ADVERTISEMENT

第18回 アカデミー・ドキュメンタリー賞選考にもの申す!

LA発! ハリウッド・コンフィデンシャル

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア

あの作品はどこ……?」

ドキュメンタリー作品というのは劇場作品を観てからその次に……といった感じでついつい観忘れてしまったりするのですが、今年公開されたドキュメンタリー作品の中で珍しくメモっておいて観るのを楽しみにしていた作品がありました。それは全米で批評家たちにも大好評だった『ファッションが教えてくれること』(原題:The September Issue)、そしてDVDでレンタルして観た『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』(原題: Anvil! The Story of Anvil)です。

『ファッションが教えてくれること』は、メリル・ストリープが映画『プラダを着た悪魔』で演じた鬼編集長のモデルと言われた、実在のヴォーグ誌カリスマ編集長アナ・ウィンターを追ったドキュメンタリー。かつて外部マスコミ未踏の地といわれていたヴォーグ誌編集部に、映画カメラが初めて潜入! そこでウィンター編集長と共に、とてつもないプレッシャーの真っただ中で活躍する人々の様子を追った作品で、ファッションあるいはエンタメの世界に無縁の人たちが観てもエキサイティングで非常に興味深い良質ドキュメンタリーでした。

そして『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』は、1980年代ヤングなころは人気者だったものの、50代のオヤジになった今では落ちぶれ果てて場末のバーでプレイするようになってしまったヘビメタ・バンドのアンヴィルが、ロック魂を捨て切れず、もうひと花咲かせようという夢を追求する様子を追ったもの。これはヘビメタ・バンドという一見汗くさそうな感じのテーマにもかかわらず、かなり感動的に仕上がっていて個人的に今年イチオシのドキュメンタリーだったのです。

でも、今回のアカデミー賞ノミネーション審査対象に選ばれた15作品中、『ファッションが教えてくれること』『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』のタイトルはどこにも見つかりませんでした。そして、もっと驚いたのは、現在日本でも大人気上映中のマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画『キャピタリズム マネーは踊る』、そしてマイケル・ジャクソン『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』も審査対象に入っていなかったのです!

審査対象ってどうやって選ばれるの?

アカデミー賞への応募については毎年それぞれの部門に長々とした規約があり、それに少しでもかなっていない作品は容赦なく対象外としてはじかれてしまいます。

この規約書はプリントアウトすると5ページもあって読んでいると眠くなっちゃうのですが、中でも重要なポイントといえる2か条があります。

~第82回アカデミー賞ドキュメンタリー審査対象規約 (抜粋)~

● 対象期間以内に、ロサンゼルス、そしてマンハッタンにおいて最低7日間興行を行った作品であること。

● 対象期間は2008年9月1日より2009年8月31日までとする。ただし、作品責任者が映画館側から2009年9月30日までに興行を上記2か所において終了するという法的契約書を確保できれば、その作品のみにおいて対象期間の延長を認める。

この二つに当てはまらないがためにアカデミー賞への応募を泣く泣くあきらめるフィルムメーカーも少なくないのです。マイケル・ジャクソンの『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』も、2009年10月28日まで公開されなかったために審査対象期間に入っておらず、非常に残念ながら今回のオスカー審査対象から外れてしまったわけです。

では、2009年8月28日に公開された『ファッションが教えてくれること』、そして2009年9月23日に公開された『キャピタリズム マネーは踊る』はどうして審査対象作品に選ばれなかったのでしょうか?

審査対象選抜の裏側とその反動って?

第82回アカデミー賞ドキュメンタリー部門で審査規約にかなったものは全部で89作品。ドキュメンタリー部門を受け持つ145名のアカデミーの会員たちは、規約を満たしたすべての作品中少なくとも20作品を鑑賞し、その後シークレット・バロット(秘密投票)で15の作品を選出するという制度が取られています。

さて、もちろん規約OK作品89本すべてがノミネーションの対象になりえないのは当たり前なのですが、問題は今回審査対象に選抜された15作品の中で映画ファンになじみのあるもの、ましてや一般市民に聞き覚えのあるものがどれだけ選出されているのかということです。

アカデミー賞をつかさどる映画芸術科学アカデミーは学術協会です。アカデミーの会員になるには理事長直々の加入招待が必要とされ、世界各国からえりすぐられた映画業界のプロフェッショナル約6,000人から成り立っている映画界のエリート・クラブです。会員は、俳優や映画製作に従事するタイプの人たちから、見識の深い学者タイプや映画学校の教授のようなタイプもいます。1927年に創立されたアカデミーは由緒正しく古い団体にはありがちな、比較的年配のメンバーから成り立っており、そのために好みが保守的な傾向にあるのは否めません。「一般市民の好みに合わなくても、芸術の薫り高き、誉れある作品を選出すればいい」と当然公言はしないものの、絶対多数否定派のメンバーも少なくないようです。そして、その証拠が今回のドキュメンタリー部門審査対象作品の選抜結果といえるのではないでしょうか。

今年審査対象に選ばれた15作品のうち興行収入で50万ドルを得た作品は、『ザ・コーブ』(原題)、『フード・インク』(原題)、『ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』、そして『バレンティノ:ザ・ラスト・エンペラー』(原題)と、たったの4作品しかありません。そして15作品中8作品がアカデミー賞規約通り、ロサンゼルスとニューヨークで1週間ずつの興行を行ったものの、興収が高いという話は聞かず、その数字はかなり低いものと思われます。ただでさえ映画ファンの興味が低いドキュメンタリー部門で、ノミネーション前からこのラインアップでは、一般人の関心をドキュメンタリー部門へ向けることは難しいかもしれません。

外野だって黙っちゃいないぜ!

さて、不条理ともいえるドキュメンタリー部門選抜は今年に始まったことではなかったのでした。1988年度には、映画『ザ・シン・ブルー・ライン』(原題)というテキサス州で無実なのに殺人犯としてで拘束されてしまった男性を扱ったパワフルなドキュメンタリー作品がノミネートされず、アカデミーは周囲から大非難を浴びるという一件がありました。そしてその翌年にはマイケル・ムーア監督の超話題作映画『ロジャー&ミー』がドキュメンタリー部門でノミネーション審査対象作品とならず、44名の著名フィルムメーカーたちが怒ってアカデミー協会に直訴の手紙を送りつけたという事件がありました。さらには1994年、貧困地域の少年たちがプロ・バスケット選手になるまでを追ったドキュメンタリー『フープ・ドリームス』は批評家ならびに一般映画ファンたちから絶賛されたにも関わらず、対象作品選抜から思い切り無視されて、周囲をあぜんとさせました。

今年の選抜の一件についてアカデミーの事務局長であるブルース・デイビス氏が業界紙に語ったところによると、「芸術的価値の高い作品が一般に人気のある作品と同じなら良いのだが、中々そうはいかない」と述べ、現在の選抜方法を弁護したものの、過去に寄せられた批判を考慮し、ここ数年にわたってドキュメンタリー審査対象作品の選抜方法を改定したとも語っています。

『ファッションが教えてくれること』『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』をはじめ、マイク・タイソンのドキュメンタリー『タイソン』(原題)、批評家に絶賛されたドキュメンタリー『イット・マイト・ゲット・ラウド』(原題)の関係者たちはアカデミーのむげな選抜にガックリしているといわれています。

一方で面白いのは、今年ドキュメンタリー興行収入で1位を記録している『キャピタリズム マネーは踊る』のマイケル・ムーア監督で、一番無視されている感があるにもかかわらず、「去年のドキュメンタリー売り上げ1位の『リリギュラス』(原題)が審査に引っ掛からなかったんだから今回の選考漏れに対しても驚かないよ」と語ったとか。

いずれにせよアカデミー会員も人の子。栄えあるアカデミー賞とはいえ、しょせんは人間個人の好みが左右する賞なわけです。だから、関係者も外野もその選抜結果によって世紀末が来るような勢いで一喜一憂するなかれ……ということなのかもしれません。だって、アカデミーに選ばれなくたって素晴らしい作品は素晴らしい作品に変わりなく、その作品を作り上げたということに誇りを持って進んで行けばいいのですから!
(取材・文 神津明美 / Addie・Akemi・Kohzu)

About Addie

高校留学以来ロサンゼルスに在住し、CMやハリウッド映画の製作助手を経て現在に至る。アカデミー賞のレポートや全米ボックスオフィス考など、Yahoo! Japan、シネマトゥデイなどの媒体で執筆中。全米映画協会(MPAA)公認のフォト・ジャーナリスト。

感謝祭が終わったと思ったら、あっという間にクリスマス。また1年が終わっちゃう~!! パニックってます……(笑)。

ADVERTISEMENT
  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT

人気の記事

ADVERTISEMENT

話題の動画

ADVERTISEMENT

最新の映画短評

ADVERTISEMENT