間違いなしの神配信映画『ホワイト・ボイス』Amazon Prime Video
神配信映画
押さえておきたい監督編 連載第3回(全7回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回は個性やメッセージ性の強い監督の作風に注目。毎日1作品のレビューをお送りする。
コメディーでありながらも、背筋が寒くなる感覚をたたえるブラックムービー
『ホワイト・ボイス』Amazon Prime Video
上映時間:111分
監督:ブーツ・ライリー
出演:レイキース・スタンフィールド、テッサ・トンプソン、ジャーメイン・ファウラー
ホワイト・ボイス(白人声)って何だ? 要は、白人っぽいトーンや話し方を指すようだが、私生活に何の問題も抱えてない万事快調な声といったニュアンスもあるようで、それは当の白人たちにとっても理想の声であるという。ともかくその声は、どんな相手も軽やかに説得できる魔法の声として、テレアポ界では重宝されているのだとか。そんないささかすっとんきょうでありつつも、ある種の皮肉や批評性を内包した白人声をモチーフとした映画作品……それがこの『ホワイト・ボイス』だ。
テレビドラマ「アトランタ」のダリウス役としてはもちろん、近年はスクリーンで観る機会も多いレイキース・スタンフィールドが演じる本作の主人公カシアスは、現在失業中で家賃も滞納し続けている黒人男性。彼は誰でも雇ってくれるという噂のテレマーケティング会社「リーガルビュー」で働くことになる。仕事内容は、与えられたリストの番号に片っ端から電話して百科事典を売りつける……日本で言うところのテレアポの業務だ。当初まったく契約をとることができなかったカシアスだが、自らの内なる白人声に目覚めてからは次々と契約を締結。パワーコーラーと呼ばれるトップセールスマンとして、みるみる昇進を果たしていく。
しかし、そんな白人声を自在に操りながら出世していくカシアスに、彼の恋人デトロイト(テッサ・トンプソン)や親友サルバドール(ジャーメイン・ファウラー)は困惑を隠しきれない。さらに社内では、謎のアジア人スクイーズ(スティーヴン・ユァン)を中心に、労働組合を作ろうとする動きもある。そんな中、会社でも有数のパワーコーラーとして、別の商品を扱うことを告げられたカシアス。彼が売りさばくのは、軍事力と労働力であるという。どういうことなのか。さらにその一方で、巷を騒がせている企業があった。衣食住完備の終身雇用を実現した「ウォーリーフリー」社だ。その会社が実は自分の最重要顧客であることを知ったカシアスは、ある日その会社の社長(アーミー・ハマー)のパーティーに招かれ……そこで衝撃の事実を知るのだった。
白人声を操る黒人男性が主人公ということから、ともすれば人種問題をメインに扱った作品のようにも思える本作だが、その物語が射程する問題は徐々にスケール感を増してゆき、果ては格差の問題……持たざる者は永遠に搾取され続けるという、アメリカのみならず資本主義諸国の間で深刻化している問題へと行き着くのだった。あまり内容に触れるとその驚天動地の展開の面白さが半減してしまうので、ここではひとつだけ。本作を観終えたあとの気分は、テリー・ギリアムの『未来世紀ブラジル』(1985)に近いものがあった。
そんな驚きの物語を、細部に張り巡らせた小ネタの数々や、時折挟み込まれるミュージックビデオ的な演出によってコミカルに描いた本作の監督を務めたのは、ヒップホップバンド「The Coup」のフロントマンであるブーツ・ライリー。本作の原題である「Sorry To Bother You」(テレアポの常套句である「お忙しいところ失礼いたします」の意)は、彼らが2012年にリリースしたアルバムのタイトルでもあるという。その際に得たアイデアを自ら脚本化して監督した本作。それは、ポン・ジュノ監督作『パラサイト 半地下の家族』同様、コメディーでありながらも、その果てに背筋がゾッと寒くなるような感覚を満たした、実にジャンルレスな秀作となっているのだった。(麦倉正樹)