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『MW -ムウ-』玉木宏 単独インタビュー

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『MW -ムウ-』玉木宏 単独インタビュー

役者という仕事は自分との戦いであり、満足した時点でストップしてしまう

取材・文:渡邉ひかる 写真:秋山泰彦

日本漫画界の偉人・手塚治虫が放った禁断の傑作を基に、ある事件によって闇へと身を落とした男の復讐(ふくしゅう)劇を描くサスペンス・アクション映画『MW -ムウ-』。テーマの衝撃性ゆえに映像化不可能と見なされてきた従来の懸念をよそに、派手なアクションと先の読めない緊迫感で見せるエンターテインメント大作に仕上がった。本作で、過去の傷にとりつかれて暴走する主人公・結城美智雄を熱演した玉木宏に話を聞いた。

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ずっと前から悪役に挑戦したいと思っていた

玉木宏

Q:手塚治虫さんの原作には過激な描写もあります。どこまでの演技を求められるか、不安はありませんでしたか?

原作を読ませていただいたのは企画が始まった4、5年前のことで、読んですぐに「ぜひ参加させていただきたいです!」と意思を伝えました。描写に関する不安はまったくなかったですし、役者としてやれるところまでやるべきだと感じていました。ただ、多くの要素を含んでいる物語ですから、映像化にあたって原作の要素をすべて盛り込んでしまうと大変なことになる。そういった意味で、「どうなるんだろう?」と思っていましたね。

Q:その後、脚本を読まれた印象は?

映画では、何が善で何が悪かの問いかけに向き合うことがメインになっています。もちろん、原作でも語られているテーマではありますが、その語り方が映画における最善の形になっているんじゃないかと思いました。一方、それ以外の要素に関しては、例えば山田孝之君が演じる賀来神父と結城の関係描写などはにおわせる程度になっていて、原作をご存知の方には軽い目配せになっているし、逆に原作を読んでいない方にとっては「何なんだろう?」と興味をかき立てられる描き方になっています。映画をご覧になった後に原作を読んでいただくのも一つの楽しみ方ですし、そういった原作と映画の関係もいいんじゃないかと思いましたね。

Q:演じられた結城という青年をどう思いましたか?

実は悪役をずっとやりたいと言っていて、そんなときに舞い込んできた企画だったんです。ただ悪役と言いつつも、結城にとっては自分のやっていることが正義。演じる前に彼に対して抱いていた印象と、演じていく上での感覚はだいぶ違いましたね。むしろ、悪役という意識で演じてはいけない部分が多かったです。

Q:復讐(ふくしゅう)心や権力への反抗心に突き動かされている結城には、サディストな面もありますね。

そうですね。結城の心の中には今も16年前の事件があって、彼の行動はすべてそこに起因している。事件にかかわった者たちへの復讐(ふくしゅう)が一つの目標であり、結城はそのために人生を歩んできた。日夜勉強をして、頭もすごく良くなって……。結果、すべてを手のひらで転がすような、自信に満ちあふれた男になったと思うんです。そういった思考が、彼のサディスティックな面につながっているのではないかと僕は考えています。

体脂肪率4パーセントで危機一髪!?

玉木宏

Q:目標や目的のためにすべてをコントロールしたい気持ちは、玉木さん自身の中にもあるものですか?

そうですねえ……、役者である以上はSでもあり、Mでもあり(笑)。目標に向かってコントロールしようとする気持ちは、僕の中にもありますね。僕はいつも役と自分を切り離して考えるので、今回の役に限らずあまり共通点を探すことはないんですけど、「結城のように、大切な人たちを奪われたらどうするだろう?」とは考えました。きっと復讐(ふくしゅう)心は生まれると思います。ただ、結城の生きる世界では法律が正しく機能していないし、彼には失うものも、怖いものもない。現実的に考えると、復讐(ふくしゅう)心が芽生えても理性で抑えなくてはいけないんでしょうね。

Q:コントロールの一環として、結城を演じるにあたって体をしぼられたそうですね。

そうなんです。ただ、そのために自らピンチを招いたりもして……。というのも、貯水池に潜るシーンがあるんですけど、体をしぼった成果で、撮影時の体脂肪が4パーセントしかなかったんですよ。水泳は得意だし、潜ること自体には何の不安もなかったんですけど、いざやってみると体がまったく浮かなくて(笑)。生まれて初めておぼれそうになりました。しかも春先の撮影だったので、水が冷たくて! あれは本当に危機一髪でした。

Q:思わぬところにピンチが潜んでいたんですね(笑)。

ええ。逆にアクション・シーンなどは、撮影したタイのスタッフが優秀だったおかげでスムーズに進みました。僕自身、普段からボクシングやキックボクシングをやっているので、そのための特別なトレーニングを積むこともなく。ただ、アクション部分の脚本のト書きに「電光石火のマーシャツ・アーツ」と書いてあって……。ものすごいト書きだと思いましたね。「どんな動きをすればいいんだろう?」と僕もスタッフもシーンにかかわった全員が悩みました。監督と話し合って、「瞬殺できる雰囲気でいこう!」となったんですけど、瞬殺できる雰囲気の表現も難しいですよね(笑)。

自分のイメージに、いい意味で反発心を持っている

玉木宏

Q:結城には、非情なほど冷静沈着に、素早く相手を倒すイメージがあります。

その通りなんです。少し語弊がありますけど、無機質というか、人間の体温を感じさせない機械的な部分が彼にはある。僕が演じる上でいつも思うのは、今までとは違うイメージを届けたいということ。結城は今までのイメージを壊せるダークな役だと本当に思いますし、そういった意味でも公開が楽しみなんです。

Q:とは言え、多くの人が玉木さんに抱いてきたイメージは、さわやかだと思います。ご自分のイメージとはどう向き合っていますか?

さわやかだと思われるのはうれしいことです。ただ、それも結局は役を通してのイメージによるところが大きいと思いますし、メディアを通してのイメージとは素直に向き合っていますね。その一方、「本当の僕は違うんだぞ」という、いい意味で反発心を常に持つようにしていますから。イメージに頼り過ぎてしまうと、そこから抜け出せなくなる危険性が出てくる。そうすると、役者は新しいものも生み出せなくなってしまいますよね。

Q:本当のご自分は、皆が抱いているイメージとは違うんですね?

違うんです(笑)。

Q:最後に俳優として、30代を目前とした今の心境を教えて下さい。

自分が経験したことのない役に出会えたりすると、まだまだ自分にはパワーが足りないと思うことがあります。役者という仕事は、どこからがスタートでどこがゴールかもわからないし、正解というものも明確にはない。だから、結局は自分との戦いであり、満足した時点でストップしちゃうと思うんです。演技を始めたころは、こんなことを考えもしなかったんですけど、20代後半を迎えている今、そういった思いは一層強まっています。


今年の1月14日に、20代最後の年に突入。俳優としての今に話がおよぶと、「早く30代になりたいんです。30歳が役者として本当のスタートのような気がしていて」と話し、揺れ動く20代の本音をのぞかせた。だからこそ生まれる、演技への情熱と役に対する真摯(しんし)な姿勢が垣間見えた。イメージをかなぐり捨て、ストイックなまでに取り組んだ無類のダークヒーロー、結城というキャラクターを通し、俳優・玉木の思いに触れた気がした。

『MW -ムウ-』は7月4日より全国公開

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