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『ドライブ・マイ・カー』三浦透子、元子役の経験が役とシンクロ

三浦透子
三浦透子

 『寝ても覚めても』などの濱口竜介監督が村上春樹の短編小説を映画化し、第74回カンヌ国際映画祭脚本賞を日本映画で初めて受賞した『ドライブ・マイ・カー』(8月20日公開)。本作でヒロインの寡黙なドライバーにふんしたのが三浦透子。5歳から女優として活躍し、近年では新海誠監督のアニメーション映画『天気の子』の楽曲で女性ボーカルを務め紅白歌合戦にも出場。活躍の幅を広げる三浦が、憧れの濱口監督とタッグを組み「自分に近しい部分がある役ゆえに、自分を見ているような感覚になる作品でもあった」と撮影を振り返った。

【動画】インタビューの様子

複数の短編を束ねた脚本に驚き

映画『ドライブ・マイ・カー』より。主人公・家福(西島秀俊)とドライバーのみさき(三浦透子)

 本作は、2014年に刊行された村上春樹の短編集「女のいない男たち」所収の同名小説に基づくロードムービー。主人公は、愛する妻を亡くした喪失感を抱えながら生きる舞台俳優、演出家の家福(かふく/西島秀俊)。2年後、広島の演劇祭に招かれた彼が、現地での専属ドライバー・みさき(三浦)と共に過ごすうちに、これまで目を背けていた妻の秘密と向き合うこととなる。

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 三浦と村上春樹作品との出会いは、長編小説「ノルウェイの森」、短編集「レキシントンの幽霊」からだと言い、「苦しいぐらいに自分と向き合う主人公たちが描かれている」とその印象を話す。「ドライブ・マイ・カー」は出演が決まってから読み、濱口監督、大江崇允が共同で手掛けた脚本についてこう語る。「映画をご覧になった方が原作と比べたときにどう感じるだろうと思いながら読んでいましたが、みさきの設定もアレンジされているんだけれど、根底に流れている空気は小説と同じ匂いがして、そこが素敵だなと。『女のいない男たち』の他の短編(※「木野」「シェエラザード」)も反映されていますが、脚本を読んだときに面白いと感じた部分が複数の小説に点在していて、それがこうして一本の映画になるってすごいです」

 三浦演じるみさきは、家福いわく「車に乗っていることを忘れてしまう」ような、丁寧で繊細なドライブテクニックを持つ女性。他人に自分の車を運転させたがらない家福の信頼も得て、妻を亡くした絶望から立ち直れない彼に少なからずの影響を与えていく。三浦は、もともとは濱口監督の別作品(『偶然と想像』)のオーディションに参加しており、濱口監督の強い希望によって『ドライブ・マイ・カー』に出演することになったという。

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 「一時間くらいのオーディションでした。ほとんど雑談というか、わたしのパーソナルな部分について質問された記憶があります。例えば、『どんな子供時代でしたか?』とか『普段何していますか?』というようなことです。これはあくまで想像ですけど、おそらくわたしのお芝居というよりは、モノの考え方のようなところにみさきと近い部分があると感じ、キャスティングしてくださったのではないかと思います」

運転に集約されたみさきの人柄

三浦は本作のために運転免許を取得!

 三浦いわく、みさきは「相手が語りたくなる空気を作れる人。直接的に何かを問うでもなく相手から言葉を引き出す力を持っている」。そして、そのバックグラウンドをこう分析する。「いろんな苦しい環境を乗り越えてきた彼女だからこそ相手の苦しみを理解でき、それを解放させるような力がある。彼女は話すときに、相手にどのように響くのかをきちんと考えている印象があって。それは運転が上手という部分にも通ずると思うんです。わたし自身、運転の練習をしていて、彼女の持つ優しさ、気配り、視野の広さみたいなものが運転にも集約されているのではないかと感じました」。なお、みさきは凄腕のドライバーの設定だが、三浦自身は運転免許を持っておらず、本作のために取得している。

 みさきとシンクロする部分が多々あったという三浦。多くを語らないみさきだが、専属ドライバーとして家福と日々過ごすうちに、ぽつぽつと彼に身の上話をするようになり、その会話には幼少期からの苦労が垣間見える。三浦は、2002年にサントリーの清涼飲料水「なっちゃん」のCMで話題を呼び、「天才柳沢教授の生活」(2002)、「嵐がくれたもの」(2009)などのドラマや、映画で活躍。そんな子役時代にみさきと通ずるところがあるようだ。

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 「劇中に、みさきの『嘘ばかりつく人の中で育ったから、それを聞き分けないと生きていけなかった』という台詞があります。わたし自身は素敵な環境で育ったと思っていますが、本音と建て前を見分けようとしてしまうところはわたしにもあると思います。子役時代から仕事をしてきて大人と触れ合う機会がたくさんありました。いろんな人がいろんなことを言ってくるけど、それがどのぐらい自分のために言ってくれていることなのか、ただその場を解決するために言っていることなのか。誰を信用するのか、とまでいうと大げさですが、そういうことを常に考えながら生きてきてしまったような気がします。みさきはもっとずっと苦しい経験をしてきたと思います。けれど彼女は、ひとに対しても、自分に対しても、穏やかで本当に優しい。決して簡単なことではないと思います。そういう姿が本当に尊敬できるし、わたしもそうありたいと思いました」

会話のないシーンが重要

車中の家福とみさき

 劇中、みさきと家福は多くを車中で過ごすが、会話が多いわけではなく沈黙もある。その中で築かれていく、言葉を超えたみさきと家福の絆が本作の大きな見どころの一つでもあるが、どのようにして演じていったのか。「会話のない、ただ運転しているだけのシーンも沢山撮影しました。西島さんと二人きりで車に乗っている時間が、みさきと家福の間の空気みたいなものを自然と育てていってくれたような気がします。濱口さんをはじめとするスタッフの皆さんが用意してくださった環境によるものだと思います。撮影もほとんど順撮りでしたし、とても恵まれた現場でした」

 加えて、三浦の役への理解を深める大きな助けとなったのが、濱口監督が撮影前に行った膨大なホン(台本)読みの時間。「これは監督の意図とは別かもしれませんが、ホン読みを続けていたら西島さんの声を聞くとその日の体調、状態がわかるようになってくるというか、相手の声から伝わる情報に対して敏感になるんです。それで、『ああ、みさきは多分これをキャッチできる子なんだな』と思ったんです。運転しているときには顔を見られないので声だけでその人の感情や状態を読み取りながら、その人にとって居心地のいい空気を作る。こういうことを意識すればみさきに近づけるのではないかと思って、ホン読みや撮影中も、より西島さんの声に耳をすませるようにしていました」

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 西島とは初共演になるが、撮影の合間に交わした何気ない会話が重要だったとも。「西島さんは撮影現場で常に集中されている一方で、常に話しかけても大丈夫というような、どちらの状態もずっとあるというか。あらためて本当にプロフェッショナルな方だなと。たくさんお話したような気もするのですが、実際は多分そんなにお話ししていないと思います。ただ黙って車の中に二人でいる時間がとても居心地がよかったのでそう感じたのかもしれません。そういう時間は映像に生きている気がします」

 本作は2020年3月の撮影がコロナ禍で中断。舞台を当初の予定だった韓国から広島に移し、11月に撮影が再開された。コロナ禍で表現者としてどのような心境でいたのか、尋ねると「世の中に不安があって、いつもとは同じではない状況があるなかで、映画を観ている時間は平時と同じと思える。コロナ禍だからこそと意識するのではなく、これまでと同じように真摯にいいと思える作品を作り続けるぐらいしか、わたしにできることはないのかなと思います」と前を向いていた。(編集部・石井百合子)

『ドライブ・マイ・カー』三浦透子インタビュー「運転に人柄が集約される」 » 動画の詳細
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