脚本家・野島伸司が「高校教師」の過激路線を封じてきた理由

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野島伸司

 「高校教師」(1993)や「人間・失格~たとえばぼくが死んだら」(1994)、「聖者の行進」(1998)などタブーとされる題材を扱った問題作を世に送り出してきた脚本家・野島伸司。そんな彼が「性嗜好障害」をテーマにした新作ドラマ「雨が降ると君は優しい」を書き下ろした。「ずっと休んでいた本当の野島伸司が久々に仕事をした」と笑顔で語っていたが、そこにはコンプライアンスという言葉のもと、ドラマ界を取り巻く環境の変化が大きく関係していた。

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コンプライアンスに抵触し、お蔵入りの危機も

 「雨が降ると君は優しい」は「性嗜好障害」に陥った妻と、その事実を知ってしまった夫との究極の愛の形が描かれた作品だ。本作を企画したのは3年前だったが、実現までには大きな困難があったという。

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 「地上波や衛星波、いくつかの放送局に企画を持っていったのですが、どこも『性依存』という部分がコンプライアンスに引っ掛かるということでNGになった。完全に暗礁に乗り上げていたところ、Huluさんがやってくれるということになり、時間が掛かりましたが、実現することができたんです」。

 しかし野島は、本作がコンプライアンスに引っ掛かる物語だとは思っていなかったという。「確かに『性嗜好障害』がテーマというと過激に聞こえるかもしれませんが、最近流行の不倫ドラマのような快楽的なものではなく、夫婦にとって最高難度の枷を設けることで、精神のノーブルさを浮き出たせられるのではないか、という意識だったんです」。

 具体的には「イメージは1993年の『高校教師』に近いのかなと思うんです。桜井(幸子)が演じたヒロイン・繭には、父親との間に(禁断の)枷がありましたが、そのことによって(真田広之演じる教師・羽村との間の)純粋さやピュアさが浮き彫りになっていきました。本作はそれに近い世界観だと思っています」と説明。

クレームの矛先が変わりつつある昨今

 野島といえば前述したように、1990年代にはセンセーショナルなテーマの物語を次々と世に送り出していたが、近年こうしたエッジの効いた作品は影を潜めていたように感じられる。この点について、「やっぱり昔とはテレビドラマ界を取り巻く環境が違います」と語り出すと「昔から激しいものをやると抗議はありましたが、当時のクレームはテレビ局に向けられた。でも、今はネット社会の影響もあってか、批判的な視聴者がスポンサーに抗議することが増えた。強固に番組を守り抜くことが難しくなり、必然的に問題になりそうなものはあらかじめ敬遠されてしまうんです」と現状を嘆く。

 では、こうした時代の変化に対して野島はどう対応していったのだろうか。「僕の中には3人の違う物書きがいるんです。職業ライター的な自分、ポップな部分を強調する自分、そして僕の名を世に刻んでくれた、重くてディープなものを書く自分。その時々で、それぞれが登場して仕事をしてきたんです。ただ、今の地上波ドラマのコンプライアンスでは、一番の功労者であるディープな物書きの出番がなかった。それが今回機会を得た。彼が書くのは久々じゃないですかね」と笑顔を見せる。

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玉山鉄二&佐々木希が妻の「性嗜好障害」に苦悩する夫婦を演じるドラマ「雨が降ると君は優しい」

「性嗜好障害」をテーマにした理由

 では、なぜ今回「性嗜好障害」というテーマを選んだのだろうか。そこには野島の実体験が色濃く反映されているという。「子どもができたとき、無償の愛を感じたんです。それは通常の恋愛で感じた愛情の比ではなかった。この感覚を、異性とのラブストーリーに変換できないかと。そのとき、無償の愛とは、相手に対する父性本能、母性本能に近いものかなと感じたんです」。

 そして父性本能、母性本能の根底にある重要な要素が“欠落感”だと野島は語る。「恋愛って相手の良いところ、例えば優しい気持ちや温かい思い、またはビジュアルだったり、地位や名声だったりという部分を見ている。でも母性や父性というものは、相手の欠点に感応するものだと思うんです」。

 その意味で「性嗜好障害」というのは夫婦にとって無償の愛を試される最高難度の枷である、という逆算のもと、本作は企画された。「妻の性嗜好障害を知り、悩み抜く夫。その枷をどのように乗り越えるか、限界を超えてまで耐え抜く姿は無償の愛に近いものだし、あえて性という重すぎる枷を置くことによって、精神のノーブルさがより強調されるんです」。

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 くしくも、自身が転機となったという「高校教師」に込めたモチーフと近いものがあるというドラマ「雨が降ると君は優しい」。しかし当時と大きく違う部分は野島の心持ちだ。「今さら番組が一つ二つ興行的に成功するとか、僕にはもう意味がないんです。もちろん成功すれば周囲は喜んでくれますが、それよりも、後世に良いソフトを残したいという思いが強い。数字とか表面的なものは上書きされて終わりですから」と本音を吐露する。さらに付け加えて「その意味では理想的な作品になったと思います。すごく良いですよ」と自信をのぞかせていた。(取材・文:磯部正和)

Huluオリジナルドラマ「雨が降ると君は優しい」は9月16日より配信スタート

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