第4回 ポーランド、T-モバイル・ニューホライゾン国際映画祭の魅力に迫る!
ぐるっと!世界の映画祭
![ぐるっと! 世界の映画祭 第4回 T-モバイル・ニューホライゾン国際映画祭](https://img.cinematoday.jp/item/v1343040977/640x/A0003435_bg1.jpg)
クシシュトフ・キエシロフスキー、ロマン・ポランスキー、アンジェイ・ワイダといった巨匠を生んだポーランド。第4の都市ウロツワフでは、同国最大級となるT-モバイル・ニューホライゾン国際映画祭が成長中です。第12回大会(7月19日~29日開催)で国際コンペティション部門の審査員を務めた河瀬直美監督がレポートします。
携帯会社がスポンサー
![T-モバイル・ニューホライゾン国際映画祭](https://img.cinematoday.jp/item/v1351072920/640x/A0003435_1.jpg)
東欧の民主化革命の波を受けて、ポーランドの社会主義体制が崩壊したのが1989年。同映画祭は同国に自由の風が吹き始めた2001年にスタートし、作家性の強い作品を中心に上映。2011年は世界44か国から選ばれた483作品が上映され、11万1,000人の観客を動員したという。
![T-モバイル・ニューホライゾン国際映画祭](https://img.cinematoday.jp/item/v1351072907/640x/A0003435_2.jpg)
「T-Mobileという携帯電話会社がメインスポンサーで、街のあちこちにこの会社のロゴ入り旗や看板があります。旧市場広場には海岸を模した特設の浜辺があり、子どもたちが自由に遊べるようになっていて、息子もここでトランポリンをしたり、砂遊びをしたりしました」と河瀬監督。ウロツワフは2016年には欧州文化首都にも指定されており、市を挙げて映画祭をサポートしているようだ。
河瀬監督は審査員で参加
![木曜から日曜まで](https://img.cinematoday.jp/item/v1351072889/640x/A0003435_3.jpg)
同映画祭には、四つのコンペティション部門があり、河瀬監督はメインのニューホライゾン国際コンペティション部門の審査員の一人として参加。夕方から一日2本、計12作品を観賞し「映画を観るだけが仕事だったのでストレスなく、客観的に作品を観賞できて良かった」とのこと。
![ドミンガ・ソトマイヨール](https://img.cinematoday.jp/item/v1351072938/640x/A0003435_4.jpg)
そんな中、河瀬監督らがグランプリに選んだのは、ドミンガ・ソトマイヨール監督『木曜から日曜まで』(チリ・オランダ合作)。今年のロッテルダム国際映画祭でも最高賞を受賞した、チリ出身で弱冠26歳の新人女性監督だ。授賞式では賞金2万ユーロ(日本円で約200万円)とトロフィーが授与された。「これからの監督を支援する意味があるのでしょうね」と河瀬監督は語る。
審査員で議題になったのは……?
![ウロツワフ](https://img.cinematoday.jp/item/v1351072812/640x/A0003435_5.jpg)
河瀬監督は初長編作『萌の朱雀』でカンヌ国際映画祭新人監督賞を受賞したことを契機に国際的に注目されて数多くの映画祭に参加。そして2010年には地元で、なら国際映画祭を立ち上げて理事長を務めている。映画祭における賞の意味を、身をもって体感している一人だ。それだけに映画祭のテーマであるニューホライゾンについて、審査員同士で話し合ったという。
「“新しいこと、新しい人”への称賛を意味するのでしょうが、わたしにとってそれは奇をてらったものを評価するということではなく、むしろ自分のアイデンティティーに基づいた発見を意味するものだと考えました」。『木曜から日曜まで』は東京国際映画祭でも上映されるので、機会があればぜひチェックしたい。
ポーランド料理に薬草酒も堪能
![バルシチ](https://img.cinematoday.jp/item/v1351072715/640x/A0003435_6.jpg)
ポーランド名物の酸味の効いた赤カブのスープ、バルシチやバラのジャムが入ったドーナツであるポンチキ、そして国民酒ともいえる薬草酒ズブロッカもたしなんだという河瀬監督。「薬草酒はわたしにとって悪酔いせず、気持ち良く酔えるものでした」。さまざまな文化が交錯している同市ではギリシャ料理店も多いそうで「イカフライはとにかくおいしいし、サラダは新鮮」と感激しきり。
![河瀬直美](https://img.cinematoday.jp/item/v1351072874/640x/A0003435_7.jpg)
また、自身で畑を耕し、食事に気を付けているという河瀬監督にとって、海外旅行でも日本食は欠かせない。そうめんを湯沸かしポットのお湯で戻して食べるのは、お手軽に楽しめる日本の味。旅慣れた河瀬監督には、まだまだ役に立ちそうな秘技がありそうだ。
6時間かけて負の遺産へ
![アウシュビッツ](https://img.cinematoday.jp/item/v1351072860/640x/A0003435_8.jpg)
ポーランドといえば、第2次大戦中にナチス・ドイツの愚行によって多くのユダヤ人が殺害されたアウシュビッツ強制収容所を忘れてはならない。映画祭が開催されたウロツワフは特急列車が通ってないため、収容所のあるクラクフ郊外までは鈍行で片道6時間。しかし河瀬監督は一日フリーになった時間を利用し、意を決して足を運んだという。
![ビルケナウ](https://img.cinematoday.jp/item/v1351072847/640x/A0003435_9.jpg)
「8歳の息子と訪れるには少し早い気もしましたが、彼は彼なりに感じるものがあったようです。特に『このような悪事を働くのも人間、そしてそれを防ぐことができるのも人間』という元囚人の言葉に対して『僕は防ぎたい』と語っていました」。
若手の育成にも尽力
![T-モバイル・ニューホライゾン国際映画祭](https://img.cinematoday.jp/item/v1351072830/640x/A0003435_10.jpg)
同映画祭ではポーランドの新人発掘も目的としているが、映画祭の活動はそれだけに終わらず、11月13日~18日にはポーランドの若い観客を対象にした「アメリカン映画フェスティバル」を開催。これは米国から映画作りを学ぶ教育の一貫として行われており、4万2,000人の学生が訪れるという。ポーランドが非共産国家となってから23年。EUに加盟してから8年。同映画祭からポーランド映画界のニューウェーブが誕生することを期待したい。
レポート・写真:河瀬直美
編集・文:中山治美