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宮崎吾朗、映画制作よりパーク建設の方が楽しい 『君たちはどう生きるか』で感じた父・宮崎駿との距離

ジブリ美術館で取材に応じた宮崎吾朗監督
ジブリ美術館で取材に応じた宮崎吾朗監督

 三鷹の森ジブリ美術館の新企画展示「君たちはどう生きるか」展が、18日からスタートした。同展示の企画・監修を担当した宮崎吾朗がジブリ美術館内でインタビューに応じ、父・宮崎駿(「崎」は「たつさき」が正式表記)が約10年ぶりに発表した新作『君たちはどう生きるか』を観て感じたこと、スタジオジブリの今後について語った。

【画像】美しい…『君たちはどう生きるか』ギャラリー

 駿監督が約7年の歳月を費やして発表した長編アニメーション『君たちはどう生きるか』の制作過程において描かれた絵の数々から、紙と鉛筆から始まる手描きの豊かさなどを伝える本展示。三部構成となっており、第一部「イメージボード編」では、駿監督が描いたほぼ全てのイメージボード(構想段階に作品のイメージを固めて、登場人物や建物、舞台設定などを考えるために描かれるもの)が展示される。

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誰一人映画を観ることができず…企画・監修を引き受けたワケ

「君たちはどう生きるか」展の様子 - (c)2023 Studio Ghibli (c) Museo d'Arte Ghibli

 今年7月14日に公開初日を迎えた『君たちはどう生きるか』は、公開日まであらすじ・キャスト・映像など事前情報を一切公開しない異例の宣伝手法が採用された。「制作に関わっている人間以外には、スタジオの人間であっても公開まで内容を明かさなかった」と吾朗監督は明かす。自身が展示の企画・監修に就任した理由も、今回の宣伝手法が関係していた。

 「ジブリ美術館のスタッフは、公開まで誰一人『君たちはどう生きるか』を観ることができなかった。7月の公開を待っていたら、11月の展示に間に合わないので、僕が引き受けることになったんです。唯一観させてもらえる立場だったので、職権濫用しつつ、結果的にディレクションすることになりました」

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 今回目指したのは、“普通の美術館”。駿監督が描いた絵を純粋に楽しんでもらうため、これまでの企画展示で見られた作品に対する解説が省かれていることが大きな変化だ。

 「正直、1枚の絵を見る時に説明は必要ないと思うんです。美術館に行って、ゴッホやピカソの絵を見る時も説明はいらないですよね。まずは絵と相対して、しっかり見てもらうということが最適だと考えました。それから、映画の興行はまだ続いており、作り手にとって、それはまだ作品が終わってないことを意味する。僕もその感覚がすごくわかります。このタイミングで、映画に直接関わっていない者が解説するというのは、まだ早いよねという結論に至りました」

『君たちはどう生きるか』息子・宮崎吾朗はどう観たか?

映画『君たちはどう生きるか』より - (C) 2023 Studio Ghibli

 一度は引退を表明した駿監督が、それを撤回して制作した『君たちはどう生きるか』。7年の歳月を経て完成した同作を、息子・吾朗監督はどう観たのか?

 「こんな作品を作られたら、もう後には続けない。もし自分が、スタジオジブリで次の作品を作れと言われたら『嫌だ』って言うと思います。僕と彼の間に、誰か他の監督を挟んでほしいと思いたくなりました(笑)。そう感じさせるような、凄みのある映画です」

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 「80歳を過ぎても『こんなものを作っていたのか!』という感覚ですよね(笑)。少年時代の年ごろの人たちが感じるようなナーバスな部分も含まれていますし、作画に関しては、本田雄(アニメーター)が作画監督に入ったことで、ものすごく若々しさが増した。宮崎駿の年齢を感じさせない作品になっていて、驚きました」

 吾朗監督も制作としてクレジットされているが、「初号試写まで、自分がクレジットされていることは知らなかったんです」と告白。「後で鈴木(敏夫プロデューサー)から『吾朗くん、名前入れといたから』と言われました(笑)。スタジオジブリは映画を作った時、そのスタジオにいた全員の名前をクレジットすることもあるんです。(制作に名前が載っているのは)それだけの理由なんです」

 映画公開まで全く情報解禁を行わなかった宣伝方法も、吾朗監督は評価している。「それもありかなと思いました。最近のプロモーションって、『全部観せちゃうの?』ってくらい(映像を)アップするものが多いじゃないですか。(本作が)そうやって観て面白い映画なのかと考えると、おそらく違います。そういう意味で、『君たちはどう生きるか』は事前情報なしで観る作品に値するのではないかなと思いました」

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次回作があるなら「とにかく楽しい作品に」

吾朗監督が再び映画を制作する日は…?

 近年はジブリ美術館のほか、愛・地球博記念公園に開園したジブリパーク(2024年3月には「魔女の谷」が開園予定)の制作現場を指揮している吾朗監督。映画監督として『アーヤと魔女』(2020)を発表して3年が経つが、映画制作が恋しくなる瞬間は「ないですね」とキッパリ。

 「建設現場の方が全然楽しいです。ゼロから始まって、何もなかったところに物を作ることは、映画やパークであっても変わらない。自分が考えたものを共有して、専門の方々に手分けして作ってもらって、最終的に形になる過程も同じですよね。ただ、ずっとスタジオに座っていることが結構辛い。現場をウロウロ歩けた方が楽しいんです」と続けた吾朗監督。もし次回作を制作することになったら、「とにかく楽しい作品にしたい」と笑顔で語った。

 先日、スタジオジブリが日本テレビの子会社になることが発表された。新体制となって進むジブリの今後について、「初心を忘れず、広がっていけばいいなと思っています」と期待を寄せる。「宮崎と鈴木は、お金儲けではなく、映画を作って、純粋に面白いことができればいいという目的でスタジオを立ち上げたと思うんです。もちろん、お金は必要なことですが、そこだけが目標ではない。いつの時代も遊び心は必要ですし、そこを忘れずに取り組んでいけたらいいなと思います」

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 『君たちはどう生きるか』を通して、宮崎駿とのクリエイターとしての距離感を改めて実感した吾朗監督。その距離感は、今後も「縮むことはない」という。「彼は、自分の持ち物を使って映画を作っているんですよね。インコを見ただけで、誰もインコマンは思いつかない。日常の何気ないものから、映画へと飛躍させていく。それこそ、宮崎駿が唯一無二な理由だと思います」(取材・文:編集部・倉本拓弥)

「君たちはどう生きるか」展は三鷹の森ジブリ美術館にて開催中、第一部「イメージボード編」は2024年5月(予定)まで

ジブリ美術館入場は日時指定の予約制(チケットはローソンチケットにて、毎月10日に翌月入場分を発売)

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