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アカデミー賞2022注目ポイント!作品賞の最有力候補は?

第94回アカデミー賞

作品賞最有力候補に躍り出た『コーダ あいのうた』
作品賞最有力候補に躍り出た『コーダ あいのうた』 - (C) 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

 オスカー戦線が、直前になって面白いことになってきた。ここに来て突然、『コーダ あいのうた』が作品部門の最有力候補に躍り出たのである。現地時間25日に出たオスカー予想で、「Los Angeles Times」「Variety」「Deadline」は一様に、『コーダ』を作品賞に挙げた。フロントランナーとされてきた『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の関係者は、今頃かなり焦っているはずだ。(文:猿渡由紀)

【動画】作品賞最有力候補に躍り出た『コーダ あいのうた』予告編

 『コーダ』を勢いづかせたきっかけは、全米映画俳優組合賞(SAG)のサプライズ受賞。そして今月19日に発表された全米プロデューサー組合賞(PGA)の受賞が、決定的にした。

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 オスカーの結果はPGAとしばしば一致する上、PGAはオスカー作品部門と同じ「プリフェレンシャル・バロット」と呼ばれる投票方法を採用している。一つの作品を選ぶのでなく、候補作全てに順位をつけて投票するやり方だ。開票作業では、それぞれの投票者が何を1位に選んだかだけに注目。1位に選んだ人が最も少なかった作品はそこで除外され、その作品に入れた人の票は、2位に入れたものを1位に繰り上げ、再び同じ作業を行う。それを繰り返し、ある時点で、ある作品が全体の50%以上の票を得たら、それが受賞作となる。

 この方法では、好き嫌いが極端に分かれる作品は不利で、ほとんどの人が4位くらいまでに入れる、広く好感を持たれている作品が強い。笑いと涙にあふれる感動作である『コーダ』がそれに当たるのは驚きではなく、PGAの結果がそれを証明した形だ。

 とは言っても、まだわからない。2020年、『1917 命をかけた伝令』がPGAを受賞し、オスカーも確実かと思われていたら『パラサイト 半地下の家族』が大逆転したように、アカデミー会員の顔ぶれが国際化していく中で、PGAは絶対と言いにくくなってきている。また、同じく現地時間25日に「The Hollywood Reporter」が出した、統計に基づくオスカー予想では、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』がダントツのフロントランナーだ。

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 だが、本当に『コーダ』が受賞したら、過去に信じられてきた“常識”がさらに壊れることになり、面白いことになる。『コーダ』はわずか3部門でしか候補入りしておらず、決め手である編集部門にも入っていない。それに、『コーダ』を北米配給するAppleは、意外にもそれほど派手なアワードキャンペーンを展開しなかったのだ。もちろん、看板広告や新聞広告、業界サイトのバナー広告などは出したが、Netflixの『パワー・オブ・ザ・ドッグ』やフォーカスの『ベルファスト』に比べればかなり地味で、始めるのも遅かった。映画のアメリカ公開も8月だったし、Appleは昨年のサンダンス映画祭で史上最高額の2,500万ドル(約28億7500万円・1ドル115円計算)を出して今作を買ったにもかかわらず、本気でオスカーを狙うつもりはないのかと疑問に思っていたのだが、作品の力は強かったということだろう。

ドライブ・マイ・カー
作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞の計4部門にノミネートされている『ドライブ・マイ・カー』 - (c) 2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

 この『コーダ』の勢いは、『ドライブ・マイ・カー』にも影を落とす。『ドライブ・マイ・カー』の国際長編映画賞受賞は揺るぎないが、次に狙える脚色部門が危なくなってきた。今月13日の英国アカデミー賞でもこの部門を受賞したことも踏まえれば、今や『コーダ』はこの部門でもフロントランナーと言える。

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 一方で、監督部門の動向に変わりはなく、ここは『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェーン・カンピオンで確実だ。今月13日の放送映画批評家協会賞授賞式で、ビーナス&セリーナ・ウィリアムズに対して失礼な発言をし、論議を呼んだカンピオンだが、この部門の行方を変えるほど影響を与えたとは思えない。論議と言えば、『リコリス・ピザ』の日本人女性への差別的な描写にも、主にアジア系から批判が起きている。『リコリス・ピザ』が何か受賞できるとしたら、可能性があるのは脚本部門。だが、この部門のフロントランナーは『ベルファスト』と考えられており、批判の影響があってもなくても同じかもしれない。

 さて、授賞式そのものに話を移そう。今年、アカデミーは、編集、音響、美術、短編など8部門を生中継から除外し、最近は不在だったホストを再び立てるなど、いくつかの試みを実施する。Twitterを通じて一般の映画ファンに投票させ、結果を番組で発表するという、人気取り的な戦略も取った。だが、より娯楽性を高めるためのそれらのアイデアは、業界内で評判が悪い。とりわけ、8部門の発表を授賞式番組開始前に行うという決定には、対象の職業の組合などから大きな抗議の声が上がった。

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 オスカー授賞式がしばしば予定を超えて3時間半にも及び、東海岸の人々は最後まで見ずに寝てしまうことは、以前から問題視されてきている。短くすることに、誰も異議はない。しかし、ならば最も重要である受賞結果でなく、たいして面白くもない演出や、音楽パフォーマンスを削ればいいという意見が内部では強いのだ。それでも、授賞式のプロデューサーらは頑として一度決めたことを貫いている。

 この背後には、オスカーを中継するABCからのプレッシャーがあったと憶測される。また、オスカー授賞式のプロデューサーは「これは映画業界のためのイベント。業界以外の人たちも見たかったら見ていいですよ」という姿勢ではなく、「みんなをウェルカムするイベント」にしたいと語った。エリート的な態度を取り続けていたらそっぽを向かれる、自分たちが変わらないと、というのである。

 だが、近年、授賞式番組の視聴率はどれも下落傾向にあり、とくに若い人はこれらに興味がない。そもそも見るつもりのない人たちを、こういった小手先のやり方で引き込むことはできるのか。仲間を怒らせてまで行った中途半端な改革に、果たしてどこまでの効果があるのか疑問である。今年のオスカーは、視聴率が発表される翌日まで注目だ。

第94回アカデミー賞授賞式は、3月28日(月)午前7時30分よりWOWOWプライム、WOWOWオンデマンドにて生中継

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