『サンダーボルツ*』冒頭のエレーナ、なぜジャージ姿なのか 世界で2番目に高いビルからのダイブシーン秘話
映画『サンダーボルツ*』(全国公開中)でエレーナを演じたフローレンス・ピューが、高層ビルの屋上からダイブする冒頭シーンが誕生するまでを、バーチャル記者会見で語った。(以下、冒頭の内容を一部含みます)
【動画】ジャージ姿のエレーナ、高層ビルからダイブ!『サンダーボルツ*』本編映像
ロシアのスパイ機関「レッドルーム」でウィドウとして強制的に育てられたエレーナは、“姉”ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウを失い、空虚感を抱きながら任務にあたっていた。冒頭では、マレーシアにある世界で2番目に高いビル「ムルデカ118」の屋上に腰掛けたエレーナが、「あたしはどこかおかしい。すっかり空っぽ。姉の死のせいだと思っていたけど…どんどん広がって…ただ…虚無感(ヴォイド)だけ」と胸中を明かして飛び降りる。
ピューは、冒頭のエレーナについて「ビルから身を投げる=命を絶とうとしている」と解釈したという。「とにかく圧倒されました。彼女がどんな精神状態にあるのか、観客もすぐにわかります。『飛び降りる』という選択そのものが、観客の心をえぐる。あのイメージは、最悪の事態が起きる時しか見ませんよね。だからこそ、彼女が一歩を踏み出すとき、観客の胃がグッと締めつけられる。そんな強烈な感覚を届けられるシーンに関われたことが、本当に嬉しかったんです」
生きる理由を見出せないエレーナは、命の保証がないミッションにも平然と飛び込む。彼女の精神状態は外見にも表れており、普段は戦闘スーツで任務にあたるはずが、冒頭はラフなジャージ姿で屋上からダイブしている。

衣装合わせでは、エレーナが戦闘スーツを着る想定だったが、ピューが自ら待ったをかけた。「そんなはずない。死に場所を探してる人が、防御用のスーツなんて着るわけない、と言いました。そこから議論が始まり、『あえて保護性ゼロのジャージで戦おう』という設定になったんです。もちろん、エレーナはすごいアクションをこなすし、カッコいいこともやるけど、実際は丸腰で突っ込んでいるわけです。それが、『誰かに自分の人生を終わらせてほしい』と思っている彼女の心の闇をリアルに表現するんです」
会見に同席したジェイク・シュライアー監督は、エレーナのダイブシーンについて、極限の感情を表現しながら身体を張る“物語としてのアクション”だったと補足した。
「このスタントがすごいのは、単に高い場所から飛び降りたという事実ではなく、冒頭のショットがエレーナの顔から始まることです。つまり、最初に観客が目にするのは、エレーナの感情なんです。フローレンスがこれほどまでにエレーナに没頭してくれているとわかっていたからこそ、この演技が実現できたと思っています。彼女はあの瞬間、演技とフィジカル的な挑戦の両方を完璧にこなしました。単なるスタントではなく、演技としてのスタントだったのです」
また、シネマトゥデイのインタビューに応じたシュライアー監督は、ダイブシーンの撮影秘話を告白。「まず、誤解のないように言うと、実際に飛んだのはベースジャンパーです。フローレンス本人は、降下器具でビルの縁から約15メートルほど下に降りています。それでも十分怖いですけどね(笑)」とフローレンス本人が全てをこなしたわけではないと明かす。
また、マレーシアは雷の発生頻度が極めて高い国として知られており「雷が鳴るたびに屋上から降りなきゃならなくなるので、早朝からフローレンスを降下器具で固定して撮りました」とシュライアー監督。ダイブシーンを撮影した後は、地上でビルを爆破する別のシーンも撮ったといい「まさにクレイジーな1日でした」と振り返っている。(取材・文:編集部・倉本拓弥)


