
ビリー・エリオットは、イギリス北部の炭坑町に生まれ育った少年。時代の大きなうなりのなか、生きていくことに精一杯で、誰もが気力を消耗していた…。実は『フル・モンティ』や『ブラス!』といった昨今のイギリス映画の傑作は、この映画のなかのストライキに揺れる80年代半ばに端を発する「その後」の状況を舞台背景にしている。
ビリーの周りでは、ダンスといえば最も保守的なクラシック・バレエだけ。好きなことを好きなだけという自由や新しいものへ目の向く余裕などない時代だから、バレエに対する偏見もごくあたりまえのことだったのだろう。そんな閉ざされた共同社会に縛られることに、ビリーの魂は息苦しさを感じていた。
この町から出たこともなく、ロンドンがどんなところか息子に教えられない父や、炭坑夫としての父の意志を継ぐことしか見えてない兄への憤り。感情を言葉にすることでは何の変化も起きないことも、ビリーはよくわかっていた。
そんな彼が、バレエという表現手段を知る。あっという間に夢中になる。なぜなら、踊っている間、ビリーは自分に正直になれたから。解放されたい。希望で心を満たしたい。そして、偏見でかたまった社会に向け「僕はバレエに夢中になったんだ!これが僕自身なんだ!」と激しく主張したいという衝動で身体が動き始めた瞬間、その踊りはビリー自身となって爆発したのだ。。
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