綾野剛、常に全力の「演技変態」と吉田恵輔監督が脱帽 芝居を支えるアスリート思考

作品ごとに唯一無二の色を放ち、そのたびに俳優としての新たな“すごみ”を見せてくれる綾野剛。吉田恵輔監督(「吉」はつちよしが正式表記)の最新作『mentor』では、少年時代の龍之介(磯村勇斗)と拓海(末澤誠也)が起こした火事で大切なものを奪われながらも、許すことを自らに課した男・埜本を演じ、優しい笑顔の奥に不穏さをにじませる複雑な人物像を鮮烈に刻みつけた。彼の芝居を目の当たりにした吉田監督は、「綾野さんのようなタイプの役者とは、初めて会った」と驚きを隠さない。感情をむき出しにする動物的な芝居と、演出やカメラに寸分違わず合わせる緻密さ。一見相反する二つを併せ持つ、俳優力。その背景にある「圧倒的な準備」と役に向き合う姿勢について、綾野が明かした。(成田おり枝)
【画像】綾野剛、ヤバすぎるカッコよさ!『mentor』撮りおろし
綾野剛だからこそ生まれた、唯一無二の埜本
15年前の花火遊びでアパートを全焼させたかつての少年二人と、彼らにすべてを奪われながらその人生に寄り添う男による、ヤバすぎる再会と交流を描く本作。火事を起こした罪の意識をアーチェリー競技に打ち込むことで封印し、オリンピック代表を目指す龍之介役を磯村勇斗、少年時代の過ちで失われた年月を取り戻すかのように、前向きな思考にのめり込んでいく拓海を末澤誠也が演じる。綾野は、火事の被害者でありながら、拓海にとって“メンター=指導者、助言者”的な存在となる埜本役を担当した。
埜本は、悲しみや怒りなど複雑に揺れ動く心を笑顔で隠し、強烈な存在感をスクリーンに刻みつける難役だ。吉田監督は「綾野さんとは、いつか一緒にやりたいとずっと思っていた」そうで、「演技力に絶対の信頼があった」と埜本役に抜てきした理由を明かす。
「埜本には、寂しさと切なさと、愛嬌みたいなものがあってほしいなと思っていました。同時に“コイツのことを信じていいのか?”と思わされるようなニュアンスや狂気もほしかった。綾野さんがヤバいヤツを演じると、ガチで怖い感じもありますよね」と切り出した吉田監督は、「それでいてドラマ「オールドルーキー」のようにある種の負け組というか、本当にかわいそうで、綾野さんが悲しい顔をしているとこちらまで悲しくなってしまうような役もいい。その両面を持っているからこそ、埜本役をお願いしたかった」と、日曜劇場「オールドルーキー」で現役を引退したサッカー選手を演じた綾野の姿にも惹かれていたという。脚本も担う吉田監督だが、「埜本役が決まってからは、“綾野剛なら、なんでも料理してくれるだろう”と思って。脚本にもいろいろと手を加えていきました」と、綾野の存在が刺激にもなった。
綾野は、埜本の左耳の上から首元にかけて広がる火傷痕の特殊メイクにも熱心にアイデアを出し、衣装の中日ドラゴンズキャップから覗く白髪混じりのもじゃもじゃヘアは、彼の発案によって生まれたものだという。
綾野は「火傷痕や髪型など、埜本がこの作品にとってどうあるべきかを考え、監督に提案をしていました。そこに“こうでなければ演じることができない”、“役づくりにならない”という観念はひとつもなく、そこで監督が新たな人物造形を求められればどうすればいいかと考えていく。監督とコンセンサスを取りながら、リトライを繰り返していくというイメージです」と常に映画という総合芸術の一部として自身の役割を捉え、作品にとって最良の形を模索し続けた。
動物的なのに、緻密 吉田監督が驚いた俳優力
脚本を読む際には、その作品が発する「匂いを察知する」と語る綾野。「あっという間に読み進めて、“わかった気になれる”脚本だったんです。前に進む力が強いというか。冒頭から、これは“いけいけどんどん”で読んでいい脚本だと思いました」と勢いに惚れ込んだと振り返る。「綾野さんは、独自の言語感がある」(吉田)、「わかりづらいんですよね」(綾野)、「それが心地良くなってくる!」(吉田)と楽しそうに掛け合うなど、終始笑顔がこぼれるインタビューからも二人がいい関係を築いたことが伝わってくる。
さらに吉田監督が「綾野さんのようなタイプの役者とは、初めて会った。言い方は悪いけれど、“演技バカ”と言われる人からさらに踏み込んで、綾野さんは“演技変態”のランクに入っている」と最大級の賛辞と敬意を送ると、綾野は「ありがとうございます」と大笑い。
吉田監督は「俺の中で、役に没頭して演じる動物的なタイプと、計算して頭を使って技術的に演じるタイプって、はっきりと分かれることが多くて。例えば子どものオーディションをしていて、泣く芝居をやってもらうと、『カット』と言っても感情が入り込みすぎて泣き止まない子とかいるじゃない? そういう子って、“ここのセリフはこういう感じで”とお願いしても周りが見えなくなっていたり、同じ芝居をできなかったりする」と説明しながら、「綾野さんは、思い切り感情をたかぶらせて、ものすごく動物的な芝居をしながらも、こちらが“ここでこうしてほしい”と伝えたことには、ビタイチずれずに合わせてくる。カメラの画角からギリギリ外れないようなところにも、ぴったりと合わせてくるんです。“なんなんだ、この人は”と驚きました」と感嘆の声を上げる。
“毎日がオリンピック”芝居を支えるアスリート思考
「ハイブリッドということですか」と、楽しそうに応じた綾野。磯村や末澤も「綾野さん自体が、メンターのよう」と語るなど、後輩たちも彼の俳優としての姿勢に憧れの眼差しを向けているが、一体どのようにしてその力を身につけてきたのだろうか。
綾野は「ただ必死にやっているだけです。それに尽きます」とふわりとほほ笑む。「準備こそ、本番です。圧倒的な準備をするということに尽きます。実際の撮影現場では、ニュートラルで何を求められてもいい状態にしておきます。準備されているベースがあれば、それができる。作品や演じる役に向き合うということは、要するに他者と向き合うということなので」と語り、「とにかく役の一生と向き合う」という姿勢こそが、自身の芝居を支えていると打ち明ける。
そこまでストイックに向き合える原点について尋ねると、綾野は「そういうことを説明できていたら、役者をやっていないかもしれないですね。言葉で説明できないからこそ、お芝居をしています。求めてくれることに対して全力で準備をするというのは、僕にとってとても自然なことです」と回答。 「ひとつ言えるとしたら、アスリート思考なことです」と自己分析しながら、「記録を伸ばしたい。成果ではなく上達するためにはどういう練習をしたらいいかと考えます」と続けると、吉田監督は「それ、わかる気がする。綾野さんを見ていると、アスリートという感じがする。これだけのベテランになっても、毎日がオリンピックみたいな雰囲気を出してくる! 県大会とかじゃない、オリンピック当日!」と評し、これには綾野も破顔。目が離せない役者だという吉田監督に、綾野は「現場では監督が、埜本をすごく好きでいてくれることが伝わってきていました。監督が、埜本を見つめ続けてくれた。それに尽きます」とキャラクターへの愛情と共に、監督への感謝を込めていた。
映画『mentor』は公開中
綾野剛:ヘアメイク・石邑麻由/スタイリスト・佐々木悠介



