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実写『ゴールデンカムイ』VFXチームが多大な貢献 ヒグマ&エゾオオカミに求めたリアル

『ゴールデンカムイ』動物たちから気づかれない部分まで。Spade&Co.の貢献は大きい
『ゴールデンカムイ』動物たちから気づかれない部分まで。Spade&Co.の貢献は大きい - (C) 野田サトル/集英社 (C) 2024 映画「ゴールデンカムイ」製作委員会

 野田サトルの人気漫画を山崎賢人(崎は正式には「たつさき」)主演で実写化した『ゴールデンカムイ』のVFXプロダクション、Spade&Co.(スペードアンドカンパニー)代表のVFXスーパーバイザー・小坂一順とVFXプロデューサー・塙芽衣が、本作のもうひとつの主役である動物たちやアクションシーンの裏側を語った。

実写版『ゴールデンカムイ』場面写真(18点)

 明治時代末期の北海道を舞台に、日露戦争の英雄・杉元佐一(山崎)とアイヌの少女アシリパ(リは小文字・山田杏奈)が、莫大なアイヌの埋蔵金をめぐって脱獄囚や歴戦の戦士たちと争奪戦を繰り広げる本作。個性的なキャラクターが織りなす群像劇はヒグマやエゾオオカミのレタラ(ラは小文字が正式表記)といった、カムイ(神)が宿る動物たちも重要な役割を果たす。

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フルCGのヒグマ描写に初挑戦

(C) 野田サトル/集英社 (C) 2024 映画「ゴールデンカムイ」製作委員会

 本作を手掛けた松橋真三プロデューサーの『キングダム』シリーズや『るろうに剣心』『銀魂』など、数多くのヒット作でVFXを担当してきたSpade&Co.。そんな同社にとっても、ヒグマやエゾオオカミをフルCGで表現するのは初めての試みだった。小坂は「大丈夫かなという思いはありましたが、松橋さんから信頼してお話をいただいたわけですから、そこはもう受けるしかないです(笑)」と語る。
 
 「ちょうどお話をいただいた時期に、『キングダム』のパート2と3に登場する馬を作っていたんです。本格的に馬を表現しようとすると、筋肉や皮膚、毛の動きなどを綿密に計算してシミュレーションする必要があったのですが、コロナ禍のタイミングでもあり、じっくりと向き合って研究開発ができた。その積み重ねがあったので、不安はありましたが、(ヒグマも)できるんじゃないかと考えていました」

 実際には「馬ほどスムーズにはいかなかった」というが、小坂は「もの凄く細かい部分までコントロールしないと、本物に見えないんです。全身が毛で覆われていて、筋肉と連動してその毛や脂肪が動く様子を再現する必要がありますし、毛並みも良ければいいというわけではない。動けば雪が着くし、自然を生きているので、ふさふさしている部分もあれば汚れてダマになっている部分もある。色も体の箇所によって変わります」と明かす。

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 制作では、グリーンスーツを着用したアクターがヒグマを演じた映像に、CGのヒグマを合成する手法がとられたが、周辺環境に与える影響も人と動物では全く違う。「例えば雪山のシーンであれば、ヒグマが歩くと接地する面の雪に痕が付いて少し雪煙が舞います。草の間を歩いたら草木が揺れたり、踏みつけられたりもする。どうしても人間が動いた時の影響とは違ってくるので、最終的にヒグマが接地する雪の処理なども全てCGで作りました。やればやるほど良くなる部分なので、気付いたらほとんどのカットで接地の処理をしていましたね」という塙。

 小坂も「人間と戦う場面もチャレンジでした。馬の場合は鞍を介して人が乗るくらいでしたけど、戦ったりする場合は勝手が違ってくる。久保(茂昭)監督からは、不自然じゃない範囲でヒグマを大きく見せたいという要望をいただいたのですが、ただ大きくしてしまうとヒグマを見る人間の目が合わないので、通常のサイズのヒグマと人間のモデルを比較して、1.1倍くらいから細かく調整していきました。とにかく手探りでした」と振り返る。

 モデル制作などの開発を含めれば、ヒグマのシーンだけで2年近くの期間を要した。「純粋な作業期間を区切るのは難しいのですが、ヒグマのモデルなどを作りだしたのが2021年の10月ごろから。そこから毛の質感の詰めや、動きのテスト映像を作っていく期間が1年強ぐらい。実際に撮影した素材をいただいて作業していったのがだいたい7、8か月ぐらいでしょうか。本当に完成直前まで作業をしていましたが、一番時間がかかったのがヒグマのシーンです」(塙)。

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全てはリアルを追求するため

(C) 野田サトル/集英社 (C) 2024 映画「ゴールデンカムイ」製作委員会

 レタラについては、エゾオオカミの映像がないため、参考資料の収集にも一苦労。「本物の狼や大型犬の映像を参考にしていたのですが、レタラの場合は、アシリパにすり寄ったり、くつ下のにおいを嗅いでえずいたり、お芝居をする場面があるんです。さじ加減を間違えてしまうとリアルにならず、観ている方も醒めてしまうので、ぎりぎりのラインの調整が大変でした」(小坂)

 動物たちと人間が密接に絡み合い、時にはお互いの命をかけて対峙する『ゴールデンカムイ』。それだけに、必要不可欠な人間と動物が接触するカットは、本作のなかでも最も難しいシーンになった。アシリパがレタラをなでるカットでは、リアルな造形物をガイドにして素材を撮影し、毛と接触する俳優の手ごとCGで表現。一方、杉元が子熊を抱く場面では、アナログな手法もとられた。

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 「対象が画面に近くて、ゆっくり動くカットの方がCGで表現するのは難しいんです。子熊を抱くシーンは、本物の子熊を借りることが検討されていたのですが、無理となってしまって。動く造形物も作られたのですが、どうしても機械的な動きが可愛く見えてしまい、リアルな表現をする上ではそのまま使うのは難しいのではという話になりました。そんな時、北海道とは違う地域の施設で子熊が生まれたというお話を聞いて、別班に撮影してきてもらった素材を使っています。カットや画面構成を調整して、飼育員さんに抱いてもらった子熊の映像を撮り、撮影現場で撮った山崎さんの素材に合成しているんです」(塙)

 動物の表現で最も大切にしたのが、原作やアニメに寄せるのではなく、リアルを追求すること。小坂は「漫画やアニメに近づけるのではなく、本物のヒグマや狼の存在を拠り所にしたことがよかったのだと思います。漫画やアニメに近づけようとすると、そこに演出力も必要になってくるため、チーム間の意思疎通が難しくなる。久保監督もリアルな描写を求められていたので、とにかく本物に近づけることを意識しました」と語る。

動物も人間も傷つけず

 本作でVFXが果たした役割は、動物のシーンだけではない。後半のソリを使った大迫力のチェイスシーンも、多くのカットがグリーンバックで撮影されている。映像ではほぼ判別できないが、馬や人間が実際に演じるには危険すぎるカットは、一部だけCGに置きかわっているカットもある。

 「映像を観ただけではわからないと思うのですが、現場を知っているスタッフの間では、実はがんばったよねとなるシーンです」という塙は「“CG使っているな”と思われたら、私達としては駄目な仕事というか。作品を観ていただくお客さんにそこを意識させない。リアリティーを演出するのがSpade&Co.の色でもあります。評価していただくのはうれしいけれど、気付かれない仕事をしたいというか」と語る。

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 そんな本作の仕事について小坂は「作っている当初は、もっとこうすれば良かったなと思うことがたくさんあるのですが、完成した今は、やれるだけはやったというか。満足しています」と自負。山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』が米アカデミー賞の視覚効果賞にノミネートされるなど、日本においてもVFXチームの存在が注目を浴びてきているなか「お客さんの目も肥えてきて、CGの出来が作品の評価につながることも多くなってきたと感じています。そういう意味では自由度も責任感も大きくなってきていますし、制作現場でもVFXチームの存在を認めていただいている。ただ欲を言えば、もう一歩、理解を広めたい」と展望を明かす。

Spade&Co.代表のVFXスーパーバイザー・小坂一順氏

 「日本映画ではまだ『ゴールデンカムイ』や『キングダム』のような作業ができるチャンス自体がなかなかないのですが、もっとVFXを有効活用できる場面があると思います。それを提案することも含めて、僕らの仕事だと思います。そういう意味でも、白組さんの『ゴジラ-1.0』がアメリカで認められて、ちゃんと海外で評価を得られる仕事ができるんだとか、お客さん入るんだっていう実績ができたのはすごく勇気づけられる出来事でしたね」(編集部・入倉功一)

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