「ばけばけ」トキに提示された破格の報酬 制作統括が語るセンシティブな表現との向き合い方

連続テレビ小説「ばけばけ」(NHK総合・月~土、午前8時~ほか ※土曜は1週間の振り返り)の第6週では、ヒロイン・松野トキ(高石あかり※高=はしごだか)が、松江に上陸したヘブン(トミー・バストウ)の女中となる誘いに揺れる姿が印象的に描かれた。制作統括を務める橋爪國臣が、センシティブな洋妾(ラシャメン)の概念を朝ドラに盛り込んだ意図や経緯について語った。
【画像】女中が決まらない…イライラするヘブン(トミー・バストウ)
連続テレビ小説の第113作「ばけばけ」は、松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々をフィクションとして描く。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語。
ヘブンはトキを女中として雇うにあたり、当時としては破格の報酬である「20円」を提示する。この時代における「20円の価値」を説明するため、劇中では、さりげなく当時の物価を紹介するセリフのやり取りが盛り込まれていた。橋爪は「困窮している時期を描くわけですから、困窮していることがわかるようにしないといけません」とその意図を明かす。
「ドラマで20円と説明しても、当時の価値は誰にもわからないと思います。そういうことをよりリアルに伝えるために、当時の物価を参考にして、他の食料品の値段なども、セリフで話していたりします。おおよそですが、当時の1円は今の3万~4万円くらいの価値だと言われています。20円というと現在の70万~80万円。それだけ月に報酬をもらうと、年収は1千万円近くなります。まさに破格の給料をトキは提示されたのです」
外国人の妾となる=ラシャメンの側面も持った女中の誘いで、トキも周囲もこの誘いを受けるかに揺れる。制作サイドとしてもラシャメンであることを朝ドラの中でどう見せるかには配慮が必要だった。「どっちの意味合いもあるという点で、朝ドラだけに、はっきりと明確にせず、言葉の遣い方などにも気をつけました」
「(脚本の)ふじきみつ彦さんがいろいろと考え、ユーモアを交えて描いてくれたと思います。そこの描き方にはとても気を遣いました」
橋爪はさらに、トキのモデルであるセツがラシャメンとしてハーンの元に入ったという資料はないとも述べ「はっきりとは書かれていませんが、もしかするとラシャメンだったのかもしれないと読み取れる資料もあります。でも、それは(現在の)小泉家(の子孫)が隠したいことでもある。そこにあえて踏み込みました」とこだわりを持って当該シーンを描いたとも紹介。「その時代ならではの苦労がきっとあって、それでも生きていかねばならない。だからこの生き様をそのまま描くことは、ドラマのテーマを伝えるうえで重要だと考えました。(子孫の)小泉凡さんにはそのお話をして、きちんと許可をもらいました。佐野史郎さん(島根県知事・江藤安宗役)からは『攻めたね、これはみんなが今まで隠してきたことだよ』と言われました。しっかりと正面から向き合った第6週でした」と振り返っていた。(取材・文:名鹿祥史)


