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森山未來、リスペクトで繋がる人間関係「信頼の積み重ねが財産になる」

森山未來
森山未來 - 写真:高野広美

 燃え殻のデビュー作を映画化した『ボクたちはみんな大人になれなかった』で主演を務めた森山未來。普通とは違う人間を目指したものの、何者にもなれなかった主人公を25年の歳月にわたって演じたが、その経験は「自分のなかで経験してきたことを、佐藤というものにあてがっていきながら表現していった」と語る。そんな森山が自身の多感な時期に抱いていた価値観や人との距離感などを振り返った。

森山未來の演じ分けにも注目!『ボクたちはみんな大人になれなかった』本予告映像【動画】

 森山が演じた主人公の佐藤は、一人の女性との出会いと、突然の別れによって心に宿った“痛み”と、ときには向き合いながら、ときには目を背けながら、1990年代半ばから、コロナ禍で時代が一変した2020年までの25年間を過ごす。物語の始まりは1995年。文通相手のかおりと原宿のカフェで会った佐藤は「君は大丈夫だよ。おもしろいもん」と言われ、その言葉を支えにテレビの美術制作会社で懸命に働きながら小説家を目指す。だが、かおりが去り、小説家にもなれなかった彼は、テレビ業界の片隅で働き続けていた。バーテンダーのスー(SUMIRE)や恋人の恵(大島優子)との出会いや別れを経て、気が付けば佐藤は46歳になっていた。

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風の向くまま、根無し草的な生き方

 「僕はいま37歳なので、主人公の佐藤とは実年齢で言うと10年ぐらいの年代の差です。そこはあまり気にせずに、10代・20代はじめの自分自身で選択できる状況ではない時期に、どのように世間を見て、どんな価値観で人と関わってきたかということを、佐藤という人間にあてがっていけばいいのかなと考えながら演じました」

 誰しもが誰かに出会うことで自分を形作っていく。佐藤も21歳のときに文通でかおりと出会い、光り輝く未来に思いを馳せるようになったことで人生が動く。しかし、4年後、突然かおりは佐藤の前から姿を消し、進む道は濃い霧に覆われる。そこでもまた新たな出会いが訪れ、目の前の景色は色合いを変える。

ボクたちはみんな大人になれなかった 森山未來
(C) 2021 C&I entertainment

 佐藤に「あてがった」という森山自身の多感な時期について聞くと「人生を計画的に設計して実行する人もいれば、計画してもその通りいかない人もいる。また最初から計画を立てない人もいる。僕は性格的にあまり計画を立てて動くほうではないので、風の向くまま、根無し草的な感じで過ごしてきた気がします」という。

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 その場で出会った人や、環境によって繋がっていく道のり。佐藤の歩みと符合するところはあったようだが、そんななか「25歳ぐらいのときに、踊ることや身体で表現することをそれまでとは違った角度で考えられるようになってから、自分なりの歩き方が見つけられたような気がします」と振り返る。「踊ることは5歳ぐらいからやっていたので、身体を動かすことへの意識はあったのですが、具体的にコンテンポラリーという概念に出会ってから、大きく変わりました」

一人の人間の25年間を演じるためにしたこと

 森山自身の経験や環境を投影しながら演じた佐藤の25年間。作品を観ると、同じ時期の森山が演じているのか──と驚くほど、年齢ごとの演じ分けがはっきりと見て取れる。「物理的に若返ることはしっかりとやりました。美容液を塗ったり、美容針を打ったり、石膏パックやヒアルロン酸など、ありとあらゆることはし尽くしました。もちろん映像技術にも助けられている部分はあります」。その一方で、ビジュアルだけでは補えない、内面からにじみ出るような変化も芝居に説得力を持たせた。

ボクたちはみんな大人になれなかった 森山未來
(C) 2021 C&I entertainment

 「物理的なものはあくまで見た目の部分であって、やはりその時々の佐藤の精神状態や、環境によって出る変化みたいなものを考えることで、自然と湧きあがってくるものが大切だとは思っていました。あまりテクニカルにやってしまうと鼻につくだろうし、しらけてしまいますからね。その意味では、佐藤を取り巻く人たちが変わっていったので、自然とその人たちと向き合っていけば変化は出るのでは思っていました」と役へのアプローチ方法を語る。

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母からの言葉が、森山の人間関係に大きく影響!?

 その森山に“自分史”のスタートはいつかを尋ねると「自分が経験したことを覚えておくための容量がないんです」と苦笑いを浮かべつつも、1995年に発生した阪神淡路大震災の話を始める。

 「僕は10歳のときに神戸で被災したのですが、幸運なことに僕自身は大きな被害に合わなかったので、記憶としてはそこまで強く残っていないと思っていました。でも2009年にNHKでセミドキュメンタリーの『未来は今』という作品に参加したとき、あのときの地震が自分にとってとても大きなことだったと思い知らされたんです。ただ、“自分史”をそういう経験もあって、どこから始めるのかというのは難しい。あえて言うなら、これまで経験したことすべてが、いまに繋がっているんだと思います」

ボクたちはみんな大人になれなかった 森山未來
写真:高野広美

 はっきりとした目標を定めることなく、そのとき感じたことを大切に過ごしてきた人生。そんな森山は、人間関係に対する考え方も非常にユニークだ。

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 森山は「うちの実家って、ほとんど近所づきあいがなかったんです。ある日気になって母親に聞いたら『付き合いって始めたら始めなきゃいけなくなってしまうから、できるだけ始めたくない』と言うんです」と語ると、この母親の言葉に対して、さまざまなことを思い巡らせたという。

 「この言葉はかなり衝撃的で、それもあってか自分のなかでは『始まったら終わりがきてしまうかもしれないし』と考えるようになりました。佐藤とかおりの関係も、突然終わりがくる。かおりにとっては理由があったのかもしれませんが、佐藤にはワケがわからない。始まらなければ終わることもないですよね。いまこういう仕事をしていると、作品に関わることが人と関わることになるわけです。それはお互いに作品や表現に対するリスペクトで繋がっているという基本がある。そうじゃないところで友だちがいるか、と言われると難しいのですが、逆に言えばリスペクトで繋がる人たちを友だちと呼ぶなら、僕は出会いに恵まれています」

ボクたちはみんな大人になれなかった 森山未來
(C) 2021 C&I entertainment

 続けて「僕は人とグループを作ったり、群れたりすることが本当に苦手なんです。そこには母親の影響があるのかもしれませんが、結局は一人でふらふらしている。でも一人でふらふらしているのも実は辛くて、結局は誰かに見ていてもらいたいという気持ちもあるんですよね」と笑いながら明かす。

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 揺れる思いを吐露する森山だが、一方で最高のパフォーマンスでリスペクトし合えることは、純粋であり誰もが憧れる理想の関係性に思える。「僕らの仕事はアスリートと違って、何をもって評価されるかは定かじゃない。大切なのは人との信頼関係で、その積み重ねが財産になる。繋がりということが人間にとって、最も重要なことかも知れませんね」。(取材・文:磯部正和)

映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』は11月5日よりシネマート新宿、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかにて劇場公開中・Netflixにて全世界配信中

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