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映画『カラフル』原恵一監督、麻生久美子 単独インタビュー

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映画『カラフル』原恵一監督、麻生久美子 単独インタビュー

念願がかなったのはわたしの方です!

取材・文:鴇田崇 写真:吉岡希鼓斗

直木賞作家・森絵都の同名小説をアニメーション化した映画『カラフル』。自殺した少年・小林真の体に「ホームステイ」することになった「ぼく」が、小林一家の一員として暮らす中で大切なことに気付いていくストーリーは、ファンタジックな入り口ながらも現代社会を映し出すリアルな作品として評判を呼びそうだ。お互いに大ファンだったという映画『クレヨンしんちゃん』シリーズの原恵一監督と真の母親の声を担当した人気実力派女優の麻生久美子に、300人の中学生の前で行われた舞台あいさつ後、映画にまつわるさまざまな話を聞いた。

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逆境に置かれていても、それが永遠に続くわけではない

原恵一監督、麻生久美子

Q:有名な原作の映画化にあたって、どんなことを思いながら作品に取り組まれたのでしょうか?

監督:アニメーションは、どんな世界でも作り出せる自由な世界なので、リアルで現代的な日常を、少ない登場人物で描く本作には向いていないと考える人もいるかもしれない。でも逆に僕はやりがいがあると思えたんです。

麻生:わたしは、主人公の真君の気持ちがよくわかったんです。あそこまでではなかったけれど、わたしもあまり学校が楽しくなかったんです。彼が置かれている状況のように、いろいろ嫌なことが重なって、一日で嫌な思いをたくさんしてしまったら、真のような道を選んでしまう気持ちがわからなくもないと思ったんです。

監督:僕は麻生さんがたくさんの中学生に向かってその話をされたことが強く印象に残っています。

麻生:監督も言われていましたけれど、義務教育の学校のように、同じ人たちと毎日顔を合わせなくてはいけないというのは、特殊な状況なんですよね。

監督:ええ。でもそれがいつまでも続くものではないと、今が嫌な人はそう思ってもいいと思うな。

スタッフはサディスト呼ばわりでした(笑)

原恵一監督、麻生久美子

Q:麻生さんが演じられた真の母は、精神的にやり込められるシチュエーションが多かったですね。

麻生:お母さんの気持ちになると確かにつらかったのですが、すごく不思議なのは、あんなことをされるのに真がかわいく見えて仕方がなかったんです。

監督:もっとひどい言葉を言ってほしいとか?

麻生:そういうことじゃないです(笑)!

Q:真の母を追い込むシーンを生み出したのは原監督で、今回はサディスト的な役割を担ったそうですね。

監督:そうですね。(お母さんを)もっといじめてやると毎日思っていました。

麻生:そうだったんですね。そういうところが監督は面白いですよね(笑)。

監督:スタッフはサディスト呼ばわりでした(笑)。お母さんに対してのイジメがひどすぎるって。

初声優が原監督作品ですから!

原恵一監督、麻生久美子

Q:素晴らしく意気投合されている印象を受けますが、もともとお互い大ファンだったそうですね。

麻生:原監督の映画『クレヨンしんちゃん』シリーズを観て衝撃を受けました。ちょっと違う世界を感じたんです。特に『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』は異質な感じがして、気になっていました。それで原監督に会いたくなってしまって、いろいろと興味がわいていました。

監督:ありがとうございます(笑)。

麻生:ちょっとお話しただけでもブラックなところがあって、そこにも惹(ひ)かれてしまいましたね。

監督:僕は毒を吐くんですよ(笑)。おとなしいタイプなのでとかく誤解されがちですが、かなり毒を吐きますし、腹の中では「あの野郎!」と思うことが結構ある方なんですよ。

麻生:かなり毒を吐きますとか、平然と言ってしまうし、そういうところが面白いです(笑)。

監督:僕も麻生さんのかなり古くからのファンで、『episode 2002 Stereo Future』という映画を映画館で観ました。でもそのころは麻生さんと意識していなくて、とてつもなく気になる人が出てきたなぐらいでした。今回は念願がかないました。

麻生:いえいえ、念願がかなったのはわたしの方です!

監督:麻生さんの出演作、麻生さんという女優の存在は意識して拝見していたんですよ。僕はアニメ畑の人間なので、声も気になるんです。ずっと声もいいなあと思っていました。

麻生:本当ですか! わたし、声に特徴がありすぎるので、たぶん声優の仕事はいただけないと思っていたんですよ。実際、今まで一度もなかったですし。

監督:ラッキーでした(笑)。

麻生:監督に初めてお会いしたときにもお話したんですけど、特徴的過ぎる声が邪魔してしまって、わたしが浮かんできてしまっては良くないじゃないですか。そこは心配でした。それなのに真の母親の声にしか聞こえないと言ってくださって。それですごく救われました。声を掛けていただいたのが原監督だったので、もう本当に舞い上がりましたね。初声優が原監督作品ですから!

監督:僕もうれしかったんですよ。麻生さんの初声優が僕の作品というのがね。聞いた話ですが、原作者の森(絵都)さんは、お母さんの声がイメージに一番近かったと言われていたそうですよ。

麻生:うれし過ぎる! うれし過ぎて何も言えない。わたしのプロフィールの中で記念すべき一行になりました。

せめて仕事ぐらいは勇気を持とうと覚悟した

原恵一監督、麻生久美子

Q:監督は誰もが安心するような物語は不要と思われたそうですが、本作も唯一無二の存在ですね。

監督:『オトナ帝国の逆襲』のときに、今回ばかりはめちゃくちゃけなされると思ったんです。自分としては、クビも覚悟していましたね。そんな心の準備をしたのに、公開されたらそうじゃない反応をいただいた。

Q:観客と刺し違えるような覚悟があったということなんですね。結果的に大絶賛を受けましたね。

監督:結局、作り手が勝手に考えているだけの理屈があって、こうじゃないとお客さんは満足しないという考え方は正しくないと教えてもらったんです。それからは毎回挑戦していかないといけないと思っています。しんどいですけど。だからもう前の状態には戻れないと思っているんです。

麻生:人間は、いろいろなことを経験していくと変わっていくじゃないですか。わたしが昔のお芝居に戻れないのと同じ感覚なのかなと思いました。ただわたしの場合は、原監督のように勇気をもって一歩前に踏み出したということではなかったので、ちょっと感覚として違うのかなと。

監督:いや、同じことですよ。僕だって勇気なんて全然ないですよ。

麻生:でも『オトナ帝国の逆襲』のときに覚悟されたんですよね?

監督:実際、面倒なことから逃げ、見て見ぬふりをすることは誰にでもあると思うんです。でも演出の仕事では、勇気を持たないとなあと。せめてそこくらいはね。実際はヘタレな性格ですけど(笑)。

麻生:そんなことないですって。お仕事が「監督」ですもんね。わたしは一つの歯車を担当している意識があって、映画は監督のもの、という思いが強いんです。だから変な言い方をすると、あまり良くなかったときは、監督の責任になってしまうことがある(笑)。責任の重さは違うような気がして、今話していてそう思いました。

監督:それで実写の監督さんには、よく怒鳴る人がいるんでしょうかね(笑)。

麻生:それは……(笑)。でも、今回の『カラフル』での声優の仕事はとても難しかったのですが、楽しくて仕方がなかったんです。もっともっと声優のお仕事がしたくなっちゃいました!

監督:映画が公開されればオファーが来ますよ。

麻生:どうでしょうか(笑)。

監督:本当にまたお願いしたいです。僕は間が長いんですけど(笑)。

麻生:ありがとうございます。本当に楽しかったです!


原恵一監督、麻生久美子

二人のインタビューは、作品の舞台となった東京・世田谷区等々力にある中学校(原作のモデルではない)で行なわれ、主人公が所属している美術部を連想させる部室で、映画の世界を感じながらの和やかな取材となった。原監督の話からは、何かのマネではなく、受け手にこびるわけでもない、そういうスタンスで撮影した映画こそが、最終的な評価につながっていくということを感じさせられたが、まさに『カラフル』は誰も観たことがないアニメーションに仕上がっている。公開後の熱狂が待ち遠しい一作だ。

映画『カラフル』は8月21日より全国公開

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