西野七瀬、『少年と犬』歌唱シーンの裏側

2018年をもって乃木坂46を卒業後、女優として数々のドラマや映画に出演し、高い評価を受けてきた西野七瀬。新作映画『少年と犬』(公開中)では、過去に悲しい秘密を抱える女性・美羽を演じた。本作のメガホンをとった瀬々敬久監督は、西野を「ドキュメンタリー的な感覚を持つ俳優」と称していたが、撮影を通じて西野に感じた俳優としての特性や、劇中で西野が歌うAKB48の名曲にまつわる裏話を語った(※一部ネタバレあり)。
西野七瀬は余計なものを全く持ち込まない
本作は、小説家・馳星周の直木賞受賞作を実写映画化。さまざまな事情を抱える人たちの人生を、1匹の犬・多聞の目線を通してつづった物語。西野は、悲しい過去を持つなか、偶然出会った1匹のシェパード犬・多聞と、多聞の導きによって巡り合った和正(高橋文哉)の存在により、自らの人生を顧みながら前に進む美羽を演じた。
瀬々監督は西野に対して「とてもシンプルな俳優」と表現すると「撮影現場に入ると、スパッと美羽になる。自身のバックボーンや個性的なものを全く持ち込まない。ある意味で余分なものを一切持ってこない人」と印象を述べる。
その時の空気感やシチュエーションによって、感覚で人物を捉えるタイプ。それがゆえに「テストやテイクを重ねるときも、お芝居が毎回違う。彼女のなかでは理論的に美羽という人物を捉えているというよりは、基本的なことを体に入れつつ、その瞬間に感じたことを表現するタイプ。ドキュメンタリー感覚、ライブ感覚に違い感性で演じるタイプだと思います」と語る。
そんな西野を象徴するようなシーンが、物語中盤の雪山でのシーン。瀬々監督は「美羽が一つ新たな決意をするシーン。劇中で彼女は号泣していますが、撮影時の最初は彼女のそばに多聞はいなかったんです。そのとき西野さんは泣けなかった。その後、多聞に西野さんのそばに座ってもらったら、すごく気持ちが入って号泣したんです」と裏話を明かす。瀬々監督は「考えて導き出してシーンを作り上げるというよりも、その場の状況やシチュエーションで化学反応を起こし感情が湧き出てくるタイプ」だと西野を評価していた。
元乃木坂46の西野七瀬が、AKB48の代表曲を歌唱
西野演じる美羽は、多聞を通じて出会った高橋扮する和正と、少しずつ心を通わせていく。その大きなきっかけとなったのが2011年にリリースされたAKB48の「ヘビーローテーション」を高橋と西野が歌唱するシーンだ。
元乃木坂46の西野が、AKB48の代表曲を熱唱するというシーンに、にんまりとしたファンも多かったのではないだろうか。瀬々監督は「東日本大震災後の設定ということで、2011年前後にヒットした曲のなかで、パンチの効いている曲はないかな……と思って当時のヒットチャートのなかから、良さそうな曲を選んだんです」と明かすと「僕は西野さんが昔所属していたグループのことなどは知らなくて、AKBとか乃木坂とかまったく意識していなかったんです」と説明する。
瀬々監督は「他意はまったくなく。もしそういう事情を知っていたら、西野さんに気を使ってこの曲を提案しなかったかもしれません」と笑うと「単純に作品のなかで、しっとりした曲よりもパンチの効いた歌の方がいいと思っただけで。実際、西野さんも提案したとき変に気にする感じでもなく、『はい、わかりました』とニュートラルに受け入れていた気がします」と撮影時を振り返る。
西野と高橋が「ヘビーローテーション」を歌うシーンについて瀬々監督は「二人の心と心が通じ合うとても重要なシーン。それを歌一発で決めて欲しいという思いがあったんです」とシーンの意味を述べると「西野さん、高橋さん共にすごくいろいろな思いを感じながら歌ってくれました。特に二人ともうまく歌うシーンではないので、リアルで素晴らしかった」と称賛する。
通常は劇中の歌唱シーンに関しては、事前に歌を収録してから、現場でそれを流しながら歌う撮影方法をとるというが、二人が撮影現場で歌った音源を、実際の映像として使った。だからこそ、エモーショナルなシーンになったという。瀬々監督は「事情を知らないということも、いい作用になることもあるんですね」と、してやったりの表情を浮かべていた。(取材・文:磯部正和)


