見どころ:パンク界のカリスマ、イギー・ポップが属した The Stooges の歴史をたどる音楽ドキュメンタリー。デヴィッド・ボウイとのコラボレーションをはじめ、過激なサウンドやステージングでファンを魅了したバンドの軌跡を、イギーらメンバーのインタビューなどで紹介。『デッドマン』でイギーを起用したジム・ジャームッシュが、イギーから指名を受けて監督を務める。
あらすじ:1967年、ミシガンで知り合ったイギー・ポップら4人で結成されたバンド「The Stooges」。彼らは、デトロイトのロックシーンをけん引したMC5との交流をきっかけに、メジャーデビューを果たす。しかし、過激で個性の強い彼らの音楽は、世間に認められなかった。そんな中、デヴィッド・ボウイに声を掛けられてイギリスに渡ったイギーが、メンバーを呼び寄せてアルバムを作り上げる。
デトロイトに向けたラブレター的な面があった『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』のジャームッシュが、同市のロック・レジェンドにカメラを向けたのは、イギーとの長い交流を踏まえても必然的か。
同じロックドキュメンタリー『イヤー・オブ・ザ・ホース』と比べると対象との距離感には遠慮がちな点もあるが、首輪のエピソードをはじめとする“愚行”の数々と荒々しいサウンドが一体となり、浮かび上がる“衝撃史”には、確実に対象への愛が宿っている。
イギーのソロ転向後のキャリアをあえて切り捨て、それ以前の異端児たちを讃える潔さ。ジャームッシュが本作を“ストゥージズに宛てたラブレター”と表現するのも納得。
監督のジャームッシュはもともとザ・ストゥージズの大ファンで、そのフロントマン、イギー・ポップを自分の映画に出演させているのだから、その監督が撮るドキュメンタリーが悪くなるわけがない。きっちり、イギー・ポップの、ではなく、ザ・ストゥージズのドキュメンタリー。よくあるように関係者たちがバンドについて語るのではなく、バンドのメンバー本人たちが、当時の自分を語る。イギーは言葉の表現者でもあるので分析的発言も少しあるが、他の人たちは分析しない。ただ感じたことを語る。映画がそのように作られている。そしてメンバーたちのほとんどが、今は生き残っていない。まさにギミー・デンジャー。その実践記録がこれだ。
イギー・ポップというより、ストゥージズが大好きなんだ!――という筆者にとってコレは殿堂入り決定の一本。イグアナズの事とか前史も超充実。ジャームッシュとしては意外にも王道のバイオグラフィー系で、膨大な素材を切り貼りして情報の隙間を埋めていく作りだ(正調ジャームッシュの『パターソン』と併せると尚良し!)。
もちろんアシュトン兄弟やJ・ウィリアムスンらの『ニューヨーク・ドール』に比肩する人生劇場にも激しく痺れる。そんな波乱万丈の中で貫かれている彼らの美学とはいったい何なのか。これは監督と、イギーことジム・オスターバーグ――盟友同士であるふたりのジムの「クール」をめぐる対話の記録でもある。
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