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新垣結衣の孤独に追い詰められないための持論

新垣結衣
新垣結衣 - 写真:高野広美

 第34回柴田錬三郎賞を受賞した朝井リョウによる同名ベストセラー小説を、『あゝ、荒野』(2017)の岸善幸監督が映画化した『正欲』(11月10日公開)。さまざまに異なる背景を持つ人々の人生を描く群像劇で、登場人物の一人を演じた新垣結衣。世間に見せている自分と本来の自分とのギャップに苦しむ人間の孤独を体現し、「わたし自身、35年生きてきて、生きづらさを感じたことはある」という彼女が、本作を通して得た気づき、孤独を感じたときの乗り越え方について語った。

【画像】癒やしハンパない!新垣結衣撮りおろし<8枚>

 本作で新垣が演じる夏月は、ある性的指向を隠しながら、生まれ育った広島で実家暮らしをしているアラサーの女性。他者との関わりを避けて生きてきた夏月だったが、中学時代の同級生であり、同じ秘密を持つ佳道(磯村勇斗)と15年ぶりに再会したことで、その人生に思いがけない変化が訪れる。

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 「脚本の段階から、岸監督と何度も話し合って、共通認識を作った」と話す新垣が、この映画を制作するにあたって何よりも大切にしていたのは、「こういうものだ、という特定のイメージに限定しない」こと。特に役づくりで夏月や佳道の人物像の特徴である指向に関して調べた際、具体的に参考になるものが見つからなかったことも大きかったという。

 「自分で想像するしかなかったんです。でも、それも自分の視点でしかないですよね。何事も、この一つがすべてじゃない。ただでさえ、映画やドラマは影響力が大きいですし、人は初めてのものに触れたときに、そういうものなんだと思いがちなところがある。だから余計に、これがすべてだと受け取られてしまうようなことがあったら、こうした題材を作品として世に出すときに本末転倒になる気がしていて。あくまでも、今回の映画の中における描き方はこういう形にするけれど、それがすべてではないということを、ちゃんと心に留めながら制作したいと思っていました」

映画『正欲』より夏月(新垣結衣)と佳道(磯村勇斗)(C) 2021 朝井リョウ/新潮社 (C) 2023「正欲」製作委員会

 とても難易度の高い複雑な役柄だが、「作品によっては、分かりやすく伝わってほしいから、あえて誇張したり、カメラ越しだとどんなふうに見えているのかを考えたりするときもあるんですけど、今回はそういうことは何も考えていなかった」と語る。

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 「夏月を演じる上で、全てのシーンがとても難しかったし重要だと思っていたので、監督とも撮影前にたくさん話をして、自分なりにもすごく考えて、他の人の意見も聞いて。“こういうときに夏月はどう感じるんだろう?”と、ずっと想像していたんです。なので撮影中は、その“感覚”をとにかく大事にしていました」

 岸監督作品への出演は、今回が初めて。ドキュメンタリー番組を数多く手がけてきた監督だけに、新垣は「現場ではライブ感を感じることが多かった」と振り返る。

 「監督はいざ現場に入ると、前もって、こうしてほしいと言うのではなく、“まず、やってみましょうか?”っていう人なんですね。役者の芝居を見て、必要であれば微調整するという感じ。その中で、カット数が増えたり、逆にカットの声が全然かからず、想定していた尺よりも長く撮影を続けたりすることもあって。わたしたちが実際に演じたときの空気から、何かいいと思うものをキャッチしてくれて、それを生かそうと思ってくれたのかなと。そう思うと、すごく嬉しかったです。監督の柔軟さを感じましたし、それに対応していくスタッフのみなさんもすばらしかった」

 今回の役づくりで重要だった「想像すること」は、新垣自身が作品から感じたメッセージ性にも自然とつながっている。

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 「世の中には夏月のような思いをしている人が、たぶん……でも確実にいて。そういう人たちがいるということが、どういうことなのか。それをすぐに答えを出して終わりにするのではなく、想像し続けること、考え続けることを大事にしたいと思いました。自分の想像しえないところに、そういう世界があるということを知っているだけでも違う。ちゃんと意識できているかどうかで、これから出会うものに対する自分の感覚も変わっていくだろうなって。わたしの人生の中で、大きな課題をいただいたなと思います」

映画『正欲』よりショッピングモールで働きながら息を殺すような日々を送る夏月(C) 2021 朝井リョウ/新潮社 (C) 2023「正欲」製作委員会

 劇中、どこにも居場所を感じられず、誰ともつながることができずに生きてきた孤独な夏月が、再会した佳道に「地球という星に留学しているみたい」だと、自分の気持ちを吐露する印象的なシーンがある。新垣は「もちろん孤独感の原因は、人それぞれの状況によって違うと思うんですけど、この映画の中の夏月のパターンだと、周りが夏月を孤独にさせた面もあると思っているんです」と分析する。

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 人間が社会的な生き物である以上、他者の存在や反応から影響を受けるのは当然のこと。と同時に、他者の反応をコントロールすることはできないのが難しいところだ。

 「わたしは昔からわりとネガティブな発想をするタイプなので、それを変えたくて、なるべくポジティブに考える練習みたいなことをしているんですけど……わたし自身がつらいとき、内にこもりそうになったときは、自分にとって問題になっていることを、違う視点から見てみるように心がけています。人も物事も、一方向から見たものがすべてではないから。どんなにこじつけだったとしても、違う方向から見てみて、早く切り替える努力はしています」

 もちろん、自分の視点だけではどうしようもないこともある。「そういうときは、そばにいる人が話を聞いてくれたり、新しい視点を教えてくれたり。共感や理解まではいかなくても、ただ否定しないで話を聞いてくれるだけでいい。自分が口に出すことでいろいろ整理できる部分もあるし。誰かがそばにいるって、本当に救われると思うから。その点では、夏月は佳道と出会う前は誰もいなかったので、それまでの時間のつらさは相当なものだっただろうな……って思います。難しいですね。でも、自分と同じように悩んでいる人が他の場所にもいるって知っただけでも、ちょっと意識が変わるような気がします」

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写真:高野広美

 昨年から大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(北条義時の妻・八重役)、月9ドラマ「風間公親-教場0-」(新人刑事・隼田聖子役)、WOWOWオリジナルドラマ「フェンス」(沖縄の精神科医・城間薫役)など話題作への出演が続き、来年には主演映画『違国日記』が控えている。俳優としてのキャリアはすでに20年近い。「作品ごとに自分ができる精一杯を尽くすことが、仕事に対するわたしの誠実な向き合い方と思いながらやってきた」という彼女のスタンスは、仕事を始めた10代の頃から現在まで、ずっと変わらない。その上で、年齢を重ねた今、新たに付け加えられた大事な項目が「楽しさ」だ。

 「ネガティブだし、怖がりだから、そこを変えていくためにも、振り返ったときに“ああ、楽しかった!”と思える時間を増やしていきたい。20代の頃は目の前にあることをこなすことで精一杯だったので。お芝居という面だけじゃなく、何かこれから新しいことに出会ったとしても、何事も楽しんで取り組めるような自分になる、“楽しい”の割合をもっと増やしていくのが、わたしの人生の目標です」と晴れやかな笑顔を見せた。(取材・文:石塚圭子)

スタイリスト:小松嘉章(nomadica) ヘアメイク:藤尾明日香

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