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『Red』妻夫木聡 単独インタビュー

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『Red』妻夫木聡 単独インタビュー

無個性は武器にもなる

取材・文:岡崎優子 写真:日吉永遠

現代女性の恋愛や生き方をセンセーショナルに描いた直木賞作家・島本理生の同名小説「Red」を、『幼な子われらに生まれ』(2017)などで高く評価された三島有紀子監督が映画化。10年ぶりに再会したかつての恋人・塔子(夏帆)の身も心も解放していく鞍田を演じたのが妻夫木聡だ。出世作『ウォーターボーイズ』(2001)以来、さまざまな役柄を演じてきた彼が40歳を迎える今年、大人の色香を放つこの役でまた、新たな表情を見せる。本作の舞台裏に加え、デビューから20年以上を経た現在の心境を語った。

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『悪人』以降、劇的に変わったこと

妻夫木聡

Q:三島監督が最初に決められたのが鞍田役の妻夫木さんだったそうですが、オファーが来た時はどう思われましたか?

『幼な子われらに生まれ』を観てからずっと、三島監督といつかご一緒できたらなぁと思っていて。何より、主役を誰が演じるのか決まっていない中、この役は僕にしかできないと言ってくださった。今までとは違う上の世代のイメージの役柄でしたが、そういう顔が見たいと言ってくださって嬉しかったです。

Q:役づくりについて、転機となった『悪人』(2010)からガラリとアプローチが変わったとおっしゃっていたのが印象的でした。

そうですね。『悪人』以降、役への向き合い方は凄く変わりました。それまでは足し算の芝居……この人物はこういう性格で、こういう歩き方をして、こんなことを言うとか、自分の考えで構築されたものが多かった。『悪人』撮影時に、そんなことを考えること自体が僕の自我なのではないかと思い当たり、それをまず捨てることだと本人(祐一)の気持ちで動けるようになるまで追い込みました。以降、役を自分に近づけるというよりも、自分が役に寄り添っていくようになったかなと思います。

Q:三島監督は凄く粘られる方だそうですが、撮影現場はいかがでしたか?

その人物として画面の中に「生きている」と感じられない限り、OKはもらえませんでした。その点は『悪人』『怒り』(2016)などの李相日監督と似ているかもしれません。自分としては、そういう監督の方が信頼できるし、安心できます。一番大事なのは観客がどのように観るのかを僕たちが誘導することではないんだと思います。観た人が腑に落ちることは大事ですが、そうならないよう自分に課しています。

衣装合わせには自分で考えた衣装を持参

妻夫木聡

Q:三池崇史監督の『愛と誠』(2012)では、衣装合わせで役のイメージが9割決まるとおっしゃっていたと思いますが、『Red』でも同様だったのでしょうか。

衣装合わせには、僕なりにこういう人物だろうなと思い描いた服装、髪型で行くことが多いです。今回は黒のタートルネックなどを着て行きました。話をするのはあまり得意じゃないので、そういうやり方の方が監督に感じ取ってもらえるのではないかと。

Q:『Red』というタイトル、赤の色はいろいろなことを連想させますね。

監督は一つ一つ、いろいろなところを脚色しているんです。はっきり撮りたいものがあったんだろうなと、出来上がった作品を観て思いました。

Q:演じている時の印象とは違いましたか?

自分が見たことのない顔を表現することもあって、ちょっとした違和感がありました。監督がOKを出しているからいいってことなんでしょうが、僕自身は鞍田にもっとなりきれたんじゃないかと、自分を追い求めてしまうところがあって。他の方の演技は客観的に見られましたが際立って良かったです。脚本も原作も素晴らしかったんですが、その脚本からさらに広がりがあったのは幸せでした。

Q:原作とは異なるラストに驚きました。

監督も意図的にあのシーンを最後の方に持ってきたというのはあるんでしょうね。塔子のあの言葉は観る人にとっていろんな意味にとれると思うので、言葉のチョイスを含めて監督ならではだと思います。

もともとは真っ白なタイプ

妻夫木聡

Q:昨今、役柄の振り幅がますます大きくなっていますが、作品を選ぶポイントは?

塔子じゃないですが、もともと僕は真っ白なタイプ。悪く言えば個性がない。だけど個性がないのも一種の個性で、白色って何色にも染まれるんだって思うようになってから、気持ちが楽になりました。恵まれていることに、羞恥心が全くないんです。いろいろなことにトライできるのは強みだと思うし、自分の可能性を見いだしていきたい欲望は常にあります。

Q:若手俳優の活躍も目覚ましいですが、その中でのご自身の立ち位置はどうお考えですか?

何も考えていないです(笑)。例えば役所広司さんは大先輩だし尊敬する大好きな役者さんですが、役所さんに遠慮する芝居になったら面白くないですよね。演じている時は新人も、子役も、ベテランも、同じ立ち位置だと思っています。

Q:とは言え、中堅になり先輩としてアドバイスを求められることも多いのでは?

たまに事務所で若い子たちとワークショップをやっています。お芝居って純粋に楽しいもんなんだよ、みたいなことを知るきっかけになればいいかなと思って。人間って自分の知識を経験にはめていき、それがプラスに働いてテクニックとしての引き出しが増えることもある。ただ、1回うまくいってしまうと、それをなぞる傾向にあるとも思うんです。それが自分の可能性を潰してしまうこともある。そうなるのはもったいないことで。

今後チャレンジしたいこと

妻夫木聡

Q:出演作も続きますが、今後の目標は?

大好きな映画『ブロークバック・マウンテン』(2005年・アン・リー監督)は男女関係なく、恋愛って本当に素晴らしいと感じさせてくれた。日本でもそういう映画ができたらいいなぁとずっと思っていた中で出会ったのが小説「怒り」でした。『ブロークバック・マウンテン』に通じるものを優馬役に感じ、この役は絶対やりたいと『悪人』以来久しぶりに思い、李監督に直訴しました。以後、はっきりした目標が自分の中でなかなか見つからなくて。

Q:では、今後やってみたい役柄は?

枠組みされたもの、決められたキャラクターなどを考えずやってみたいです。例えば『ブエノスアイレス』(1997年・ウォン・カーウァイ監督)は台本に縛られず作った作品のようなのですが、映画って不思議なもので、トニー・レオン(演じるファイ)の人生の話のようにも見える。夢物語ですが、そういう映画とのかかわり方は素敵だなと思いますし、一人の人間の人生、人物像を演じてみたいです。

Q:それは日本映画でぜひ観たいです!

ですよね。海外と違い、日本ではいきなり本番ってこともなく、どちらかというと入念に下準備をしてから撮影に入る傾向にあるので難しいかもしれませんが、三島監督のような違った視点を持った方もいらっしゃるから、この先あり得る話なのかなぁと思って。そういう方々を口説いて企画してみたいです(笑)。


妻夫木聡

『悪人』以降、明確に役に対する向き合い方が変わったと語る妻夫木は「芝居に答えを求めると、どうしても一線を越えた芝居にはならない」と自身を振り返る。連続ドラマ「すばらしい日々」(1998)でデビューしてから20年以上経てもなお常に反省しかないと言い、「迷うことも悩むことも多く、苦しいことばかりですが、それが俳優としての僕に必要とされていること」とストイックな姿勢は変わらない。本作での言葉ではなく多くを語る妻夫木の演技は、そんな彼のキャリアの結実とも思える。

(C) 2020『Red』製作委員会

映画『Red』は2月21日より全国公開

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