山崎賢人が「キングダム」信とシンクロするワケ 「隣ではなく中にいる感覚」
原泰久の漫画を実写映画化した2019年のヒット作の続編『キングダム2 遥かなる大地へ』（7月15日公開）で、前作に続いて主人公の信を演じた山崎賢人（崎はたつさきが正式表記）が、自身のキャリア最大の転機となった本シリーズを通し、役者としての成長の実感を語った。
紀元前の春秋戦国時代の中国。前作で信が後の始皇帝・エイ政（※エイ政のエイは、上に亡、中に口、下左から月、女、迅のつくりが正式表記）による秦の玉座奪還を手助けしてから半年後、続編では隣国・魏との戦いで信が初陣に臨み、天下の大将軍となる夢への第一歩を踏み出す。前作では興行収入57.3億円の大ヒットを受け、山崎自身も「『キングダム』という作品には、見ている人も巻き込んでいくようなパワーが間違いなくある」との反響を実感。作品自体と演者やスタッフの熱量が、観客の熱量とも比例するような作品であるため、続編でもその熱量を大事に撮影に臨んだ。
「ここまでシンプルに真っ直ぐに、嘘臭くなく熱い言葉が伝わるのは、やっぱり『キングダム』の魅力だなと。誰の人生にも当てはまるようなリアルさを感じますし、魂が震えるような、訴えかけてくるものがある。本当に熱量がある作品で、キャラクターも魅力的なので、今回も思いっきり熱量を込めて演じました」
本シリーズでは、撮影前の体づくりやアクションのトレーニングも重要で、前作以降、山崎にとって筋トレが日課となった。前作では、戦災孤児という設定だったこともあり、痩せた細い体にするための減量に苦労したというが、今回は信の成長を心身共に見せるため、細身でも剣を振るための筋肉がついていることや柔軟に動けることを意識した体づくりを目指したという。そして、アクションのトレーニングや撮影現場で共に過ごし、体づくりの相談も行うアクション部のスタッフたちには、「戦いの話でもあるので、アクション部の皆さんはかなり近くでいつも寄り添ってくれる存在。共に過酷な現場を乗り越え、作品を作り上げてきた仲間ですから、一緒に信を作り上げている感じですね」と絆の深さを見せる。
前作でよりアクションが好きになった山崎は、「アクションは練習したものしか出せないから、そのための準備を頑張ろうと思った」とも振り返る。1対1の戦いが多かった前作と違い、続編の舞台は戦場で、馬上での戦いや大人数との戦い、仲間との連携した戦いなど、さらに難易度の高いアクションに挑戦。その中で、アクション部との信頼関係を深め、自身の成長も実感することができたようだ。
「練習してきたからこそ、崩せる部分もある。例えば、前作からご一緒しているアクション監督の下村勇二さんは、僕には知らせないで、わざと相手役の方が切りかかってくるタイミングを少しずらすことで、よりリアルに僕が反応するようにしてみたり。それは基本練習をした上で、自分の癖もわかってくださっているという信頼関係がないとできないことなので、すごく楽しかったです」
他にも馬上で戦うシーンでは、「馬から落ちそうになった時、アクションに慣れていなければ、芝居を止めてしまっていたかもしれませんが、気合いでまたよじ登って落ちずに芝居を続けたら、予定していた動きと違っても、リアルに見えたんです。そういうことも自分の経験値になっていると思います」と着実なスキルアップを感じさせる。
続編の信は、歩兵5人で“伍”という小隊を組み戦場に出る。一兵卒ながら、率先して敵の真っただ中に身を投じ、切り込み隊長のように仲間の進む道を切り拓く姿は、リーダーとしての資質も感じさせる。続編から参加しているキャストが多いこともあり、座長として現場を引っ張る意識があったようだが、特別なことはせず、気さくに皆と交流したという。過酷な現場の中でも明るく、熱意をもって取り組む山崎の姿に、自然に引っ張っていってもらえたように感じたことを、清野菜名ら共演者も語っている。
信を「めちゃめちゃ真っ直ぐな男」と表する山崎は、続編では信の成長段階のようなものは意識して微調整はしたものの、頭で考えこまずとも自然に演じることができたそう。しかし、そんな山崎でも悩む場面があった。それは、敵に追われて逃げ込んだ洞穴で夜を明かすことになった信が、清野演じる仲間の剣士・羌カイ（カイはやまいだれに鬼）から素性を明かされるシーン。原作者の原泰久が考案した映画オリジナルの場面だ。
「羌カイの自分自身を大事にしていないような発言に対して、信が『ふざけんじゃねえ』と熱弁をふるうのですが、リハーサル段階では静かに抑えてセリフを言ったところ、“これは信じゃないな”と。戦場で出会ったばかりの羌カイに、どういう感情で言うべきなのか。それで原先生の込めた思いも知る松橋真三プロデューサーとお話したところ、信のセリフは観客の皆さんが羌カイに信から言ってほしい言葉なんだと気付かされたんです。信は続けて『何だかよくわかんねえけど』とも言っていて、理屈抜きで羌カイに熱量をもってストレートに言えてしまうのは、やっぱり信だからなんだなと」
この場面を演じて、「自分もこうあるべきだなというか、このぐらいのデカい男になりたいなと思いました」と、改めて信に惚れ込んだ様子の山崎。本シリーズは、劇中の信と山崎自身の成長がシンクロしているようにも思えるが、本人も「すごく感じていますし、本当に信と重なる部分が多い」という。長く付き合うことになるかもしれない『キングダム』という作品と信が、山崎にとってどんな存在なのかを問うのはまだ早すぎるだろうが、 最後に「信という役は常に隣に居るような感覚の存在なのか？」と尋ねてみると、「隣には居ないです。（自分の）中に居ます」と断言していた。（取材・文：天本伸一郎）
