正義感装って自分のストレスぶつけるってどうなの？
映画たて・よこ・ななめ見！
ジブリで宮崎駿監督の出待ちをしちゃうほど映画大好きな村本大輔と、映画に関しては素人同然の中川パラダイスが、あらゆる角度からブッ飛んだ視点で映画トーク。今回は、第92回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされたポーランド映画。初めて観たポーランド映画は、2人の目にどう映ったのか？ そして中川パラダイスに聖なる犯罪者疑惑が！（取材・文：森田真帆）
今回の映画は、1月15日公開の『聖なる犯罪者』です。
過去を偽り聖職者に成り済ました男の宿命に迫る、実話を基にした人間ドラマ。前科者の主人公が、ひょんなことから別人として生きることになる。『リベリオン ワルシャワ大攻防戦』などのヤン・コマサが監督を務め、バルトシュ・ビィエレニアが主人公を演じ、『夜明けの祈り』などのエリーザ・リチェムブルらが共演。
いい意味でなんの説明もなくて最高！
中川パラダイス（以下、中川）：ラストの意味がわからんかったわ。でもさ、そのラスト以外は、この子がどういう心境なんかなとか、バレるんじゃないかっていうスリル感は面白かった。
村本大輔（以下、村本）：キリスト教の聖職者って、罪を犯した人はなれないの知らなかったわ。罪を許すわけじゃないんかいって。
中川：僕も。お坊さんとかって、昔悪いことしててもなれるのに、キリスト教はダメなんやなって。
村本：面白い映画だよね。フランス映画っぽくもないし、ハリウッドっぽくもないし、さすが東欧の映画って感じで悲しくて暗くて重い。これはなかなか若い子たちには難しいな……。
中川：静かなのにスリリングでした。
村本：オレは好きやったわ。聖なる教会を舞台にしているのに、クスリ、セックス、暴力っていうアウトローな男とのギャップがね。しかもいい意味で、この映画全体的に説明がなさすぎんねん。中川が言っているラストもさ、素晴らしかったよね。神々しかった。自分の好きなように考えてっていうやつやん。日本映画は説明多すぎるのよね。
中川：日本映画はバックボーンまで説明するから、感情移入しやすいんやろな。
主人公がリアルに存在したことが信じられん！
中川：主人公、無茶苦茶するやんって思った。マリファナは吸うし、セックスもする。人間の欲望にちゃんと惑わされ、人を思いやる気持ちもある、人間らしい青年やったね。
村本：なんかパラダイスみたいなやつやったな。昔はめっちゃ悪かったのに、今はかわいらしい帽子かぶって、ファンの人らにもパラ兄と呼ばれ。
中川：たしかにな！ 裏では無茶苦茶不倫してるし。あの人もマリファナ吸って、酒飲んで、女抱いて。いや、僕やん！
村本：そういう意味ではパラも聖なる漫才師よね。
陰湿ないじめを思い出させた村人たちの行動
村本：外では被害者面していた村人が実は……ていうのはショックやったな。気持ちはわかるけどな。
中川：それぞれが正義やと信じ込んでの行動やし、それも怖い。僕も気持ちはわかる。いざ自分がやるかは別として。でも、加害者本人が亡くなっていて、その家族は関係ないやん。それで家族まで被害を受けるっていうのは、加害者の家族がめっちゃ責められるような話やな。
村本：私刑（私的な制裁）は怖いね、本当に。新約聖書にある話で、キリストが娼婦の女性が村人から石投げられるのを見て、「この中で今まで一度も罪を犯したことがない人間のみ石を投げろ」って言ったらみんな石を投げるのをやめるっていうのがあるやん。その後、キリストが石を拾い集めて、娼婦にむかってボコボコに投げて……。
中川：いや、それはないやろ（笑）！
村本：うん、それはないねんけど（笑）。勝手に、いいことしたい、裁きたいっていう気持ちはなんなんやろね。コロナ禍で世直しみたいなのも多い感じやけど、警察くらい訓練受けてるならまだしも、何も訓練受けてない人が裁くのって……どうなんやろね。
中川：自分のストレスをただただぶつけてるだけちゃうのっていう。正義感装ってね。
村本：それこそ自粛警察みたいなさ。最近そんな感じせぇへん？ 昔のナチスドイツの時みたいに、ドイツが悪いのはユダヤのせいだ！ とかアメリカも移民が悪いとか、日本も在日朝鮮人が悪いとか。ほんまは悪いのは自分やのに、あいつらのせいだ！ みたいな。
中川：こんな時期で独演会とかしたら、「なんでお前はライブしてんの？」とかお客さんからクレームとかくるの？
村本：オレが日本各地で独演会をやってる時とかはきてたよ。いつもきてくれてるファンまでが鬼化してまうねん。「誰か死んだらどうするんですか？」とか。でもGo To Travelキャンペーン始まったら、普通にライブくんねん。今の方が前より感染者とかも多いのに、今の方が何も言わんくなるねん。この映画観たらさ、こんな世の中にキリストがいたら何を言うのか、興味あるよね。
罪を憎んで人を憎む!?パラダイスの不倫論
中川：結局人は同じやなと思ったのは、なんか本物の司祭が来て、演説を続けようとした主人公を止めにかかるやん。そのとき、思いっきり手出してたやん。いや、聖職者のくせに、ぶん殴るんかい！ ってなったもん。
村本：罪を憎んで人を憎まずっていうけど、難しいよな。
中川：罪の重さにもよるんやろけど、結局憎むべきは人やろ。例えば嫁が不倫したとしても、僕は嫁が不倫しても気にしないんで、いいわと思ってるからムカつきはしないけど、そこがムカつく人は「お前何してくれてんねん。ほんならプレーステーション5買ったら許したる」みたいな交換条件出して、相手に罪を与えて自分は得をして気持ちを落ち着けるっていう方法を取る人もいるでしょうね。傷つけられた分、何かで返してもらうっていう。
村本：なんの話やねん！ 不倫の話関係ないやろ！ イタリアのでは、ホームレスがパンを盗んだことを最高裁が許したみたいね。彼が空腹なのは理由があると。でも日本だったら、理由は知らんがなっていう。自分がパン取られたみたいな顔するよね。今の日本人にこそ観てもらいたいわ！
※記事内容には個人の意見が含まれています。
『聖なる犯罪者』1月15日公開
映画『聖なる犯罪者』公式サイト
(C) 2019 Aurum Film Bodzak Hickinbotham SPJ.- WFSWalter Film Studio Sp.z o.o.- Wojewodzki Dom Kultury W Rzeszowie - ITI Neovision S.A.- Les Contes Modernes
ウーマンラッシュアワー・プロフィール
2008年に結成された、村本大輔と中川パラダイスによるお笑いコンビ。2011年「ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞受賞、2012年「THE MANZAI 2012」決勝進出、2013年NHK上方漫才コンテスト優勝など数々の賞に輝き、4月に東京進出。「THE MANZAI 2013」で見事優勝し、3代目王者に輝いた。
村本大輔
1980年生まれ。福井県出身。自分でも「ネットに書き込まれるうわさはほとんどが事実です！」と認めている、自称・ゲス野郎芸人。だがその一方で、ジブリ作品やピクサーなどの心温まるアニメが大好きで、映画『あなたへ』で号泣するほどのピュアな一面も持ち合わせる大の映画好き。水産高校に通っていたため（中退）、お魚系や海洋ネタにも意外に詳しい。
中川パラダイス
1981年生まれ。大阪府出身。これまで10回もコンビ解散している村本と唯一トラブルもなくコンビを続けている広い心の持ち主。2012年に入籍し、現在1児の子育てを満喫中のイクメンパパでもある。映画に関しては、「王道なものしか観ない」というフツーレベル。
