見どころ:『夜よ、こんにちは』などで知られ、現代イタリア映画界をけん引する名匠マルコ・ベロッキオ監督が26歳のときに発表した衝撃作。家族愛や信仰といった世間の価値観を否定するブルジョワ青年の破滅的な暴力を描く。主演は本作でデビューを果たし、以後フィリップ・ガレルら名だたる監督作品に出演してきたルー・カステル、音楽をエンニオ・モリコーネが担当。当時のイタリア社会に多大な影響を与え国際的に高く評価された作品。
あらすじ:北イタリアのあるブルジョア家庭、働かないでただ漫然と日々を過ごす次男アレッサンドロ(ルー・カステル)は、目の見えない母親(リリアーナ・ジェラーチェ)と障害を持つ弟、一家を支える長男アウグスト(マリノ・マッセ)とその兄を偏愛する妹ジュリア(パオラ・ピタゴラ)と共に暮らしていた。家族に対して強い不満を抱えるアレッサンドロのいら立ちは次第に暴走し、ついに母を手に掛けてしまい……。
イタリア映画界が誇る永遠の反逆児マルコ・ベロッキオの幻の処女作。物語は今で言うニートの青年による家族殺しだ。名門とはいえ実際のところ優等生の長男に養われている鬱屈した家庭で、漠然とした不満や怒りを抱える内向的な次男の狂気が静かに醸造されていく。
それはあたかも、旧世代の生んだ社会の歪みや一部のエリートしか幸福になれない現実に対する、’60年代当時の若者たちの憤怒を代弁するかのようだ。
少年のあどけなさを残した主演俳優ルー・カステル(「カサンドラ・クロス」のテロリスト)の複雑な悲しみを湛えた演技も痛々しい。希望の見いだせない若者が増えた今だからこそ、改めて見直す価値のある作品かもしれない。