒動が繰り広げられる。世界一クズな一家だけど、憎めない鈴木家のなかでも、飛び切りのクズ男の長男・小鉄を演じたのは、草なぎ剛。7年ぶりに長編映画の主演を務めた草なぎが、作品への思いとその舞台裏、本作を通して感じた家族の大切さを語った。

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役作りはしないのが、いまの自分のスタイル

草なぎ剛

Q:ハチャメチャな家族の物語ですが、脚本を読んだ感想を教えてください。

パッと読んで面白く、ワクワクしました。あとは現場に入るまで読まないし、役についても考えない。現場に入ったら、優しい監督の顔が急に真面目に怖い感じになってきて、これはヤバイぞ、と焦りましたね(笑)。

Q:監督からは、小鉄についてどんなお話がありましたか?

現場でもいろいろと話をしてくださったのですが、とにかく暑くて、聞こうと思ってもセミの声しか耳に入ってこなくて(笑)。話の内容は聞けなかったけれど、監督の“熱量や圧”をすごく感じて、急に僕自身が焦ってきた感じも、いい具合に小鉄と重なっていったというか。監督が小鉄を作ってくれた感じです。

Q:基本的には役づくりはしないタイプですか?

昔は違ったんですが、いまは基本しないです。だって小道具や部屋の構図、相手の出方や台詞を言う状況など、現場に行ってみないとわからない。そうであれば、そのときに起こっていることに集中したい。現場の環境に入ると、自然とそっち(役)に近づいていくので。そういうアプローチの方が、いまの自分に合っている気がするんですよ。でも僕は打たれ弱くて、怒られると1日中引きずっちゃうので、現場では怒られないように、やるときはやりますよ!

出演を決めた本当の理由とは?

草なぎ剛

Q:小鉄の妻を演じられた尾野真千子さんとは、以前も共演されています。

実は脚本を読む前に、尾野さんが出ると聞いて、「あ、やる!」と決めちゃって(笑)。尾野さんと一緒だと、全部を受けてくれるから、安心だし、すごく演じやすくて。前作の『クソ野郎と美しき世界』でご一緒して、すごくいい関係を築けたんですよ。沖縄でご飯を食べに行ったりして。変に気取っていないし、とてもサバサバしていて、全く気を遣わなくて済むんです。僕自身のちょっと恥ずかしい部分や、幼稚な部分も隠さずにさらけ出せるので、本当に楽で。

Q:撮影現場では、作品や役について、あるいは演じ方などについて尾野さんと話しましたか?

尾野さんとは、仕事や作品の話は全くしないです。打ち合わせしなくても、阿吽の呼吸で何かできちゃうから。自然と感情が盛り上がっていく波というか、そういうのも、どこか似ている気がして。お互いに演技を楽しんでいる、という感じがするんです。相手が尾野さんだから、僕もそうなれるのだと感じます。実は『クソ野郎~』の際に太田光監督の演出で、冒頭シーンで尾野さんに本気でビンタされ、ものすごく痛かったんです!! 変なたとえだけど、小さいときに男同士で取っ組み合いの喧嘩をした後、もっと仲良くなるようなことってありますよね。それと似ていて、演技とはいえ本気で殴られたら気持ちが芽生えたというか、友情ができちゃった、みたいな感じ(笑)。

Q:父親としては、小鉄はクズというより不器用過ぎますよね。

娘のユズキに責められたり、ダメな部分をみんなに暴露されたりするシーンがありますが、市井監督のホン(脚本)が秀逸だと思うのは、小鉄と藤竜也さん演じる父親・一鉄との確執と、小鉄と娘・ユズキとの確執が両方あるところ。それがまた、小鉄のクズっぽさをさらに出しているポイントでもあるんですよ。

Q:ユズキ役の甲田まひるさんとは、どんな話をされましたか?

僕も今回初めてご一緒しましたが、まひるちゃんは本格的な演技も初めてだそうで、監督が最も注力していたのも彼女の演技や表情でしたね。常に目を充血させながらモニターを見ていました。何度も繰り返したシーンもあり、段々とまひるちゃんの感情が動いてきて、ちゃんとユズキになっていった感じがありました。まひるちゃんからあふれ出てくるユズキっぽさが小鉄の心を動かしてくれたし、まひるちゃんともいい関係で演じることができたなと思います。

爆笑必至のシーンの作り方

草なぎ剛

Q:思わず噴き出してしまうシーンがちりばめられていますが、なかでも最大級に笑えるシーンは、小鉄のクズダンスでした。

監督からもずっと、「どんな風に踊るのか、どう演じるのか」と聞かれていて、プレッシャーがありました。でも、当日のその場まで、全く考えていなくて(笑)。というのも僕、ユーチューバーなんですよ。だからその場の思いつきで大丈夫じゃないかな、それくらい適当な方がむしろできるんじゃないかな、と思っていたのですが、段々と焦り始めて……。もう、やぶれかぶれで臨みましたが、監督は「最高だね~! なんだ、すごく考えてくれていたんだね~」と喜んでくれました(笑)。

Q:かなり長く使われていたことからも、監督が気に入ったことが伝わってきますね。

監督がカットをかけないから、延々と踊り続けるしかなくて。いろんな動きをして疲れましたが、途中で完全に「1本満足バー」(出演中のCM)になっていた気がしなくもないですね(笑)。いや逆に、自分のなかでは「『1本満足バー』でも毎回、踊っているんだから大丈夫だ、それをここでは小鉄として踊るぞ、踊れば大丈夫だ」という自信はありました!

Q:あのダンスには小鉄らしさがあふれていました。

監督が褒めてくれたとき、思わず「そうですよ、すごく考えていたんですよ」とつい言ってしまったんです。その辺りがもう、まんま小鉄ですよね。考えていなかったくせに、嘘じゃん、嘘つきじゃん、と。いまとなると無意識で嘘をついたのも、小鉄の役作りのためだったのかもしれないな、と思えてきます(笑)。実情は、早く冷房の効いたクルミちゃん(愛犬)のいる部屋に帰りたい、という一心で頑張りました。最近クルミちゃんの話をすると、ファンの子が「そんな心構えで剛君は仕事をするようになったんですか、初めて犬を飼ったからと言って、そんなことをしてはダメでしょ」と怒るんです。親みたいに叱るファンが結構いて。事実だから仕方ないか、って感じですが(笑)。

家族の大切さに気づくタイミングがそれぞれある

草なぎ剛

Q:小鉄は、娘に最低と思われている父親ですね。

ユズキとの関係性から、いろいろ見えてくるものがありますよね。上手くやろうと思っているんだけれども、娘から最低だと思われてしまう。そういう「上手く行かないんだよな~」という、ちょっとした歯車がズレてしまうところや情けなさに、人間の感情のリアリティや真実、生きている人たちに息づく感情というのが見え隠れしていて、それがこの作品で好きだなぁ、と思うところでもあります。例えば、扇風機を足でバーンと蹴っ飛ばすシーンがありますが、あんなの、女の人は間違いなく最も嫌うことですよね。そういう不器用なところが、オヤジという人種にはあるんだよな、と。でも、それが最後に効いてくる。

Q:本作を通して、若いころは気づかなかった“家族”の大切さなども、改めて気づかされたりしましたか?

僕は若いころから芸能の世界に入って、親元を離れて仕事をしていましたが、実は親がすごく心配していた、ということに全く気づけなかったんです。40を過ぎてようやく、そういうことってわかるもんですね。ずっと俺になんか興味がなくて、心配なんかしていないと思っていましたが、親ってそうじゃないんだな、と。涙もろくなってきたとか、いろんな経験をして初めて、親の気持ちがわかってくる。人それぞれ気づくタイミングがあると思います。小鉄はちょっと、父親の気持ちに気づいたのが遅かったですが……。


草なぎ剛

「何も考えていない、いい加減なくらいが丁度いい」と、あくまで軽くやり過ごしているように語るが、いざ草なぎが役に入ると豹変し、その役にしか見えなくなる。これまでも名だたる演出家や脚本家が絶大な信頼を寄せてきたように、本作でもまた、役者としての力量の確かさと高さを見せつけられた思いがする。きっと、どんな草なぎファンでさえも、小鉄のクズっぷりには顔を歪めたくなるだろうから。そのクズっぷりが後半で涙に変換される、そのときこそ、気持ちのいい“やられた感”に打ちのめされるハズだ。藤竜也という日本映画界の伝説的重鎮から、中村倫也や若葉竜也などこれからを担う俳優らとのアンサンブルも実に味わい深い。

映画『台風家族』は9月6日から26日まで3週間限定で全国公開

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