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『アリスのままで』ジュリアン・ムーア 単独インタビュー

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『アリスのままで』ジュリアン・ムーア 単独インタビュー

オスカーを受賞して出演オファーが突然増えた

取材・文:シネマトゥデイ編集部・石井百合子 写真:望月みちか

アカデミー賞で助演女優賞、主演女優賞を合わせて過去4度ノミネートされ、『アリスのままで』で初の主演女優賞に輝いたジュリアン・ムーア。高名な言語学の教授として活躍し、愛する家族と共に人生を謳歌(おうか)していた50歳の女性が若年性アルツハイマー病と診断され、徐々に記憶を失っていく。そんな突然の悲劇に見舞われたヒロインの苦悩、葛藤を鬼気迫る演技で体現したジュリアンが、亡きリチャード・グラツァー監督と共に作り上げた本作への思い、アカデミー賞受賞後の日々を振り返った。

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アカデミー賞を受賞して変わったこと、変わらないこと

ジュリアン・ムーア

Q:本作で見事主演女優賞を獲得されましたが、この役で受賞した理由をどのように考えますか?

なぜかしらね。でも、この映画を観て感動してくれた人が多かったというのは、よくわかったわ。それが絶対に(受賞の)理由の一つだという気はするの。人間について、人間関係について、家族について描いた物語に反応してくれるということを証明したとも思うの。あとは、運の問題もあるわよね。毎年素晴らしい映画はたくさんあって、素晴らしい演技をする俳優、女優もいるけど、一体どうなるのか、わからないものでしょ。だから、わたしは喜ぶことが大事だと思っているの。そして、それを当たり前のことと思わないこと、これからも一生懸命仕事し続けることが大事だと思ったわ。

Q:アカデミー賞を受賞してから生活に劇的な変化はありましたか?

間違いなく脚本(出演オファー)の数は突然増えたけど、何かが大きく変化したとは思えないのよね。だけど面白いのが、自分が本当に何を好きなのかが明確になったこと。オスカーをもらったからといって、突然やりたくなかった役をやりたいと思うようになるわけではない、というね(笑)。結局は、自分のやりたかったことをやり続けるということに気付いたわ。

意味深なタイトルに作品の全てが凝縮

ジュリアン・ムーア

Q:では、ジュリアンさんの女優人生の集大成ともいえる、『アリスのままで』についてお話を伺いたいのですが、まず原題の「STILL ALICE」は非常に意味深なタイトルですね。このタイトルをどのように解釈しましたか?

邦題の意味は、“そのままのアリスが、アリスである”というふうに聞いたんだけど、素晴らしい翻訳だと思ったわ。なぜならこの映画は、その人がその人である理由は何なのか、について描いた作品だと思うから。映画の前半で、まず彼女がどういう人物だったのかを描いた上で、そこから彼女の病気が徐々に悪化し、さまざまなことが起きて変わっていく過程が描かれる。だけど、映画を観ている人たちは、彼女が変わってしまうことで共感しなくなるわけではないと思うの。むしろ、映画の始まりよりも、終わりの方が、彼女により強く共感するんじゃないかしら。つまり、彼女の本質は変わらないままというわけで、それが映画のタイトルが象徴していることだと思うわ。

Q:「がんだったらよかったのに」「わたしがわたしでいられる最後の夏」など、胸を突き刺すようなセリフが印象的でした。つまり、もしもこのような悲劇に見舞われた場合、誰もが心の中で思いながらも口には出せない、デリケートかつ切実なことをアリスはズバリ口にするからです。そういうセリフはためらうことなく言えましたか?

そういうセリフを言うときに一番大事なのは、キャラクターをいかに生き生きと演じるかということ。何かをお手本にして言っているように見えるようではダメなの。例えば、今言った「わたしがわたしでいられる最後の夏かもしれない」というセリフを(夫を演じた)アレック(・ボールドウィン)と撮影したときのことを鮮明に覚えているんだけど、わたしとアレックには、そのシーンでは笑って楽しくありたいというアイデアがあったのよね。自分たちが若いときにはどんな旅行をしたとか、子供が生まれて、どうだったとか楽しかったころを振り返る……。そこから、いきなりシリアスな展開になるのがいいと思ったの。それによって、そのシーンの終わりの、「そんなこと言わないでくれ」という夫の言葉が生きてくる。彼には、妻に起きていることを認めたくないという思いがあるのよね。

Q:思わず誰もが「もしも自分がアリスだったら……?」と考えさせられる普遍的なテーマを扱った物語ですが、アリスが「全ての記憶を失ったとき」を想定した、ある行動について、どのように思われましたか?

そうね……あのシーンはものすごくショッキングでありながら、でもありうると思ったわ。原作にもあるシーンなんだけど、「ああ、まさか……どうなるのかしら……」って、ものすごい緊迫感を持って読んだわ。ただ、彼女の下した決断については、正しいとか共感するということは、わたしの中ではなかったわ。それがこの映画の特徴を示しているとも思うの。つまり、観る人に疑問を投げ掛ける映画だと思うの。自分は何に価値を見いだすのか? 何をより大事に思うのか? とかね。「正しい答え」というのは存在せず、そういうことを考えさせる映画だと思う。

急逝したリチャード・グラツァー監督との思い出

ジュリアン・ムーア

Q:リチャード・グラツァー監督は惜しくもアカデミー賞授賞式直後に亡くなり、本作が遺作となりました。

ものすごく急なことだったから、本当にショックだったわ。彼の最後の1年というのは本当に大変だったと思うの。ALS(筋萎縮性側硬化症)は本当に大変な病気だから。忘れられないのは、彼が人生において肉体的に最も困難なときに、クリエイティブな面においては、最も充実した年を迎えていたということ。だからものすごく興味深い旅だったと思う。彼は偉大なる友人であり、偉大なるコラボレーターであり、そして生きることを美しいこととして受け止め、そこに喜びを感じられる人だったと思う。頭が切れて、明確で、コミュニケーション能力にたけていて、しかも声を失っても、iPadでそれをやってのけたのよ。それは、この映画の中で感じてもらえると思うわ。ある種の緊迫感があると思うし、生きるとはどういうことなのか、今ここに存在することの意味を感じると思うの。

Q:最もテイクを重ねたシーンを教えてください。特にアリスの認知症の介護会議でのスピーチは名シーンでしたね。

あのシーンは、最初に脚本を読んだときはしっくりこなくて、脚本を書き直してもらったの。3回目の改稿が「完璧だわ!」と思ったんだけど、それはリチャードが書いたものだったの。だから、わたしの役をリアルにしてくれたのは彼なんだと思うわ。あと、この映画は低予算でとにかく時間がなかったから、何があっても3テイク以上はできなかったの。大きな照明機材もなくて、それが一番大変だったわ。だから日が落ちてしまったら、屋内のシーンは撮影できないという具合で。

Q:最後に、女優としてのモチベーションを維持するために心掛けているトレーニングや食事療法、ケアについてお聞かせください。

アシュタンガヨガをやるわ。すごくハードだから毎日はできないんだけど、ヨガをすることで頭がすっきりとするから好きなの。体にも良いでしょ。それから食べ物についても、可能な限りヘルシーな物を食べるようにしているわ。たまに、体に悪い物も食べちゃったりするけど(笑)。それからわたしには素晴らしい家族がいて、彼らが人生のバランスを保ってくれていると思うわ。


ジュリアン・ムーア

『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(2014)では情緒不安定な落ち目の女優を怪演して第67回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞するなど、驚くべき演技の振り幅を持つジュリアン。『めぐりあう時間たち』(2002)、『キッズ・オールライト』(2010)など作品に恵まれながらも、オスカー受賞には至らなかった彼女のキャリアがようやく実を結んだ『アリスのままで』は、彼女の才能、カリスマ性を目の当たりにする悲しくも優しい人生賛歌となっている。

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映画『アリスのままで』は6月27日より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開

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