見どころ:残酷でショッキングな描写がカンヌ国際映画祭やサンダンス映画祭で話題となったホラードラマ。平和で至って普通の一家の姉妹が、母親の死をきっかけに家族が抱えていた恐ろしい秘密を知ってしまう姿を追い掛けていく。メガホンを取るのは、『ネズミゾンビ』『ステイク・ランド 戦いの旅路』の気鋭ジム・マイクル。『ザ・マスター』などのアンバー・チルダーズ、『マーサ、あるいはマーシー・メイ』などのジュリア・ガーナーが、主人公の姉妹を熱演する。全編を貫くダークな世界観とビジュアルも見どころ。
あらすじ:ニューヨーク州北部の田舎町。そこで生活しているパーカー家は、どこにでもいる慎ましく健全な一家にしか見えず、その長女アイリス(アンバー・チルダーズ)と次女ローズ(ジュリア・ガーナー)も自分たちがごく普通の家庭にいることを疑っていなかった。そんな中、母親のエマが思いも寄らぬ事故で亡くなってしまう。深い悲しみに沈むアイリスとローズだったが、亡き母親に代わって一家の秘められた儀式を執り行うことになる。だが、その儀式とは想像を絶するものだった。
いつも薄暗い廃屋のような家の中で、少女たちの耳の後からうなじにかけての柔らかな肌が、静かに微かな光を発している。その微光を存分に盗み見るための1作。
画面に常に緊張感がみなぎっているのは、抑圧的な父親に支配された家で、母親の急死によって、残された姉妹の無意識の性的緊張が高まり続けていくためだ。定番通り、この緊張は最後に臨界点に達するが、そのときの"形"は大多数の予測を裏切るだろう。
姉は高校を出たばかり、妹は14歳。姉妹には幼児の弟がいて、彼女たちの純真は、弟の無垢とは別物。少女というものの純粋さと無意識のエロティシズムが堪能できる。
日本では劇場未公開だった『ネズミゾンビ』『ステイク・ランド 戦いの旅路』における揺るぎない美意識で、個性的な才能がホラー界に現われたな……と思わせたジム・ミックルの新作は、やはり期待を裏切らないものだった。
ある家族の日常を淡々と追う一方で、少女失踪事件の真相を追う構成。語り口は静かだが、不穏な空気をジワジワと高ぶらせ、クライマックスで一気に爆発させる。その抑揚に唸らされる。
派手な描写を好むホラー・ファンにはお勧めしづらいが、ジャンル映画にある種の文学性を持ち込んだセンスには見るべきものがある。ミックルはしばらく追いかけたい。
ポスターだけで、ま、そんなネタだなと判るし、ジャンルとしてはホラーに分類されるだろう。でもゴア描写はほぼ無く、終始一貫してベルイマンや東欧映画っぽいアーティスティックな画面が続く。いや、そういうホラーはしばしばあって、僕のような内臓ぶちまけてナンボな数寄者は普通、ケッと蹴飛ばすだけだが、これは肚が座っているというべきか、格調さえ感じさせる美しさ。そもそも監督はインディペンデント系ホラーの才人であるから、呪われた家(といっても親はキリスト教原理主義者)に生まれた娘たちの精神的葛藤をしっかり描きながらも、でも「私たちは私たち」(これが原題)と最後に謳いあげて、観る者をある種の爽快感に導くのだ。
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