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神木隆之介からひも解く岩井俊二ワールド

今週のクローズアップ

ラストレター

 『スワロウテイル』『花とアリス』『リップヴァンウィンクルの花嫁』などを手掛けてきた岩井俊二監督の新作『ラストレター』(公開中)で初めて岩井監督作品に出演した神木隆之介。「手紙」「嘘」「勘違い」をキーワードに、2世代の男女の切ない恋の顛末を描く本作で演じたのは、初恋の記憶に囚われる小説家・乙坂鏡史郎の少年時代。子役時代から約20年にわたって国民的な人気俳優として活躍してきた神木の目に、岩井ワールドはどのように映ったのか。岩井監督の撮影現場での忘れがたい体験を語った。(取材・文:編集部 石井百合子)

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>>優しい脚本

『ラストレター』出演依頼を受けたときの第一印象

ラストレター
初恋の相手・鏡史郎と再会するヒロイン・裕里を演じるのは、初主演映画『四月物語』(1998)以来、約21年ぶりに岩井監督と組んだ松たか子

 とてもうれしかったです。台本を読ませていただいて、とても「優しい」印象を受けました。岩井監督の描く人物の繊細な心の動きに引き込まれましたし、リアルかつ少し残酷な描写もあるのですが、全体としては優しく包み込んでくれるような感覚がありました。(同じ事務所に所属する)大先輩の福山雅治さん、“ましゃ兄”の学生時代を演じるということも光栄でしたし、同時にかなりプレッシャーもありました。僕の方が撮影が先だったので福山さんと連絡をとらせていただいて、現在と過去の姿をどのようにつなげていくのか、ということを撮影前にお話しました。

大先輩・福山雅治との会話

ラストレター
作家に成長した鏡史郎役に、福山雅治。神木と二人で一役を演じた

 共通の癖があるといいかもしれない、などと話しました。僕が提案させていただいたのは、例えば恥ずかしい、困ったときなどに見せる鼻をかくしぐさ。あとは、ましゃ兄の写真からほくろの位置がどこにあるのかを調べて、メイクさんにほくろを足していただきました。

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>>初恋の記憶

鏡史郎というキャラクターの解釈

ラストレター
裕里の姉・未咲(広瀬すず)を想う鏡史郎

 監督と少しお話したのが、社交的ではないけれど内に秘めている普通の少年ということでした。ただ、実際に演じてみると、すごくロマンチストにも思えて。まだSNSもなかった時代に、彼は自分から積極的に話しかけるといったことではなくて、手紙という方法を選んだ。逆に手紙って一番恥ずかしいのではないかとも思うんですけど、そうしてアプローチをしていったので、一見おとなしい子なのかなと思いきや、人一倍、夢も幻想も憧れも持っている純粋な男の子なんだなというふうに思いました。

ラストレター
鏡史郎は、未咲にラブレターを送り続けるが……

 初恋の相手から「作家になれる」と言われて、それがうれしくて本当に作家になってしまった。しかも書いたのは一冊だけで、彼女のために書いた本。最大目標がそこだったので、それ以上何を書くというのも見当たらず立ち止まってしまっているんですよね。過去を引きずっている、初恋を思い出にできないまま大人になってしまったという風にも見えると思うんですけど、ロマンチストゆえにそうなったんだろうなというのは、映画を観ていて強く感じました。

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>>現実とフィクションの狭間

初めての岩井組参加

ラストレター
高校時代の裕里役に、新星・森七菜

 現場はすごく穏やかで、夢うつつのような初めての感覚がありました。オンオフのスイッチがなかったように思います。普段は「ヨーイ、ハイ」と声がかかって「よし!」と気合い、スイッチが入るようなところがあるのですが、スイッチがいい感じに入りきらないままお芝居が始まる、というような。実際にその時代にタイムスリップして日常会話をしているようなお芝居が続いて「カット!」と言われて、「そうか、本番だったんだ」と立ち返るような不思議な感覚がありました。緊張しているとしゃべっている人の顔などに視線も決まってしまいますし、次はどういうふうに演じようとか考えがちになるんですけど、いい感じに力が抜けていて柔らかく本番に入っていけたので、見たいところを見て、自由に演じさせていただきました。演じている側として、あんなふうに現実とフィクションの狭間を行き来しているような感覚になったのは初めてでした。それは岩井監督、そしてスタッフの皆さんが僕らが自由に演じられるような環境を作ってくださったおかげだと思います。森七菜ちゃんのナチュラルなお芝居にも助けられました。

岩井監督の演出

 監督に「しゃべり方とか大丈夫ですか?」など確認しながら進めていて、「ここはもう少し大きい声で、ここは小さい声でもいいよ」といったような指示はありましたが、特に細かいと感じることはなかったです。七菜ちゃんを見ていても思ったんですけど、セリフの返しなどに「あの」とか「えっと」とか台本にはない、普段話しているときに出る接続詞のようなものを入れても修正されることはなくて。その時に、岩井監督は映画を撮るのではなくて、登場人物たちの人生の一部を切り取りたいんだな、と思いました。鏡史郎という人を撮りたいんだなと実感しました。楽しかったです。

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>>岩井監督のロマンチストな一面

ラストレター
岩井俊二監督

 シーン以外のお話になるのですが、僕がオールアップするときに声録りをする機会がありまして。場所が音楽室だったのでピアノがあったんですけど、岩井監督が弾いていたんです。ゆっくりとした、オルゴールのような旋律でとても素敵だったので「素敵ですね。何の曲ですか?」と聞いたら「適当、適当。何となく弾いているだけ」とおっしゃっていて。「適当でそんなにすごいクオリティーなんですか!?」と驚いてしまって。録音部の方も「録りたかったな。絶対、映画に使える感じだったのにな」とおっしゃっていたぐらいで。岩井監督は「そんな恥ずかしいよ」と謙遜されていましたけど、やはりすごい感性を持っていらっしゃる方なんだなと。あと撮影現場で岩井監督が「昨日、携帯を水中に落として壊れちゃったんだよね……どうしよう」とこぼしていたらスタッフさんが「いやいや! それすぐ対処した方がいいですって!」と慌てていて。そんなおちゃめな部分もあって、少年のような心も持っていらっしゃるんだろうなと思いました(笑)。

>>手紙

ラブレターを送った経験

ラストレター
鏡史郎と奇妙な文通を始めることになる裕里

 ラブレターではないんですけど中学時代に先輩と文通をしていました。その時、流行っていたんです。ルーズリーフ(綴じるための穴が開いたノート用紙)に書いて、小さく折りたたんで渡していました。「今、●●の授業中です。はー、つまんない」とか、本当にたわいもないことなんですけど。授業中にこっそり返事を書いて、廊下ですれ違ったときに渡したりしていましたね。結局、お付き合いをするとかいうことはなかったですけど、キュンキュンしていました(笑)。

手紙の魅力

ラストレター
手紙だからこそ伝えられることとは……

 文字からその人のことを思い浮かべながら読んでいますし、その人の声で再生されるので、距離を近く感じます。それに字って人柄が出ますよね。事務的な連絡などにはメールが便利ですけど、時に本人と受け取る側の意思疎通ができないデメリットがあるように思います。それこそ、年始に親とメールでやりとりをしていて僕が「わかった」と返事をしたら、「何怒ってるの?」と来たんですよ。僕としては「オッケー、わかったよー」というつもりで送ったんですけど、機嫌が悪いように感じたようで「言い方が冷たい」という話になって揉めてしまいました(笑)。年賀状などもそうですよね。「今年もよろしく」と一言、手書きの文字があるとその手間を感じられますし、文字ってすごく温かいものなんだなとこの映画を観て改めて思いました。

(C) 2020「ラストレター」製作委員会

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>>思い出の岩井作品

Love Letter』(1995)

 中山美穂が、婚約者の死から立ち直れずにいる女性と、婚約者の中学生時代の同級生を一人二役で演じたラブストーリー。神戸在住の渡辺博子(中山)が、亡くなった婚約者・樹がかつて住んでいた小樽=天国に手紙を送ると、返ってくるはずのない返事があり、樹と同姓同名の女性が存在することを知る。博子は女性の樹に中学時代の樹を知りたいと懇願し、奇妙な文通が始まる。豊川悦司が、博子に思いを寄せる秋葉茂を好演。本作は『ラストレター』と「手紙」「勘違い」などのキーワードでリンクしており、中山と豊川が本作でも共演していることも話題に。

 「第一印象として、雪景色の美しさに目を奪われました。雪って顕微鏡で見るとはっきりかたちがあるのですが、空から降ってきて手の上に落ちたらすぐに溶けてしまう。そのはかなさが、個々のキャラクターの思い出とリンクしているような気がして。思い出は消えていくものなので。美しいものってはかないんだなと……。あと豊川悦司さんがかっこよかったです!」

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