パラサイトだけじゃない!ポン・ジュノ監督の才腕に酔う映画7選

『殺人の追憶』より
『殺人の追憶』より - Palm Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

 カンヌ国際映画祭でパルムドールを制するばかりか、アジア単独映画として初めて米アカデミー賞作品賞を受賞する快挙を成し遂げた韓国映画『パラサイト 半地下の家族』。日本でも2020年の洋画興行収入の3位にランクインするほどの大ヒットを飛ばし、ポン・ジュノ監督の名は広く知られるようになった。とはいえ、決していきなり脚光を浴びたワケではなく、彼はこれまでにも多彩な作品を放ち、世界を唸らせ続けてきた。そう、『パラサイト』だけが傑作ではない。それ以前から、ポン・ジュノの作品は切れ味鋭く、観客を魅了し続けてきたのだ。そんな鬼才のこれまでの歩みを改めて振り返りつつ、彼の映画の魅力に迫る。(相馬学)

【写真】記念すべき長編デビュー作!

『ほえる犬は噛まない』(2000)

 記念すべき長編デビュー作は、どこにでもある団地を舞台にした人間ドラマ。大学教授になりたくてもなれない非常勤講師と、英雄に憧れる女の子を主人公にして、彼らのサエない日常を描く。団地では飼うことを禁じられている“犬”の存在をめぐって知り合った彼らは、それぞれの夢をかなえることができるのか!? リアルな人間ドラマをベースにしてユーモアとスリル、社会性や風刺を盛り込むポン監督の手腕は、この時点ですでに確立しており、ダメ人間の話ではあるが深い共感を呼び起こす。当時かけだしだったヒロイン、ペ・ドゥナは本作で注目され、スター女優の道を歩み出したが、役者の持ち味を最大限に引き出す監督の演出も光っていた。ミュンヘン国際映画祭では新人監督賞を受賞。日本では次作『殺人の追憶』の韓国でのヒットを受け、製作から3年後に劇場公開された。

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『殺人の追憶』(2003)

ポン・ジュノ
Palm Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

 韓国で記録的な大ヒットとなり、ポン監督の名を知らしめた出世作。当時は未解決だった連続殺人事件の実話にヒントを得て、サスペンス風のドラマを展開させる。若い女性を狙った残忍な連続殺人事件を追う、田舎町の粗暴な中年刑事と、都会から来た理性的な刑事。性格的に噛み合わない彼らは、証拠らしい証拠を残さない犯人に翻弄され、捜査は一向に進展せず……。犯人を特定してメデタシ、メデタシ……となるミステリーではなく、笑わせるところは笑わせ、ゾッとさせるところはゾッとさせながら、人間の愚かさや、警察という権力の横暴を風刺的に見つめた秀作。乱暴者だが人の好い中年刑事にふんしたソン・ガンホは以後、『パラサイト 半地下の家族』まで、ポン作品の常連俳優として活躍する。韓国のアカデミー賞といわれる大鐘賞をはじめ国内の映画賞を独占。なお、実際の事件は2019年になってようやく、一応の解決を見た。

『グエムル -漢江の怪物-』(2006)

ポン・ジュノ
Magnolia Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

 長編第3作は、なんと怪獣映画! とはいえ、もちろんジャンルの枠に収まることはなく、『パラサイト 半地下の家族』にも似た家族の悲劇や救済のドラマに軸足を置いている。薬品の不法投棄により、ソウルの大河、漢江に巨大かつ強暴な怪物=グエムルが出現し、人間を次々と捕食。河川敷で売店を営む呑気な中年男は、グエムルに殺されたと思われた最愛の娘が川の地下道で生き延びていることを知り、家族とともにこの怪物に立ち向かっていく。男の敵はグエムルだけではない。怪物と接触した彼を隔離しようとする政府機関にも抵抗しなければならないのだが、そんな部分に韓国の“圧政”の歴史をさりげなく浮かび上がらせる。もちろん社会派に偏らず、笑いとスリルを盛り込んだポン監督の演出は冴えわたり、韓国ではまたもメガヒットを記録。アメリカをはじめ海外でも公開され、好評を博した。

『TOKYO!』(2008)

 日本の主導によって製作された3話のオムニバス作品。『ポンヌフの恋人』のレオス・カラックス、『エターナル・サンシャイン』のミシェル・ゴンドリーという鬼才たちと肩を並べ、ポン監督は東京を舞台にしたユニークな作品を生み出した。主人公は、住宅地の古びた家で10年にわたり引きこもり生活を送っている男。食料や生活用品はすべて宅配でまかない、配達員とは決して目を合わせず、他人との交流を遮断している。そんな彼が、デリバリーピザの配達をしている風変わり女性と目を合わせてしまったことから、町に異変が広がっていく……。長編作品に比べるとファンタジーの視線に寄っており、ほんのりとラブストーリーの風味も。一方で、都市生活の孤独を見つめる視線は鋭く、他人とうまくコミュニケーションがとれない現代人の歯がゆさや苦悶がにじむ。香川照之蒼井優の共演も見どころ。

『母なる証明』(2009)

 『パラサイト 半地下の家族』をはじめ、ポン監督の作品の多くは社会の底辺で暮らす家庭の現実や、親子の強い絆を題材にしているが、本作もそのひとつ。知的障害を持つ28歳の息子が殺人容疑で逮捕され、薬屋を営む母親は彼の無実を信じて奔走する。被害者の女子高生は援助交際をしており、複数の男性と関係を持っていた。その中に犯人がいると、母親はにらむが、やがて意外な事実が明らかになり……。サスペンスフルな物語の中に浮かび上がるのは、理性に感情が勝り、暴走する人間の心情。子どもを溺愛するあまりに、一線を越えてしまう母親の激情を突き詰める。ポン監督の作品の中ではユーモアは比較的控えめで、ズッシリと重い感触を残す力作。母親を演じたキム・ヘジャは米LA批評家協会賞の女優賞を受賞。

『スノーピアサー』(2013)

ポン・ジュノ
The Weinstein Company / Photofest / ゲッティ イメージズ

 フランス製のグラフィックノベルに魅了されたポン監督が、ハリウッドなど海外との共同製作により、その映画化に挑んだSFスリラー。彼にとって初の英語作品となった。舞台は2031年、温暖化防止のための薬品の誤作用によって、雪と氷に覆われた地球。生き残った人々は、永久に地球上を走り続ける列車の中で階級社会を築いていた。ある日、最後方の車両で、国籍や人種を超えてすし詰めにされていた最下層の人々が反乱を決意。兵たちに立ち向かい、一両、また一両と前方の車両に向かううちに、彼らはそれまで知らなかった意外な事実に直面することになる……。『パラサイト 半地下の家族』にも通じる格差社会の構図が、ここにも垣間見られるが、本作ではそのメカニズムに迫っている点で興味深い。『アベンジャーズ』シリーズのクリス・エヴァンスら国際的なキャスティングをまとめ上げた手腕も光る。

『Okja/オクジャ』(2017)

ポン・ジュノ

 ブラッド・ピット率いるプロダクション、プランBに才腕を買われ、その製作下で作り上げたNetflix配信作品。大企業が開発した巨大なブタ“スーパーピッグ”の育成コンテスト。韓国の山奥で畜産農家の祖父と暮らす少女ミジャは、オクジャと名付けられたこのスーパーピッグに家族のような愛情を注いできた。オクジャはコンテストで優勝。ニューヨークにある大企業の施設に連れ戻されることになるが、それを知らされていなかったミジャは悲しみと怒りに突き動かされ、オクジャを連れ戻そうと危険な行動に打って出る……。大企業や食肉産業への風刺を込めつつ、少女とオクジャの絆を温かく描いた物語はユーモアと人間味に彩られ、芳醇な味わいを堪能させてくれる。大人の欺瞞を見抜くかのようなミジャ役のアン・ソヒョンの鋭いまなざしも忘れ難い。Netflix作品としては初のカンヌ映画祭コンペティション出品作となり、後の『パラサイト 半地下の家族』のパルムドール受賞に弾みを付けた。

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