「13の理由」は、なぜ口コミでヒットしたのか?<シーズン1評>

厳選!ハマる海外ドラマ

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自殺した美人女子高生ハンナ・ベイカー

 3月31日にNetflixで世界同時配信された「13の理由」。配信と同時にビンジウォッチング(一気に観ること)してから2か月が経った今でも、主人公ハンナ・ベイカーのことを思うだけで、胸が張り裂けそうだ。長くドラマを見続けてきたけれど、こんなに涙を流しながら観たドラマはそうはないし、これほどまでに自分がティーンエイジャーの心に感情移入することができるなんて。プロデューサーでもあるセレーナ・ゴメスがカバーした「Only You」を聞くたびに、パブロフの犬のように涙がこみ上げてくる。

自殺した少女の学園で起きていた壮絶ないじめ

 「13の理由」は、アメリカの作家ジェイ・アッシャーが2007年に発表した同名ヤングアダルト小説のドラマ化。郊外にある高校で、女子高生ハンナが自殺した。物語は、ハンナが死の直前に、その原因となった13人が、何をしたのかを吹き込んだカセットテープを通じて、自殺に至るまでの過程を明かしていく。1話がテープの片面の1人分で、全13話。テープを再生するのは彼女の同級生で、映画館で一緒にアルバイトをしていた情緒不安定気味な青年クレイ。突然、家に届いたテープを聞く彼を通して、自分と周囲の人々が何をしてしまったのか、あるいは“何をしなかったのか”を知ることになる。

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ハンナが遺した13のカセットテープには一体何がおさめられているのか? その目的は……?

 若手キャストはハンナ役のオーストラリア出身のキャサリン・ラングフォードを筆頭に、有名スターはほとんどいない。「ハウス・オブ・カード 野望の階段」などに比べればNetflixの推しのタイトルでもなさそうで、事前のプロモーションもあまり見なかった。一早く視聴したのは、オスカー受賞作『スポットライト 世紀のスクープ』(2015)のトム・マッカーシー(2エピソードを監督)がプロデューサーとして参加していることと、何よりセンセーショナルな題材に興味を惹かれたから。つまり割と軽い気持ちで見始めたのだが、これがまさかの社会派! SNS時代のいじめ、自殺、不安、性的暴行、自傷行為、うつ病、そして古い女性観に基づく非難や偏見(スラット・シェイミング)といった要素から目をそらすことなく、きっちりと描き切っている。それが出来ている作品は、間違いなく社会派と言えるはず。

 最初は、学校の複雑な人間模様や親の事情なども絡み合い、ミステリーの要素に引っ張られる。ハンナは嘘をついているんじゃないのかとの疑念も湧いたり、目的はリベンジなのか、ほかにあるのかも不明だ。とりわけ序盤は、クレイは原作(鑑賞後に読んだ)では一晩でテープを聞き終えるが、ドラマでは13話あるのでそうもいかず、歩みののろさにイライラしつつも引き込まれていく。何より、ハンナが語る過去を追体験しながら、もうこの世にはいないハンナとクレイが対話するスタイルは、視聴者とハンナのシンクロ率をこの上なく高めるのに効果的だ。これは原作も同じで、しばらくすると本もドラマも、本当にハンナが自分に向かって問いかけているような不思議な感覚。誰かのちょっとした悪意が湖面のさざ波のように広がっていき、徐々に明かされていく思いもかけないバタフライ効果を生む過程は、ミステリー、青春ドラマのノリからより深刻なものとなっていく。

ハンナはバスケットボールの花形選手ジャスティンと“公園デート”をするが、これが悲劇の引き金に……

 心がゆっくりと死んでいく感覚。ここに共鳴してしまったら、あとはもう号泣するしかない。ティーンじゃなくたって、通勤電車や会社、仕事場や家庭、人付き合いの中で、自分の中の何かを殺さなければやっていけないと感じたことがある人は少なくないはず。わたしはハンナの心がゆっくりと死んでいくさまを体感しながら、何度も何度もハンナに、心の中で語りかけた。傷ついても傷ついていないフリをしながら、「大したことないよね、へへっ」といった曖昧な笑顔を見せるハンナは、わたしたち自身の日常なのだ。

 なぜ、ティーンエイジャーが自殺するのか。ギリギリのところで踏みとどまれた人と、とどまれなかった人。その差は、どこにあるのかを考えることは、すべての大人にとって必要だし、若者にとっても重要なこと。だからこそ、世界各国で本作が「自殺を美化している」「若者の自殺を後押しするのではないか」との議論が巻き起こっているのは、当然だと思う。「13の理由」は、それだけ深く、人の心の奥深くに入り込んでくる影響力を持つ作品でもあるから、取り扱いには細心の注意が必要だ。一方で、自殺を美化しているといった指摘には異を唱えたい。とりわけショッキングである自殺のシーンを、あえてリアルに見せ切った演出は英断で、描かない、もしくは幻想的なシーンにしてしまったら、それこそが美化というものだろう。痛々しく流れる血があって、打ちひしがれる家族の姿があって、あと少しで手が届いたかもしれないハンナの幸せな未来が絶たれてしまった現実。それは、ショウランナーのブライアン・ヨーキーが特別番組「13の理由:現代が抱える社会の闇を考える」(こちらも必ず観てほしい)で語っているように、「自殺は決して報われない」ということをまざまざと見せつけるものだから。

友達以上、恋人未満の関係が続くバイト仲間のクレイとハンナ。ハンナのクレイへの複雑な思いに胸を締め付けられる

 「13の理由」は、作品としての出来とか点数とか賞といったものを超えた、圧倒的なパワーを持つ作品だ。「最近どう?」と一言声をかけるだけで、ほんの小さな行動を起こすことによって救える命があることの重要性を理解してもらいたい。そうした社会の意識の改革を、心から願う作り手の真摯な思い、情熱は、完成度を超えた価値を生む。

 昨年の最大の話題作の一つ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」(2016)もそうだったが、「13の理由」もまた視聴者が先に作品を発見し、SNSや口コミで自発的に世に広めたことでムーブメントが起こった。これは企画が望みうる最上の形で実現できたことはもちろん、全世界同時配信というスタイルだからこそ可能にした。「13の理由」は間違いなく今年を代表するアメリカのドラマの一本であると同時に、Netflixの新しい可能性を示すものでもあり、エンターテインメントの宣伝のあり方にも変化をもたらす作品でもあるだろう。

「13の理由」(原題:13 Reasons Why)
93点
感動 ★★★★★
ミステリー ★★★☆☆
社会派 ★★★★☆
青春 ★★★★★
視聴方法:シーズン1(全13話)はNetflixで独占配信中

今祥枝(いま・さちえ)
映画・海外ドラマ ライター。「BAILA(バイラ)」「日経エンタテインメント!」ほかで執筆。著書に「海外ドラマ10年史」(日経BP社)。こぢんまりとした人間ドラマ&ミステリーが大好物。作品のセレクトは5点満点で3点以上が目安にしています。

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