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第9回-日本映画の再生のために-政府は何を目的に映画の製作に税金を投入しているのか(前篇)【映画で何ができるのか】

第9回-日本映画の再生のために-政府は何を目的に映画の製作に税金を投入しているのか(前篇)
前文化庁文化部芸術文化課主任芸術文化調査官(映画・映像担当)の佐伯知紀氏(写真左)と同文化部芸術文化課支援推進室長補佐の猿渡(えんど)毅氏

 日頃、なかなか実感が湧かないかと思いますが、私たち一人一人は映画の製作や振興に一役買っています! その一例が、文化庁が行っている支援や助成制度です。平成27年度(2015年)の文化庁予算額は、前年度比0.2%増の約1,038億円。政府は何を目的にこれだけの税金を投入しているのでしょうか? 平成15年(2003年)4月に発表された日本映画再生計画「これからの日本映画の振興について(提言)~日本映画の再生のために~」を牽引してきた文化庁文化部芸術文化課主任芸術文化調査官(映画・映像担当)の佐伯知紀氏が3月に定年退職されたのを機会に、同文化部芸術文化課支援推進室長補佐の猿渡(えんど)毅氏と共に、これまでの総括を伺うと同時に、様々な疑問をぶつけてみました。前篇・後篇の2回に分けてお届けします。(取材:中山治美)

−−佐伯さんは東京国立近代美術館フィルムセンター研究員を経て、平成15年(2003年)から文化庁へ。中でも日本映画の斜陽に危機感を覚えて平成13年(2001年)12月に「文化芸術振興基本法」が施行され、平成15年4月に発表された「これからの日本映画の振興について(提言)~日本映画の再生のために~」を具体的に実行されてきました。振り返って、成果のほどはいかがでしょうか?

 佐伯:「始まったのは日本映画低迷時代。平成26年(2014年)は国内年間総合興行収入ランキングのベスト10に日本映画が7作も入り、今でこそ洋画より邦画の方のシェアが上回るような状況になったけど、平成13年(2001)のシェア率は39%:61%、2003年に至っては33%:67%(文化庁調べ)と圧倒的に洋画が強く、日本映画に対する危機感があった。そこで日本映画をしっかり元気にするための政策を考えなければならないと、製作支援、海外展開支援、人材養成策の再構築、地域におけるロケーション誘致への協力など大きく12項目の施策を立て、実行してきました。自分の経験の中では、平成21年(2009年)開催の第81回米アカデミー賞で滝田洋二郎監督『おくりびと』が外国語映画賞、加藤久仁生監督『つみきのいえ』が短編アニメ映画賞と日本映画が2冠受賞するという滅多に起こらないことが起きた。これで“日本映画もなかなかのものですよ”と、国内外に示すことが出来たのではないかと思います。また、実写の若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)だけでなく、若手アニメーター育成などメディア芸術なども含めて総合的に振興を行っており、メディアの多様化にも繋がっているのではと思っています」。

『私の男』の熊切和嘉監督
『私の男』の熊切和嘉監督は、平成26年度「新進芸術家海外研修制度」を活用してフランス・パリに留学中。ほか映画部門では俳優鈴木一真も選ばれており、米国・ロサンゼルスへ飛んだ。

 その象徴として文化庁では、平成9年(1997年)から、漫画やアニメーション、ゲームなどの発表や鑑賞、表彰の場となる「メディア芸術祭」をスタートさせました。私自身、文化庁の委託事業として公益財団法人ユニジャパン(日本映像国際振興協会)が行っている「海外映画祭出品支援」の選考委員をこの3~4年務めていますが、短編アニメーションや実験映画で国際映画祭に参加するクリエーターが増加していることを実感しています。平成25年(2013年)で言えば、アヌシー国際アニメーション映画祭(フランス)に参加した吉浦康裕監督『サカサマのパテマ』から、今やロックバンド「GLAY」のツアーマスコットキャラクターなども手がけているアニメーション作家・水江未来監督が『WONDER』を引っさげてベルリン国際映画祭へ行った際の渡航費などを支援しました。

−−ただ一方で、そうした支援がなかなか外に伝わっていないように思います。報じない方にも問題はあるかと思いますが、例えば演劇は、文化庁の新進芸術家海外研修制度で英国留学した長塚圭史や、同じく海外派遣型文化交流使でイスラエルに渡った森山未來が帰国すると、凱旋しての新たな挑戦が話題になりますが、対して映画は……。

佐伯:「映画も行っているんですけどね。平成25年度(2013年)は山下敦弘監督作の脚本を手がけている向井康介さんが中国、平成26年度(2014年)は熊切和嘉監督がフランス、俳優の鈴木一真さんがアメリカと、中堅どころが行っている。本人たちが、謙遜してあまり言わないのかな」

−−基本的に官庁系が発信する情報は、こちらからアクセスしないと情報が入って来ない印象があります。佐伯さんも面接を担当していたので分かると思いますが、 海外映画祭出品支援でも、自主映画の監督たちは「こういう助成があることを今まで知らなかった」と口にする人が多いと感じたと思います。

佐伯:「それは自分たちから情報を取りに来るぐらいの積極性がないと。日本映画製作者連盟や日本映画監督協会など既存の団体には告知してますし、説明も行っています。それ以外の、自主製作している個人には……という事ですよね」

−−その佐伯さんの言葉を象徴しているのが、芸術文化振興基金(政府出資の541億円と民間からの出捐金112億円の計653億円を原資に運営)による映画製作支援(芸術創造活動特別推進事業)だと思います。私自身、平成25年度(2013年)と26年度(2014年)の劇映画の専門委員を担当しましたが、平成16年(2004年)のスタート当初から映画界を取り巻く状況も変化し、矛盾を多々感じます。最大はフィルムからデジタルの時代へと変化し、製作費のコストが抑えられるようになったのが大きいのですが、劇映画の助成対象作品は製作費1億円以上(助成金2,000万円)か、同5,000万円以上(同1,000万円)。
それ以下で製作された『百円の恋』(武正晴監督)クラスの作品は、対象外となってしまいます。

若手映画作家育成プロジェクト2014のメンバー
若手映画作家育成プロジェクト2014のメンバー。(写真左から)飯塚俊光監督、加瀬聡監督、草刈勲監督、富山省吾スーパーバイザー、羽生敏博監督、吉野耕平監督

佐伯:「現在行われている助成制度は、プロが製作に携わり、ある程度の規模で公開される作品を前提としたものを対象に考えています。製作費1,000万円以下の作品に助成したとしても、その額は非常に少ないですよ」

−−募集は年2回に分かれていますが、いずれも年度末の3月31日までに完成させなければならないという期間の短さも、製作者側から使い勝手の悪さがよく指摘されます。

猿渡「単年という枠組みを外すのは、そもそもの国の会計制度に関わってくる問題です。確かにその要望はありますが、対応は難しいです」

−−また平成18年(2006年)にスタートしたndjcは35mmフィルムによる短編製作を目的としています。今や貴重な経験ですが、デジタル時代に果たしてそれが適切なのか? また短編より長編の方が、劇場公開など製作後の展開が拓けるように思います。

佐伯:「文化庁の『次代の文化を創造する新進芸術家育成事業』で支援している、日本映画撮影監督協会の『撮影助手育成塾』でも35mmカメラを使っての実習を行っています。ただndjcも編集をデジタルで行わなければならない状況に来ています。製作の現場は、たしかに物凄く多様化してしまいました。一度、洗い直さなければいけないですよね。ただ、そうなるには平成15年(2003年)の頃のように、“日本映画がなくなるかもしれない”と誰もが懸念したような、分かりやすい危機感がないとその機運は映画業界内からも起こらないでしょう。海外展開支援は成果が出ていると思いますし、日本映画界全体の振興という意味においても、興行収入の邦・洋画の比率が表わしているように一定の成果をあげていると言わざるをえない状況にありますから。なので文化庁の予算の枠内ではない、何か別の方法で(予算を)引き上げる議論はあってもいいのでは? と思います」。

後半に続く。

◯文化庁メディア芸術祭
http://j-mediaarts.jp

◯海外映画祭出品支援
http://unijapan.org/oversea/support/

◯芸術文化振興基金
http://www.ntj.jac.go.jp/kikin.html

◯若手映画作家育成プロジェクト
http://www.vipo-ndjc.jp/top.html

◯新進芸術家の海外研修
http://www.bunka.go.jp/geijutsu_bunka/05kenshu/

◯ 撮影助手育成塾
http://ikuseijuku.web.fc2.com

◯次代の文化を創造する新進芸術家育成事業
http://www.bunka.go.jp/geijutsu_bunka/05ikusei/


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