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「離婚しようよ」は何が面白い?Netflixで話題

 宮藤官九郎大石静が脚本を担当し、松坂桃李仲里依紗が夫婦役を演じたNetflixシリーズ「離婚しようよ」(独占配信中/全9話)は、Netflix内の「今日のTV番組」で8日間1位(日本)を獲得(7/6時点)し、週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)で10位にランクインするなど国内外でヒット中だ。いったい何が面白いのか? 本作の魅力を5つのパートで分析したい。(文:SYO)

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Netflixの強み「過激性」×「離婚」という題材

 「離婚」をテーマにした作品には、ダスティン・ホフマンメリル・ストリープ共演の名作『クレイマー、クレイマー』から、坂元裕二が脚本を手掛けたドラマ「最高の離婚」やNetflix映画「マリッジ・ストーリー」などがあり、映画・ドラマ史において繰り返し取り上げられてきた人気の題材。直近でいえばセックスレスに悩む夫婦を描いた漫画&ドラマ「あなたがしてくれなくても」にも「離婚」は関わってくる。

 ただ、離婚を描く物語はシリアスな内容になるものも多いなか、「離婚しようよ」においては当初からホームコメディーを謳い、作品の内容はもちろんのことプロモーションにおいても週刊誌風のスクープ的な建付けにするなど、観やすさと明るさ、とりわけ野次馬根性を刺激する風刺テイストが効いている。ドラマ・映画・アニメ・バラエティー問わずNetflixオリジナル作品が得意とする「過激性(スキャンダラス)」を打ち出し、離婚に向けたドタバタ×ドロドロの騒動を(割とブラックな)コメディーテイストで描くという“側(がわ)”の部分で、視聴者の観賞欲を存分に刺激する企画といえる。

 そもそも「離婚しようよ」というタイトル自体、吉田拓郎の名曲「結婚しようよ」にかけた悪ノリ感が漂っており、決してピュアでエモい「いい子ちゃん」なストーリーでないことは明白。全9話×60分前後というボリュームをものともしないとっつきやすさは、本作の大きな武器だ。多くのコンテンツの中からまずユーザーに選ばれ、再生されるための“戦略”が、随所から漂ってくる。

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政治家&芸能人のカップル=スキャンダルの期待

 その「野次馬根性」を強く刺激するのは、本作のカップルが政治家と俳優であるという点。それぞれを通して政界と芸能界のスキャンダラスな裏側も描くことになり、従来の「離婚モノ」以上に攻めた内容が展開する。主人公の大志(松坂桃李)は過去の不倫報道や度重なる失言で炎上しまくりの世襲議員で、その妻・ゆい(仲里依紗)は「お嫁さんにしたい女優No.1」に選ばれる清純派(だが素はなかなかに毒舌)と、キャラクター紹介時点で“事件”が起こりそうな匂いがプンプンしている。

 メインとなるキャラクターを一般人などの身近な人物に設定して視聴者の共感性を煽るのではなく、ある種ユーザーが無責任に“消費”する対象である政治家や芸能人にする計画的な厭らしさーー。「離婚しようよ」はエピソードが進むほどに面白さが増すつくりになっており、作品自体の強度は言うまでもないが、大衆性をしたたかに利用した初期設定の上手さが、本作を成功に導いたカギの一つといえるだろう。

宮藤官九郎×大石静の初タッグ

 ただ、過激性だけでは耳目を集めることはできても多くのサポーターを生むことは難しい。そこで肝要になるのが、クリエイターへの信頼だ。「木更津キャッツアイ」「あまちゃん」「俺の家の話」などを生み出してきた宮藤と、「セカンドバージン」「大恋愛~僕を忘れる君と~」「あのときキスしておけば」の大石という人気脚本家が参加するだけで作品の見ごたえは保証されたようなものだが、両者が往復書簡のような形で共同執筆する斬新なスタイルを敷くことで「どんな仕上がりになるのだろう」と“未知”の部分への好奇心を掻き立てる。

 そうしたこちらの期待以上に本編では宮藤と大石の持ち味が存分に発揮されており、エネルギッシュなギャグ、時にあけすけな夫婦間の“あるある”満載の心理描写、かと思えばトレンディドラマ的なロマンスに社会派ドラマの要素も入ってきて、飽きさせられることがない。

 しかも前述したように、本作はNetflixならではの攻めた物語が展開。第1話の冒頭から女性蔑視にルッキズムといった際どいワードを続けざまに投入し、観ているこっちがヒヤヒヤしてしまうほどの暴れっぷりを見せてくる。人気脚本家たちの安定感と新味の両方を味わえるのだ。

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松坂桃李・仲里依紗ほかキャスト×濃ゆいキャラ

 そして、キャスト陣の躍動も痛快。「ゆとりですがなにか」「あのときキスしておけば」と宮藤&大石作品の両方を経験済みの松坂は、実際にいたらどうしようもない人物なのに物語の中では妙に魅力的というダメ男・大志を軽妙に演じ切っている。不倫がバレた際に流れで土下座するシーンや、周囲を適当に受け流すシーンの表情など、松坂の職人芸が堪能できる。エピソードが進むごとに、政治家として・夫として覚醒していく魅せ方も見事だ。

 松坂が“受け”であれば、“攻め”で魅せるのが仲。大志や周囲に食ってかかる際の有無を言わせぬ圧と、国民的女優の“巫女ちゃん”として「かしこみかしこみ~」と愛想を振りまく際の使い分けが絶妙だ。脇を固めるキャラクター×キャストも猛者ぞろいで、大志の尻拭いに奔走する秘書・早乙女役の尾美としのりのキレ演技や、胡散臭いやり手議員・想田にふんした山本耕史の存在感(なぜか胸筋芸や加山雄三のモノマネも披露)、ルックスと言動がかみ合わない“パチアート”こと自称アーティストの恭二を演じた錦戸亮の「カッコいいのに幼稚」「色気ダダ漏れ」という絶妙なライン……。先に述べたように共感性の高い=推せるキャラからあえて外したところにいる曲者たちが、笑いの起爆剤となっている。

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「夫婦」や「男女」について問う

 ここまで述べてきたように、挑戦的&刺激的な要素に満ちた「離婚しようよ」。基本的にはブラックな要素もありつつコメディー路線なのだが、その根幹には「現代の夫婦像」について問いかけるテーマ性がしっかりと流れている。

 大志とゆいは、大志の母親・峰子(竹下景子)から跡継ぎを生むようにプレッシャーをかけられ、半ばいやいや不妊治療に通っている。男であっても女であっても、政治家一家の子どもであれば将来は決まっていると主張する峰子。彼女の語る夫婦像や「男はこう、女はこう」といった価値観は前時代的で大志とゆいは閉口するが、片やゆいの母・富恵(高島礼子)は未婚だが父親の違う子どもを7人産んでおり、こちらはこちらで合わない。大志の対立議員候補である想田夫妻はおしどり夫婦として知られているが、静かな不協和音が流れてもいる。そして大志とゆいは、離婚するために団結するなかで夫婦の対話を持つように。「離婚しようよ」はさまざまな人物の「夫婦観」を並べることで、視聴者一人ひとりに考える機会を与える。

 そしてまた、夫婦像について考えることは男女について考えることでもある。大志やゆいが周囲から押し付けられるレッテルや、ある身体的な問題を抱える恭二、自ら望んで大志と不倫していたが“被害者”として世渡りをしていこうとする桜子(織田梨沙)といった白でも黒でもないグレーな人物たちを通して、ジェンダー間の格差のない社会には何が足りないのか? を問う踏み込みーー。少なからず議論を呼ぶであろうトピックを取り入れ、ただのホームコメディーに終わっていない点も「離婚しようよ」が果たした大いなる意義であろう。

Netflixシリーズ「離婚しようよ」は配信中

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