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復讐は正しいか否か?独自のひねりと現代への風刺を加えた青春ムービー『リベンジ・スワップ』

厳選オンライン映画

賛否含めて論じる注目の7作品 連載第4回(全7回)

 日本未公開作や配信オリジナル映画、これまでに観る機会が少なかった貴重な作品など、オンラインで鑑賞できる映画の幅が広がっている。この記事では数多くのオンライン映画から、質の良いおススメ作品を独自の視点でセレクト。各ライターが賛否含めて論じる注目の7選として、毎日1作品のレビューをお送りする。

※ご注意 なおこのコンテンツは『リベンジ・スワップ』について、ネタバレが含まれる内容となります。ご注意ください。

リベンジ・スワップ
Netflix映画『リベンジ・スワップ』は独占配信中

『リベンジ・スワップ』Netflix
上映時間:118分
監督:ジェニファー・ケイティン・ロビンソン
出演:カミラ・メンデスマヤ・ホークほか

 10代特有の感情・経験をテーマとした「ティーン映画」は、時代とともに変化し続けている。1990年代はスクールカースト(生徒間のヒエラルキー)を描くコメディーが主流であり、2000年代にもその風潮は受け継がれた。2010年代に入ると進化が求められ、使い古されたスクールカーストの描写は減少。多様なキャラクターの恋愛やシスターフッドといった題材が好評を博し、より深みのあるティーン映画が増えている。

 その代表格でもある『好きだった君へのラブレター』(2018)を観たミレニアル世代の監督・脚本家ジェニファー・ケイティン・ロビンソンは、「自分が観て育った『クルーレス』(1995)や『ハード・キャンディ』(1999)のようなティーンコメディーは、もう作られないのだろうか」という思いがふとよぎったとVarietyで語っている。そんな彼女が『サムワン・グレート ~輝く人に~』(2019)に続く2度目の長編映画監督作として送り出したのが『リベンジ・スワップ』だ。1990~2000年代の青春作品にオマージュを捧げつつ、独自のひねりと現代への風刺を加えた、オリジナリティーあふれるティーン映画となっている。

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リベンジ・スワップ
Netflix映画『リベンジ・スワップ』は独占配信中

 物語の大まかなベースは、パトリシア・ハイスミス原作、アルフレッド・ヒッチコック監督の『見知らぬ乗客』。電車で出会った乗客同士の「交換殺人」というコンセプトを、本作ではタイプの違う女子高生2人の「交換リベンジ」に置き換えている

 舞台はマイアミの名門私立高校。主人公ドレア(カミラ・メンデス)は上層グループの中心的存在で、学校一人気者でお金持ちのマックス(オースティン・エイブラムズ)と交際中。イェール大学に入る夢にも近づき、まさに完璧な生活を送っていた。しかしそんななか、彼女の地位を脅かす事件が発生。マックスのために撮った性的な動画が拡散されてしまうのだ。ドレアはマックスが犯人だと問い詰めるが、彼はしれっと否定。同じグループの親友たちまで彼の味方につき、ドレアは築き上げた地位を失ってしまう

リベンジ・スワップ
Netflix映画『リベンジ・スワップ』は独占配信中

 そんな彼女の新たな友人になるのが、転校生エレノア(マヤ・ホーク)だ。ドレアと対照的に地味で垢ぬけないタイプだが、エレノアもまた好きだった女子に恨みを抱き、2人の間にある種の友情が芽生える。そこでドレアとエレノアは隠れて手を組み、お互いの敵に復讐する計画を企てる……。

 本作は何を隠そう、ティーン映画へのラブレターだ。『ミーン・ガールズ』(2004)さながら転校生に校内派閥を紹介するシーンがあり、『クルーエル・インテンションズ』(1999)のサラ・ミシェル・ゲラーが校長役を演じている。他にも『クルーレス』や『恋のからさわぎ』(1999)、『ヘザース/ベロニカの熱い日』(1989)などさまざまな名作のイースターエッグが満載だ。

リベンジ・スワップ
Netflix映画『リベンジ・スワップ』は独占配信中

 しかし作品の意図は当時のティーンコメディーの復活ではなく、名作に敬意を払いながらその常識を覆すことだ。まず、上記に挙げた作品はいずれも社会的に不利な立場にない白人主人公だったが、ドレアは看護師のシングルマザーに育てられた有色人種の奨学生。夢を叶えるため自力で上り詰めた、いわゆる「セルフメイドウーマン(自力で道を切り拓いた女性)」だ。過去に描かれた典型的な意地悪女子とは異なり、彼女が冷酷になるのは、築き上げた地位を守るための手段である。

 また、学校一人気の男子はかつてピラミッドの頂点だった「ジョック(体育会系)」ではなく、ネイルやアクセサリーなどジェンダーレスな装いを好むマックスだ。かつてのようにスクールカーストを描きつつも、その中身には多様性を重視するZ世代の価値観が反映されている

リベンジ・スワップ
Netflix映画『リベンジ・スワップ』は独占配信中

 さらに本作は、見せかけの反差別行動、男女不平等、インフルエンサー時代のナルシシズムなど、現代における重要なトピックにも言及。なかでも風刺がきいているのは、ドレアの動画流出後、マックスが女性を守るための男子学生同盟を設立するシーンだ。単なるパフォーマンスであることは明らかだが、生徒たちは彼の行動に拍手喝采。金持ちの特権階級であるマックスが形ばかりの女性支援でステータスを保つ姿は、あちこちにトークニズム(形式的な平等主義)が潜む現代社会に通じるものがある。

 そんな彼を「偽意識高い系の女性蔑視野郎」と呼ぶドレアは、本性を暴いてやろうと躍起だ。怒りはどんどん増幅し、やがてコントロール不能になってしまう。確かにマックスは「悪」だが、大胆な方法で復讐しようとするドレアとエレノアが「善」とは言い切れない。2人の行動がエスカレートするにつれ、「こんなことが許されるの?」と疑問を抱くこともしばしば。しかし本作はあえて「主人公」と「悪役」の境界線を曖昧にすることで、ストーリーに大きなツイスト(ひねり)を加えることに成功している。最初は復讐を応援していた視聴者も、やがてそれが正しいのか否かわからなくなってしまうだろう。この感覚を与える仕掛けこそが、本作に圧倒的なオリジナリティーを与えているのだ。

リベンジ・スワップ
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 たとえ善と悪を行き来するキャラクターであっても、「間違った行動」に対する「償い」はきちんと描かれている。これはひと昔前のティーン映画では重視されなかっただろう要素であり、より深みを求める現代の視聴者への配慮が感じとれる。

 キャストは、ドレア役を「リバーデイル」のカミラ・メンデス、エレノア役を「ストレンジャー・シングス 未知の世界」のマヤ・ホークが好演し、2人の息ぴったりな掛け合いがチャーミング。「ユーフォリア/EUPHORIA」のオースティン・エイブラムズや「ゲーム・オブ・スローンズ」のソフィー・ターナーが悪役を演じる意外性にも注目だ。(文・岡島京子、編集協力・今祥枝)

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