「べらぼう」小芝風花、横浜流星の目を「見られなかった」 最後の花魁道中に込めた想い

現在放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほかで放送中)で、横浜流星演じる主人公・蔦屋重三郎の幼なじみの花魁・瀬川を演じている小芝風花。第10回「『青楼美人』の見る夢は」ではついに身請けが決まり、吉原から出ていく展開に。花魁としての最後の道中“花嫁道中”を見せた。そんな小芝が、花の井、瀬川として過ごした花魁の日々や蔦重との切ない恋を振り返った。
本作は、江戸時代中期、貸本屋から身を興して書籍の編集・出版業を開始し、のちに江戸のメディア王として時代の寵児となった蔦屋重三郎の立身出世を描いた物語。脚本を大河ドラマ「おんな城主 直虎」、ドラマ10「大奥」(NHK)シリーズなどの森下佳子、語りを綾瀬はるかが務める。
小芝は、幼いころに親に売られ、蔦重と共に吉原で育ち、老舗女郎屋・松葉屋を代表する花魁となった花の井を演じる。蔦重の吉原を再興したいという思いに賛同し、尽力するなか、伝説の花魁の名跡・瀬川を継ぐと、盲目の大富豪・鳥山検校(市原隼人)に身請けされ、最後の花嫁衣装での花魁道中を行った。
小芝と言えば、明るく元気で溌溂というパブリックイメージがあったため、放送前は小芝自身も花魁を演じることに不安があったという。特に「口が裂けても色気があるタイプとは言えないので」と笑うと「色気に関しては、しぐさや目線など細部に渡って、とても意識しました」と語る。
小芝を取り巻くスタッフは過去に小芝と別の作品で一緒だったとのことで「『風花ちゃんをどうやって大人っぽく、色っぽく作ったらいいんだろう』と言っていました(笑)。メイクなどもすごく考えていただき、所作指導の先生(花柳寿楽)にも、ちょっと不安があったらすぐにお伺いをたてて、しっかりと複雑な機微が伝わるように意識しました」と役へのアプローチ方法を語った。
一方で、瀬川自身の置かれている境遇を考えると、自然と感情が湧き出てくるシーンも多々あったという。小芝は瀬川の魅力について「自分の思いや感情を押し殺し、蔦重のために尽くす強さを持っている」と述べると「少しでも蔦重の夢が叶うように身を切りながらもサポートする姿は格好いい」と羨望の眼差しを向ける。
そんな瀬川だからこそ、蔦重とのシーンで見せるちょっとしたやり取りのなかで、思わず感情的になってしまうシーンが印象に残っていると振り返る。それは、第9回「玉菊燈籠恋の地獄」で瀬川の身請け話が出た際、蔦重が瀬川に「検校で手ぇ打つことないんじゃねえか」と話す稲荷神社のシーン。
「普段蔦重と話すときは廓言葉を使わないのですが、全部廓言葉で話すんです。それって本音を隠しながら会話しているんですよね。そのなかで、蔦重が鳥山に対して『この世のヒルみてえな連中だぞ』と言ったとき、これまで瀬川は自分の苦しさや辛さを蔦重に見せてこなかったのに、感情的になって『あんただってわっちに吸いつくヒルじゃないか』と、初めて花魁の仕事がどれだけ大変かを吐露するんです。だからこそ、とても大事にしたシーンでした」
その後、蔦重は瀬川に向かって「頼むから行かねえで……」と頭を下げ「俺がおまえを幸せにしてえの」と告げる。小芝は「まさかこの人の口からそんな言葉が出るなんて思っていなかったから、驚きはあったのですが、二人の関係性だとあまり甘いモードにならないところがいいところなんですよね」と語ると、その後瀬川が蔦重の胸ぐらをつかみ「心変わりなんてしないだろうね」というシーンは、台本に書かれていたシーンではなく、小芝のアドリブだったと打ち明ける。
小芝は演出に「胸ぐらをつかんでいいですか?」と確認したそうで、「お互いの心が通じ合っても、すぐに男女の感じにならない。男同士の喧嘩みたいな感じになるのが、二人の関係性なのかなと思って提案させていただいたんです」と意図を説明した。
さらに小芝は、第10回のラストの、最後の花魁道中である花嫁道中のシーンを振り返り、「本来花魁にとって身請けされて大門を出るというのは、希望にあふれた行為。瀬川にとってももちろん、もうお勤めをしなくて良くなるというプラスなことでありつつも、ここを出たら蔦重に二度と会えなくなるかもしれないという場面でもあるんです。本来嬉しいはずの道中が、お別れの場になることがすごく苦しかったんです」と心境を語る。
そのため台本では瀬川が最後に蔦重とすれ違うとき、しっかりと目を合わせるシーンだったというが「蔦重の目を見てしまうと行けなくなりそうで、目を見られなかったんです」と裏話を披露する。その点も小芝自身がその場で感じたことを、そのまま演じたといい「本当に複雑な花嫁道中でした」と悩ましい表情を見せていた。
とにかくエモーショナルに瀬川を演じた小芝。放送がスタートすると、小芝の花魁姿は大きな反響を巻き起こし、その色香や花魁ならではの境遇の切なさの演技が絶賛された。小芝は「本当に最初はプレッシャーだったんです」と笑うが、「10代から20代前半は、自分の正義感でまっすぐ進むような役が多く、それこそ色気だったり大人っぽさを表現するのが苦手で、課題だったんです。でも大河ドラマで大きな難題にチャレンジさせていただけるのは、本当にありがたかった。しかも細かいところまでこだわって演じたことを、視聴者の皆さんがくみ取ってくださり、その声を聞くたびに、頑張ってよかったなとしみじみ思っているんです。本当に嬉しいですし、ありがたいです」と反響に感謝を述べていた。(取材・文:磯部正和)


