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美しさに恋する。ジブリ時代から続く米林監督の手描きイズム『メアリと魔女の花』-スタジオポノック取材

『メアリと魔女の花』 - (C)2017「メアリと魔女の花」製作委員会

米林宏昌監督がスタジオジブリを卒業して、初めて手掛けるアニメーション。

 この夏、アニメファンから最も注目を浴びている1本、映画『メアリと魔女の花』(7月8日公開)を制作しているスタジオポノックは、並木道から小さな子供たちの声が聞こえてくる穏やかな場所、東京・武蔵境に位置するビルにひっそりと存在する。スタジオの中に入ると目に映るのは、30台を超えるアニメーターたちのための作業机。CG技術が発達していくアニメ業界の中で、手描きの美しさを追求するスタジオポノックの内部をのぞいてきた。(編集部・井本早紀)

スタジオポノック

 昨年12月に開催された『メアリと魔女の花』製作発表記者会見で、西村義明プロデューサーは「彼(米林監督)のスタジオジブリ人生のすべてを注ぎ込む作品になると思っています」と語っていた。その『メアリ』を作るべくスタジオポノックは、2014年にジブリを退社した西村氏が、2015年4月に設立したアニメーション制作会社。広さはオフィスビルの2階分。意外にコンパクトな場所かと思われるだろうが、このスタジオだけで原画・動画・仕上げ・撮影・美術とアニメーション制作におけるほぼすべての行程が行われている。現在は「仕上げ」作業の真っ最中(取材時6月初旬)で、パソコンを使い彩色作業を行っているスタッフの方々の姿が見受けられた。

ポノック
彩色作業を行うスタッフ

 ここで「あれ、作業はパソコン中心なの?」と思った人もいるかもしれないが、スタジオポノックで制作されている『メアリと魔女の花』は手描き作業がメイン。その要素は、キャラクターたちの背景としてスクリーンに映し出される美術の色彩美にも表れている。『メアリ』は田舎に引っ越してきたヒロイン・メアリが“魔女の花”を見つけたことで物語が動き出すが、彼女が動き回る絵本の挿絵のような世界の背景美術は手作業で描かれている。

思わず見とれてしまう背景の美しさよ……

 それぞれの「背景」の大きさは、作画のレイアウトに合わせたものから大判のものまでさまざま。作業は細やかで間近で見れば見るほど葉っぱ1枚にも色の濃淡が存在し、「緑」だけでも一体何十色存在するのか読み取れないほど。その繊細さゆえに、大きな劇場のスクリーンで映えるが、描き込みすぎない背景を意識しているという。『メアリ』の背景に関しては、世界がうなった背景美術を残していこうと川上量生氏、庵野秀明氏、西村義明プロデューサーによって設立された背景美術スタジオの「でほぎゃらりー」が総力を挙げて参加している。

映画で展開する色鮮やかな世界

『メアリ』においてあらためて米林監督の手描きへの愛が感じられたのは、絵コンテの存在だ。

 今回米林監督はiPadを液晶ペンタブレットとして使う形で、1,282カットもの絵コンテをすべて一人で描いた。そしてこの絵コンテ作業は去年の夏まで続いていたというが、それにはある要因がある。米林監督は絵コンテ作業にも妥協を許さず、非常に細かく描き込んでいるのだ。絵コンテでは一般的に構図や動きがわかる程度に、簡略化して描かれる場合が多いが、米林監督の絵コンテはキャラクターの表情から建物などの背景までもバッチリはっきりとわかる仕様になっている。『思い出のマーニー』時代の絵コンテもだが、米林監督は宮崎駿監督と同じく絵コンテを具体的に描くタイプのようだ。

ポノック
作業に取り組む『メアリ』スタッフ

 対照的に『マーニー』の時よりも作画枚数は圧倒的に多い。予告編だけでも『メアリ』はメアリの髪の毛一つにしてもかなりアグレッシブに動いていることがうかがえるが、今回の作画枚数はなんと約10万枚。『マーニー』の時が約7万5,000枚というのだから、約1.3倍の枚数だ。ピークの作業時には約70名ほどのクリエイターがスタジオポノックに集結し、外部スタッフとも連携を取りながら作業していたというが、それにしても一人当たりの枚数を考えると恐ろしい数である。先ほどの絵コンテ作業のことをふと思い返すと、さまざまな作業に携わっている米林監督の手が腱鞘炎にならなかったか心配になってくる。

机に向かう米林監督

 日本でも3DCGやデジタル作画のアニメーションが台頭してきた中で、新たに手描きのアニメーションスタジオを立ち上げた米林監督と西村プロデューサー。スタジオポノックはまだ産声を上げたばかりだが、その実力はどの大手スタジオにも負けてはいない。スクリーンに『メアリ』の“魔法”がかかる日が待ち遠しい。

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