映画『マインクラフト』快進撃の背景 世界的ヒットの裏に意外なトラブルも

日本より一足先に公開された世界各国で、『マインクラフト/ザ・ムービー』が爆発的にヒットしている。初公開週末の北米興行収入は、1億6,300万ドル(約236億円)。今年最高のオープニングだっただけでなく、やはりゲームの映画化作品で大成功した『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の北米デビュー成績(1億4,600万ドル/約211億円)をも上回る数字だ。現在までの全世界興収は7億2,600万ドル(約1,052億円)で、10億ドル超えも確実と思われる。(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル145円計算)(文/猿渡由紀)
【動画】チキンジョッキーだ!『マインクラフト/ザ・ムービー』日本語吹替版予告
4月4日に北米公開されて以来、この映画は、多数の記録を塗り替えてきた。デビュー成績は、今年これまでに公開された作品で最高。ビデオゲームの映画化作品としても、ワーナー・ブラザースとレジェンダリー・エンタテインメントが製作する作品としても史上最高だ。ヨーロッパでも、今のところ、今年最高のヒット作となっている。キャストのジャック・ブラック、ジェイソン・モモア、ジェニファー・クーリッジ、それぞれのキャリアにおいても、最高ヒット作である。
PG指定の映画としては、『白雪姫』『パディントン 消えた黄金郷の秘密』『Dog Man』を抜いて前売りの売り上げも今年トップとあり、公開前から成功は予測されていた。しかし、業界が6,000万ドル(約87億円)の北米デビューを予想したのに対し、実際の売り上げはその3倍近いという、画期的な結果を出してみせたのである。
この手の映画でよくある通り、批評家の評価は冴えない。大手映画批評サイト Rotten Tomatoes を見ても、誉めている批評家はわずか47パーセントだ。一方で、観客はというと、87パーセントが好意的に受け止めている。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』も、批評家は59パーセントだったが、観客は95パーセントが支持し、最終的に13億ドルを売り上げてみせた。家族向けのエンタメ作品ではとくに、批評家が何を言っているのかは、ほとんど関係しないのだ。
シネマスコア社の観客感想調査の結果はというと、『ザ・スーパーマリオ・ブラザース・ムービー』が「A」だったのに対し、『マインクラフト/ザ・ムービー』は「B+」。それでも北米では2週連続で首位を獲得した上、週末ごとの下げ幅も大きくなく、観客を満足させていることがうかがえる。
何より、劇場での盛り上がりがすごいのだ。北米やイギリスでの公開直後、一部のファンが上映中に食べ物や飲み物を投げたり、大きな歓声を上げたりする映像がソーシャルメディアで拡散されて話題になった。それがまた宣伝効果になったのかとも思われている。中には、「チキンジョッキー」というセリフにあわせて、生きた鶏を劇場に持ち込んだ人もいた。警察が呼ばれたり、観客が追い出されたりしたケースもあったようだ。
観客は特定のシーンで特定のせりふが出てくる瞬間を狙って騒ぐことから、イギリスの劇場チェーン「シネワールド」は、ブラックが「I am Steve」というシーンで叫ぶのはいいけれども物は投げないでください、また動画録りはしないでくださいと、Instagramを通じて注意を喚起。ニュージャージー州のある劇場も、「ある不幸な出来事」があったことから、子供が見にくる場合は責任を持てる大人の付き添いが必要だと、Facebookで通達した。観客の反感を買うことを恐れ、何も言わない劇場チェーンが大多数だが、いつもより掃除が必要なこの映画が「早く劇場から消えてほしい」と思っているスタッフは少なくないようである。パンデミック、そして俳優、脚本家のダブルストライキと災難が続いた映画館にとって、大ヒット作品の到来は待ちに待ったところだったが、こんなトラブルが付随してきたのは意外だった。
日本では「マイクラ」と略される元ネタのゲームは、2009年5月に初公開。2011年11月に正式リリースされた。2023年10月時点で、3億本を売り上げた大人気商品だ。映画化の企画が発表されたのは、2014年。一時はショーン・レヴィ(『ナイト ミュージアム』『デッドプール&ウルヴァリン』)が監督することになっていたが、ゲームのデベロッパーとクリエイティブ面での意見が合わず、降板。紆余曲折を経て、『ナポレオン・ダイナマイト』『ナチョ・リブレ 覆面の神様』のジャレッド・ヘス監督が完成させた。
当初、スティーブ役に決まっていたのは、『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』のマット・ベリー。ブラックは豚の声でカメオ出演するはずだった。しかし、俳優と脚本家のダブルストライキの影響で各作品の製作スケジュールが混乱し、ベリーの出演がかなわなくなったことで、ブラックに変更。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』にクッパの声で出演したブラックは、またもやゲームの映画化作品でファンを楽しませることになったのである。
ただし、やはりブラックが出演したゲームの映画化作品『ボーダーランズ』は、1億ドル(約145億円)以上の製作費をかけたのに対し、全世界興収はわずか3,300万ドル(約47億円)と、撃沈している。ゲームの映画化は簡単ではないと昔から言われてきたが、その通り。『バイオハザード』『ソニック・ザ・ムービー』『アングリーバード』など成功例もある一方、『ウォークラフト』『ニード・フォー・スピード』など、がっかりの結果に終わったものも多数ある。
しかし、最近もテレビ、配信では「The Last of Us」「フォールアウト」が大ヒットしたばかり。今年も、この後、『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ2』や『モータル・コンバット2』の公開が控えている。『マインクラフト/ザ・ムービー』に続き、これらの作品も、ファンを興奮させてみせるだろうか。
映画『マインクラフト/ザ・ムービー』は全国公開中


