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水谷豊監督&岸部一徳
『TAP -THE LAST SHOW-』
水谷さんに俳優最後の姿を見てほしい
『TAP -THE LAST SHOW-』水谷豊監督&岸部一徳 単独インタビュー

取材・文:高山亜紀 写真:尾藤能暢

『TAP -THE LAST SHOW-』でついに監督デビューを果たした水谷豊。ショービズ界の光と影、成功と挫折を描いた物語は、水谷が40年間温めてきた企画でもある。今作では伝説の元タップダンサー、渡役として主演も兼任。渡のよき理解者である盟友・毛利には、「相棒」シリーズでも息の合った掛け合いを見せた岸部一徳がキャスティングされた。私生活でも信頼できる数少ない友人同士だという二人が、作品、監督、自分たちの関係について語り合った。

■これまで監督をしなかった理由

Q:初監督作とは、意外でした。なぜこれまでやらなかったのでしょうか。

水谷豊監督(以下、水谷監督):監督をするチャンスはこれまで何度かあったんです。でも何か、俳優・水谷豊の名前があるおかげで、監督を一度やって終わりというのでは、監督を目指しているほかの人たちに失礼だという思いがありました。もしやるなら、ずっと続けるという覚悟がなければできない。それが今まで、できなかった理由です。今回やったということは、もう覚悟したということになります。

岸部一徳(以下、岸部):僕は全然、違和感はなかったです。内容も聞いていたので、監督すると聞いて「あ、やるんだ」という感覚でしたね。

Q:水谷さんの監督姿はどう映りましたか。

岸部:60歳を過ぎていることは、意外と大きいんですよ。その分、俳優として経験をいっぱい積んできている。いろんな監督と組んで、キャメラマンとも出会って撮り方も見て、こういうふうにまとめていくんだという編集の仕方も知っている。意識しなくても、自分の中に蓄積していると僕は思うんです。普通なら、そこをなぞるようなことをするでしょう。それが一切、なかった。「こういうカット割りで、こうまとめるだろう」という、どこか漠然とあったものが、いい意味で裏切られた。自分の感性で「こうしたい」という、新しいものがどんどん出てくる。「ああ、水谷さんは新しいな」と日々感じていました。客観的にまったく新しい監督が誕生したと思っています。

水谷監督:俳優の時は基本的に、監督がどういうふうにやりたいのかということを思い、いち早く理解して、自分のイメージを合わせていきます。監督となると、まずはスタッフも含めてすべてを動かしていかなければならない。果たして、みんな僕についてきてくれるのか。クランクイン前は、そんなことばかり思っていました。俳優の時には考えなかったことですね。

■正直な映画だけに、本音がポロリ!?

Q:監督をすることで、俳優業に対する心境の変化などはありましたか?

水谷監督:自分の俳優業に対する思いというのはこれまでと変わりませんが、やはり俳優だけやっている時には見えないものが、監督をやることによって見えてくるというのはあります。今回はロケハン、スタッフとミーティング、各セクションとの打ち合わせなど、さまざまな初めてのことを経験しました。

岸部:水谷さんは、「ついてこい」というより、どんどん先に行ってしまう。いきなり試されるような現場ですから、スタッフはきっと大変だったと思います(笑)。

水谷監督:いやいや、正直な映画だけに、つい本当のことをぽろっと言ってしまいますが(笑)、ラストシーンのセリフにつきますよ。「どうだったショーは?」「俺が語ることはない。ショーがすべてを語る」。ほんと、そうなんですよ。僕らは作品を知ってもらうためにこうやって取材を受けていますが、本来は作品がすべてを語ってくれると思っています。作品以上に語れることはありません。

岸部:水谷さんって、見た目はこんなふうに優しい感じの俳優なんですが、実は怖いんです(笑)。僕は水谷さんと「相棒」で9年ほど一緒で、二人でやっていると、すごく楽しいんですよ。でも、面白すぎると次第に怖くなってくる。慣れてしまう怖さですね。一度離れて、また新しい出会いがしたくなるんです。そこが大事なところで、そうすることで俳優として、緊張感を持ち続けられるようになるんです。

Q:水谷さんの演じた渡はすさまじい厳しさで若者を育てていきますが、そこにご自身を投影しているようなところはありますか?

水谷監督:ショーを見ているお客さんを向こう側の世界に連れて行きたい。そこに行けるかどうかにすべてを賭けている男なんです。あそこまでやらないとそっちには行けない。僕はブロードウェイやロスの劇場などでも体験しましたが、見ている最中に、はっと連れて行かれてしまうんですよ。知らない間に涙が出てきてしまう。それって、裏ではものすごく大変なことをやっていてそこまでのレベルになっているのに、それを一切感じさせない。その時感じた凄さはずっと残っていて、今回それを見せたいという思いがありました。

■意識はしなくても、大事なことを話し合える間柄

Q:作品の「夢みるのは、これからだ。」というキャッチコピーをどうとらえていますか?

水谷監督:まさにこれから作品が公開されるので、本当に夢見るのはこれからだということでしょうか。まだまだ夢は見ていないぞと(笑)。

Q:不安はありますか?

水谷監督:不安はないです。テレビだと視聴率がそうですよね。プロデューサーや局の皆さん、会社の人はすごく気にすると思いますが、僕は基本的にやるだけやって、自分で評価したら、あとは観る方にお任せするしかないと思う。だから、視聴率が悪かったとか、そういうことで不安を感じたりはしないんです。今回もそう。お客さんがどれだけ喜んでくれるか。そりゃ、なるべく多くの方に喜んでもらいたいし、楽しんでほしいと思いますが、その前に自分の評価の方が大事なんです。そこが自分にとっては一番ですね。

岸部:僕は、世の中の人それぞれがみんな夢みたいなものを持っていても、それって、なかなかたどり着かないものだと思うんです。それでも、人は思い続けて、人生は終わっていく。若い時はあんまりそんなこと思わなかったですけど、僕も70代に入ってきて、実感するようになりました。でも、せっかく俳優業を選んだので、これから先の夢みたいなものをもう少し持ち続けて、俳優人生の着地点がどんなものになるかを楽しみにしています。水谷さんには僕の俳優としての最後の自分の姿を見ていてもらいたいですね。彼は厳しいところもありますので、「最後の最後で、あの人、いい加減になっちゃったな」って思われないよう、気を引き締めていきたいです。

Q:すてきな関係ですね。劇中の渡と毛利の友情にも、語らずとも分かり合えるような空気感がありました。

水谷監督:そういったものは、作ろうと思って作り合えるものではないですから、ありがたいですね。普段から冗談を言っている合間に、お互いの本音みたいなものはしゃべっていると思います。だいたいは笑ってしまうような話が多いんですけど、意識はしなくても、ちらちらと大事なことを何か話しているような印象ですね。

岸部:そういう話をできる人がいるかいないかは、大事なことなんです。誰もいないとつまんないですよ。

他人の評価は気にせず、自分の感性で突き進む。監督業でも水谷豊は孤高のアーティストだった。一方、岸部一徳はミュージシャンから転身し、演技派俳優としての道をマイペースで邁進してきた。多才な二人は共通するところも多いのだろう。お互いの才能を認め、尊敬し合いながらも、決して、なあなあの関係にはならず、一定の距離を置いて常に刺激し合ってきた。それは劇中での渡と毛利そのもの。誰もがうらやむ理想の親友同士だ。

(C) 2017 TAP Film Partners

映画『TAP -THE LAST SHOW-』は6月17日より全国公開

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