映画『汝、星のごとく』キャラクターにテーマカラー 藤井道人監督が挑んだ映像ならではの表現

凪良ゆうのシリーズ累計発行部数200万部を突破する本屋大賞受賞作を横浜流星と広瀬すずのダブル主演で映画化する『汝、星のごとく』(公開中)のメガホンをとった藤井道人監督。京都から瀬戸内のとある島に転校し漫画原作者になる夢を抱く青埜櫂と、島で息苦しさを感じながら大好きな刺繍を仕事にしたいと願う同級生・井上暁海の15年にわたる愛を追うラブストーリーだ。344ページに及ぶ原作を約2時間の映画にするにあたって、どのように原作と向き合ったのか。その裏側を藤井監督が語った。
櫂と暁海の出会いは17歳のときのこと。二人は共に複雑な家庭環境にあり、櫂は幼いころから恋愛体質の母・ほのか(尾野真千子)に振り回され、暁海は父がオートクチュールの刺しゅう作家・瞳子(石田ゆり子)と不倫し、母・志穂(木村佳乃)が情緒不安定。島で好奇の目にさらされるなか、互いに知られたくない家庭事情を共有するうちに、いつしかその絆が愛へと変わっていく。
原作は櫂と暁海の視点の交互で進んでいき、プロローグ、第一章から四章、エピローグの構成であるのに対し、映画は3章の構成。それぞれ異なるカメラで撮影している。
「誤作動の連続ともいうべき10代を描く第1章では、大学時代から共に映画を撮ってきた(撮影監督の)今村(圭佑)と初めてお金を出し合って買ったデジタル一眼レフ『EOS 7D』。青春の粗さを収めるという意味でも、あえて画質の粗いカメラを選びました。僕と暁海、櫂の生きてきた時間が1番シンクロするであろう第2章は、この10年使い慣れた『ALEXA』。第3章は『港のひかり』(2025)で(撮影監督の)木村大作さんから学んだ『35mmフィルム』を使いました」
登場するキャラクターたちの衣装にはテーマカラーを設けたといい、櫂は青、暁海は黄。櫂の親友で漫画作画担当の尚人(松村北斗)は緑。暁海の父の不倫相手である一方で憧れの存在でもある瞳子と、櫂と暁海のメンター的存在となる高校の化学教師・北原(長谷川博己)はアイボリー。
「櫂は瀬戸内の海のような青。暁海に関しては、この小説が女性の選択というか生き方を問う話だなと思っていて、その色って何だろうと考えたときに、黄色がしっくりきました。凛としたイメージだったり、自立心を表す意図があります。尚人のカーキっぽい緑に関しては直感が大きいですが、櫂と並んだ時のバランスを意識しました。北原と瞳子は特に暁海の人生に大きな影響を与える人物ということで、二人とも暁海とシンクロする色を意識していて。例えば、北原の白衣は白ではなくきなりに、瞳子はアイボリーから黄の間ぐらいが比較的多いと思います」
脚本を手掛けたのは、ドラマ「きのう何食べた?」シリーズや来年放送のNHK大河ドラマ「逆賊の幕臣」などの安達奈緒子。脚本開発においては、カットしようとして残したというセリフがあったという。それは、母親から瞳子のもとから父を連れ帰ってほしいと頼まれた暁海が、櫂と共に瞳子宅を訪れるシーン(※原作では暁海が大学に行かせてほしいと父に頼みに行くシーン)での、瞳子のセリフ。脚本の安達にカットを提案した際、残したいと希望があり、その時「ハッとさせられた」という。
「瞳子さんって、小説の中でもすごく不思議な生き方をしている人。自立しているけれども、正しいか正しくないかといったら難しい。凪良先生の念の強いキャラクターだと感じたんです。前半、瞳子が暁海を『あなたは好きに生きていいの』と諭す前に、“そのために私がお金も払うし、あなたはその責任を負うべきじゃない”というようなことを言う。僕としては説教っぽくなってしまうんじゃないかと懸念して“少し喋りすぎではないでしょうか?”とカットを提案した時に、安達先生が“でもこれは聞きたいんです”とおっしゃって。瞳子が“好きに”生きてきた覚悟のようなものは、おそらく凪良先生も安達先生も大事にされていて、同じようにこの言葉を求めている人たちがきっといるはずだとハッとさせられて。自分が聞きたくない言葉をナシにするのは簡単だけど、一度受け入れてみようと思い至った経験は今回が初めてでした」
なお、複数の登場人物が口にしているように原作のキーワードの一つが「正しさ」だが、藤井監督も「正しさと選択の話」だと解釈している。
「北原先生の暁海に対する『正しさって何ですか?』という問いかけと、『選びなさい』という教えは、僕がこの仕事を始めてからずっと体験してきたこと。“この仕事は受けた方がいいのか”“撮るべきなのか”“この表現はこうした方がいいのか”とか。ネットだったりメディアだったり、ある種インスタントに評価や反応が返ってくる昨今においては、どうしても波風が立たないものを選びがち。それは決して間違ってはいないと思うんですけど、自分にしかできない選択とか、自分が正しいと信じられるものって、とどのつまり人だと思うんです。この人が言うのであれば、それを信じる人生を選ぼうとか。そうした選択、あるいは正しさってなんだろうと、観客の皆さんがそれぞれ持ち帰っていただけたらうれしいです」
漫画原作者になる夢に着実に近づいていく櫂に対し、母を見捨てられず生きづらい島でもがきながら自身の道を模索していく暁海には多くが自身を重ね、勇気づけられるはずだ。(取材・文:編集部 石井百合子)



