「ゴジュウジャー」多彩な楽曲が誕生するまで 作曲家・沢田完「劇伴は頭の2小節が重要」

スーパー戦隊50周年記念作「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」の音楽を手がける作曲家・沢田完。アニメ「ドラえもん」も手掛け、子ども番組の音楽を「豪華なお子様ランチ」と表する沢田が、幼少期に親しんだ子ども番組の思い出、マカロニ・ウェスタンから野球の応援まで、多彩な要素を取り込んだ「ゴジュウジャー」の劇伴の数々について、作曲エピソードと共に語った。
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テレビっ子から作曲家へ
幼少期は「テレビっ子」だったと言う沢田。当時の特撮作品にも夢中になった。「兄の影響で『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』も観ていたし、『仮面ライダー』も1号からちゃんと通っています。それから、ちょうど小学校1年生の頃にはじまったのが『秘密戦隊ゴレンジャー』。今で言うピクトグラムみたいな顔は表情が分からなくて、最初は『なんだこれはっ!?』と驚きましたが、とにかくインパクトがありました。スーパー戦隊シリーズはけっこう好きで、みんなが卒業した後も、『大戦隊ゴーグルファイブ』くらいまでは、普通に好きで観ていました」
後に劇伴作曲家になる沢田であるが、当時の特撮作品の音楽については、どのように受け取っているのだろうか。
「アニメも含めた当時の子ども番組は、円谷プロなら宮内國郎さんと冬木透さん、後は渡辺宙明さん、菊池俊輔さん、渡辺岳夫さんがほとんど手がけていたといっても過言ではありません。今、僕は菊池俊輔先生の後を次いで『ドラえもん』の音楽を担当しているから、『菊池さんを意識することはありますか?』と質問を受けることもありますが、意識せずとも小さい頃から浴びるように聴いていたから、本当に沁みついているような感覚です。体の血と肉となって流れているというか。さすがに子どもの頃から劇伴作曲家になろうとしていたわけではないですが、今思うと不思議ですよね」と語る。
遠野吠のテーマはマカロニ・ウェスタン

現在放送中の「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」では、放送開始の時点で、およそ70曲を作曲。その中から劇伴23曲にOP&EDのTVサイズ、挿入歌「愛が正義」のショートサイズを加えた「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー Music Collection vol.1」が各音楽配信サイトで配信されている。
劇中、主人公・遠野吠の場面になると、トランペットやハーモニカによるマカロニ・ウェスタン調の劇伴が流れるのを耳にする機会があると思う。これがいわゆる「遠野吠のテーマ」で、現在は「さすらいの遠野吠」「さすらいの遠野吠(Harmonica ver.) 」の2バージョンを聴くことができる。
「打ち合わせでプロデューサーの松浦大悟さんから『孤高のヒーロー』とお聞きした際に、マカロニタッチのテーマが欲しいという話もあり、それもあって自分にお声がけしたと言われて、何か謎が解けた気がしたんです(笑)」と語るが、沢田でマカロニ・ウェスタンといえば、ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」のテーマである。
「僕はマカロニ専門じゃないですし(笑)、『ドクターX』の場合はとても苦労しました。監督の田村直己さんもこだわりの強い方ですし、マカロニ・ウェスタンは、汗臭い男のドラマですよね。でも、『ドクターX』は米倉涼子さんが主演なので、熱苦しい曲にすると合わない。それで出だしを口笛にしたり、工夫したんですけど、『ゴジュウジャー』では、『むしろ汗臭くて構わない』ということで、トランペットやハーモニカといったマカロニでは定番の楽器も遠慮なく使えたし、思い切って書くことができました」
現在のスーパー戦隊シリーズはかつてと異なり、主題歌と劇伴を異なる作曲家が手掛けていることもあり、劇伴においても独自のメインテーマが設定されている。配信中の 「Music Collection vol.1」では「我らナンバーワン戦隊!」「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー!」の2曲が、同じ旋律を用いたメインテーマのバリエーションとなるが、とりわけ毎回の応援空間で流れる後者は、「ドン・ドン・ドンドンドン」の応援のリズムと共にとりわけ深い印象を残している。だが、このイメージを掴むまでは苦労したという。
「最初は『野球の応援のような音楽だ』と言われてデモを作ったのですが、『どうも違う』との話で何回かやりとりを重ねました。松浦プロデューサーをはじめ、番組スタッフも音楽プランをどうするか悩まれていたと思いますが、そんな中、助け船を出してくださったのが、番組の音楽ディレクターの穴井健太郎さん(日本コロムビア)でした。穴井さんがおっしゃったのは『これは応援じゃなくて、むしろヒーローの名乗りの曲ではないですか?』と。要は通常の名乗りのカッコイイ曲に手拍子が入るイメージで、それを聞いた瞬間、『なるほど!』と見えたのですが、そこに行き着くまでが本当に大変でした」
作曲の時点では、当然、映像は出来上がってないわけだが、「劇伴では往々にしてそうしたことがあるわけで、そこでお互いキャッチボールを楽しめないと、この仕事は務まらないです」と語り、実際の応援空間の映像については「ちょっとサイケでスラップスティックな要素もあるし、爆笑しました」と感想を述べ、メイン監督の田崎竜太(崎=たつさきが正式)については、「本当にチャレンジャーで、こうしたアイデアを実にアグレッシブに入れてこられる方です」と評した。
5体のテガソードを音楽で表現
本作ではテガソードの活躍にも力が入れられており、音楽についてもこだわりが詰まっている。「第1話冒頭のユニバース大戦からロボ推しが伝わってきましたが、打ち合わせの時点から松浦プロデューサーが『今回はロボットものであることを印象付けたい』と言われていて、とにかくヤル気を感じたので、無敵のスーパーロボットみたいな曲を書こうと思いました。それで用意したのが『テガソード大バトル!』です。これはとにかくトランペットづくし、ひたすらブラスセクションを炸裂させています」
また設定では、巨神テガソードに5人がそれぞれのリングをセットすることで、テガソードレッド、テガソードイエロー、テガソードブルー、テガソードグリーン、テガソードブラックと5体のロボになるが、音楽も同様に「テガソード大バトル!」は共通で、イントロ部分にテガソードレッド用の「テガソードの召喚(Type A)」をはじめ、各テーマが用意されており、同じキーで2つの曲が繋がるようになっている。
「このアイデアもまた面白いですよね。それぞれ15秒くらいで、王道のテガソードレッドに、テガソードイエローは恐竜モチーフなのでバーバリックなイメージ、テガソードブルーはライオンなのでサバンナ風、テガソードグリーンは飛翔感、テガソードブラックは唯一女性メンバーなので、華麗なヒロインものの変身をイメージしてみました」と語っており、各人のテガソードの召喚シーンの際に聴き比べてみると、楽曲毎の違いを感じるはずだ。
音楽メニューには敵側のノーワンのテーマも含まれており、ブライダン城をイメージしたメインテーマを核とし、「Music Collection vol.1」では同じモチーフを使った「異世界からの侵略者」を聴くことができる。
「これはちょっと気を使いました。敵はウエディング軍団で女王様は(指輪)と婿を欲している設定ですよね。実際の映像でも想像していたよりも明るい雰囲気だったし、秘密結社みたいなダークネスではなくて、基本ハッピーな雰囲気に包まれている人たちなんです。だから暗く重たい感じは避けたい。だけど、ハッピーな雰囲気を推し過ぎても敵のテーマにならない(笑)。メニューには『悪の結婚行進曲』と書いてあって、マイナーな結婚行進曲ってわけでもないし、葬送行進曲でもないし、そこは自分でもちょっと捻ったつもりです」
いずれの曲も映像と共に印象に残っており、とりわけ上記のような主要な楽曲については記憶に残るメロディも不可欠だが、作曲する上では特に悩むことはないと語る。それについては「フレーズは8小節ですが、動機は2小節ですよね。普通、4~6小節聴けば、なんとなくメロディが感じられると思いますが、劇伴では特に頭の2小節が重要なんです。たとえば映画『スター・ウォーズ』の『インペリアル・マーチ』も頭の2小節を聴いただけで『ダース・ベイダーだ!』となるでしょう。『ハリー・ポッター』も頭のチェレスタで、パッとあの世界が広がる。やっぱりジョン・ウィリアムズは非常に上手いですよね。なかなかあの域には及ばないですが、頭の2小節で印象に残るようなものにしたい、というのは常に意識しています」と語る。
子ども番組の音楽は「贅沢なお子様ランチ」

本作ではキャラソンも話題を集めており、現在5人中、3曲が明らかになっているが、沢田はそのうち、第2話で使われた「テガソード讃歌」の作編曲を手掛けている。「台本を読んだら『グランドピアノを担ぐ』と書いてあって、どういう意味か分からなかったんです(笑)。『ピアノっぽいものを担いでくるということですよね?』と訊いたら、田崎監督が『本当に担ぎます』って。オンエアを観るまで全く想像が付かなかったです」とスーパー戦隊シリーズが持つ豊かなイマジネーションに驚かされたという。また「ゴジュウジャー」で最初に書いたのが、実はこの曲であった。
「撮影で使う都合上、『なるべく急いでください』と最初に書きました。実は撮影で必要だったのは8小節くらいで、当初は『EX-2』という番号で発注いただいたのですが、途中で『せっかくだから』とキャラソンにすることが決まりました。曲としてはあくまで劇中で流れる音楽なので、それほど自己主張したつもりはないですが、脚本家の井上亜樹子さんの歌詩もとても良かったし、神田聖司くん(ゴジュウティラノ/暴神竜儀役)の声も素晴らしくて、いい曲に仕上がりました」と自負する。
歌もので言えば、音楽メニューにはオープニング・テーマ「WINNER!ゴジュウジャー!」のアレンジ曲も含まれており、マーチ調にオーケストラアレンジした「足並み揃えてゴジュウジャー」をはじめ、既に劇中で流れているものも含めて数曲が用意されている。それらのアレンジを通じて接した、主題歌の印象についても訊いてみた。
「『WINNER!ゴジュウジャー!』はお世辞でも何でもなくいい曲ですね。非常にキャッチーで一度聴いただけですぐに覚えられるし、リズムの心地良さ、Aメロ~Bメロへの転調も含めたメリハリが聴いていてすごく気持ちいい。以前はテレビドラマでも主題歌をインストにして扱う機会がけっこうあったのですが、やっぱりやりやすい曲とやり難い曲がある中、やりやすい曲は、いい曲なんです。『WINNER!ゴジュウジャー!』も、Aメロを生かしたコミカル曲、サビからはじめた心情曲とか、いくつかありますが、いい曲だからどこを切っても上手くアレンジすることができました」
沢田はスーパー戦隊シリーズと同じく、子ども番組のビックタイトルである「ドラえもん」の音楽も手掛けている。作曲家の立場として、子どもに向けて意識している点はあるのだろうか?
「子ども番組って、お子さんを飽きさせないように音楽が多いんです。これが大人向けドラマだと、そもそも曲自体が少ないし、同じフレーズの繰り返しでやったほうがストーリーに没頭できるのですが、お子さんの場合、アクションだけとか印象で観ますよね。ですから、音楽においても、多彩な楽器を使ったり、なるべく変化を付けるように意識しました。要はお子様ランチと一緒です。お子様ランチは具材が多いから、けっこうコスパがかかっている、なんて言うじゃないですか。それと同じで、『ゴジュウジャー』の音楽には、贅沢にいろいろなものが詰まっています」と自身が音楽に込めた想いを述べた。(取材・文:トヨタトモヒサ)
「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」
最高最強のナンバーワンを目指し、子どもたちに圧倒的な人気を誇る動物や恐竜=獣(けもの・ジュウ)をモチーフにした5人のヒーローが活躍する物語。脚本は「仮面ライダーガッチャード」の井上亜樹子、演出は「仮面ライダーガッチャード」「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」などの田崎竜太が担当する。
「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」テレビ朝日系にて毎週日曜午前9時30分~放送中